石川県選管のツイッター禁止令からの連想

ちょっと引っかかる話題です。まず石川県選挙管理委員会掲示しているインターネットを利用した選挙運動についてを引用します。

 文書やイラスト、写真などを特定の候補者の当選のために不特定または多数の者に配布することは、公職選挙法で特に認められたもの(県議会議員選挙の場合は葉書8,000枚のみ)以外は禁止されています。

 ホームページ、ブログ、電子メール、ツイッターなどは、文書などの配布に該当すると解されていますので、特定の候補者を当選させるために、これらのインターネットを利用した選挙運動を行うことは禁止されています。

 なお、立候補者やその関係者が禁止されるのはもちろんですが、これらと特に関係のない方が行う場合であっても同様に禁止されますので、ご注意ください。

選挙でのネット利用は公職選挙法142条1項に該当するというのが現在の基本的な解釈とされます。

第142条

 衆議院比例代表選出)議員の選挙以外の選挙においては、選挙運動のために使用する文書図画は、次の各号に規定する通常葉書並びに第1号から第3号まで及び第5号から第7号までに規定するビラのほかは、頒布することができない。この場合において、ビラについては、散布することができない。

つまりネットでの書き込みは「選挙運動のために使用する文書図画」に該当するとして、ホームページへの書き込みは禁止されるという解釈です。この解釈による制限は議論はありますが、今でも基本的に守られているように思われます。石川県選管の方針の目新しいところは、

    ホームページ、ブログ、電子メール、ツイッターなどは、文書などの配布に該当すると解されていますので、特定の候補者を当選させるために、これらのインターネットを利用した選挙運動を行うことは禁止されています。
これまで問題にされていたホームページやブログだけでなく、ツイッターまで禁止を明瞭にしている事です。微妙な問題もあるとは思いますが対象者は、
    なお、立候補者やその関係者が禁止されるのはもちろんですが、これらと特に関係のない方が行う場合であっても同様に禁止されますので、ご注意ください。
こりゃ厳しいところです。選挙に関する話題はよほど慎重に行わないと公職選挙法違反に問われそうな感じです。たとえば、
    有権者A:「○○候補はどう思う」
    有権者B:「○○は嫌いだ(好きだ)」
この程度でもアウトかもしれません。なんと言っても電子メイルまで網を被せていますから、うっかり候補者への批判をメイルして発覚したら、公職選挙法違反に問われかねません。「特定の候補者を当選させるために、これらのインターネットを利用した選挙運動」なる定義は投網的ですし、ネットの利用の制限も非常に投網的ですから、選挙期間中は選挙の話題はタブーに近くなります。


「う〜ん」てなところですが、選挙運動の他に政治運動と言う考え方もあるそうです。これはwikipediaからですが、

また2007年参議院選挙では一部の政党は選挙期間中も政党の公式ウェブサイトの更新を継続した。参院選候補者の動向は直接記述せず、党首の動向などを中心に更新を行った(新党日本以外の政党は党首が参院選候補者ではなかった)。

政党は党首の動向などは「選挙運動」には該当しない「政治活動」であるとして、公職選挙法に抵触しないとしている。総務省は「『選挙運動』と『政治活動』を区別する明確な基準はない」とのコメントを出した。今回の事例でも公職選挙法違反としての取締りは行われていない。

これも微妙な解釈なんですが、公職選挙法では候補者への運動の制限は厳しいですが、政党の政治活動は別みたいなものと考えればよいのでしょうか。石川県選管の決定でも選挙活動はダメでも、政治活動ならOKと言う解釈は成立します。○○候補への言及は選挙活動にあたるとしても、○○候補が所属する△△党への政治批判は政治活動にあたるみたいな解釈です。

書きはしましたが、それが公職選挙法に抵触するかどうかは私にはサッパリわかりません。


そうなると微妙になってくるのがマスコミ報道です。これも調べてみればマスコミは別格であるとの規定が公職選挙法にありました。

(選挙放送の番組編集の自由)

第百五十一条の三

 この法律に定めるところの選挙運動の制限に関する規定(第百三十八条の三の規定を除く。)は、日本放送協会又は一般放送事業者が行なう選挙に関する報道又は評論について放送法 の規定に従い放送番組を編集する自由を妨げるものではない。ただし、虚偽の事項を放送し又は事実をゆがめて放送する等表現の自由を濫用して選挙の公正を害してはならない。

(選挙運動放送の制限)

第百五十一条の五

 何人も、この法律に規定する場合を除く外、放送設備(広告放送設備、共同聴取用放送設備その他の有線電気通信設備を含む。)を使用して、選挙運動のために放送をし又は放送をさせることができない。

少々自信が無いのですが、たぶんこの条文に基いてテレビ・ラジオは選挙報道を行なっていると考えられます。テレビやラジオは設備投資や許認可が大変な事業なのでとにかくとして、新聞・雑誌はどうかになります。

第百四十八条

 この法律に定めるところの選挙運動の制限に関する規定(第百三十八条の三の規定を除く。)は、新聞紙(これに類する通信類を含む。以下同じ。)又は雑誌が、選挙に関し、報道及び評論を掲載するの自由を妨げるものではない。但し、虚偽の事項を記載し又は事実を歪曲して記載する等表現の自由を濫用して選挙の公正を害してはならない。

  1. 新聞紙又は雑誌の販売を業とする者は、前項に規定する新聞紙又は雑誌を、通常の方法(選挙運動の期間中及び選挙の当日において、定期購読者以外の者に対して頒布する新聞紙又は雑誌については、有償でする場合に限る。)で頒布し又は都道府県の選挙管理委員会の指定する場所に掲示することができる。
  2. 前二項の規定の適用について新聞紙又は雑誌とは、選挙運動の期間中及び選挙の当日に限り、次に掲げるものをいう。ただし、点字新聞紙については、第一号ロの規定(同号ハ及び第二号中第一号ロに係る部分を含む。)は、適用しない。


    1. 次の条件を具備する新聞紙又は雑誌


        イ 新聞紙にあつては毎月三回以上、雑誌にあつては毎月一回以上、号を逐つて定期に有償頒布するものであること。
        ロ 第三種郵便物の承認のあるものであること。
        ハ 当該選挙の選挙期日の公示又は告示の日前一年(時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙にあつては、六月)以来、イ及びロに該当し、引き続き発行するものであること。


    2. 前号に該当する新聞紙又は雑誌を発行する者が発行する新聞紙又は雑誌で同号イ及びロの条件を具備するもの

新聞や雑誌、とくに雑誌はテレビやラジオに較べると参入しやすい事業です。新聞や雑誌もテレビやラジオと同様に例外規定はあるようですが、選挙報道が可能なのものには必要条件があるのがわかります。

  • イ 新聞紙にあつては毎月三回以上、雑誌にあつては毎月一回以上、号を逐つて定期に有償頒布するものであること。

  • ロ 第三種郵便物の承認のあるものであること。

  • ハ 当該選挙の選挙期日の公示又は告示の日前一年(時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙にあつては、六月)以来、イ及びロに該当し、引き続き発行するものであること。

何が規定してあるかですが、定期的に発行している実績があるものに限られるようです。これは選挙目当てに臨時の新聞や雑誌を作る事による抜け穴防止規定と考えて良いかと思います。ここで問題なのはこの条件が紙媒体に限られるものらしいと言う事です。なぜなら「第三種郵便物」である事が条件となっています。

第三種郵便とは具体的にどんなものかと言うと、第三種郵便物承認条件についてからですが、

  1. 毎年4回以上、号を追って定期に発行するものであること。
  2. 掲載事項の性質上発行の終期を予定し得ないものであること。
  3. 政治、経済、文化その他公共的な事項を報道し、又は論議することを目的とし、あまねく発売(※)されるものであること
  4. 会報、会誌、社報その他団体が発行するもので、その団体又は団体の構成員の消息、意見の交換等を主たる内容とするものでないこと。
  5. 全体の印刷部分に占める広告(法令の規定に基づき掲載されるものを除きます。)の割合が5割以下であること。
  6. 1回の発行部数が500部以上であること。
  7. 1回の発行部数に占める発売部数の割合が8割以上であること。
  8. 定価を付していること。

ここまで引用しなくとも、日本郵便が認可するものですから紙媒体になります。そうなると有料メイルマガジンでは該当しないことになります。フムフムと言うところですが、この規定に合格した新聞社なり雑誌社が選挙に関する情報を掲示できるところも規定されており、

    新聞紙又は雑誌の販売を業とする者は、前項に規定する新聞紙又は雑誌を、通常の方法(選挙運動の期間中及び選挙の当日において、定期購読者以外の者に対して頒布する新聞紙又は雑誌については、有償でする場合に限る。)で頒布し又は都道府県の選挙管理委員会の指定する場所に掲示することができる。
ここはごく簡単に定期購読者やスタンドや書店で販売する事が可能と読み取れます。ひどく気になったのは
    頒布する新聞紙又は雑誌については、有償でする場合に限る
別に変な規定でないのですが、無料で頒布する事は禁じられています。そうなると非常に気になるのは、新聞社サイトが提供している選挙関連の情報です。サイトで提供する事自体は、
    新聞紙(これに類する通信類を含む。以下同じ。)
ここの拡大解釈が可能かも知れませんが、あれを有償の提供と言うのでしょうか。ネット接続は確かに有料ですが、新聞社サイトに有償で情報を買っているわけではありません。料金を払っているのは新聞社にではなくプロバイダです。

さらに気になるのは、

新聞社はネットに掲示する事を都道府県の選挙管理委員会から許可をもらっているのでしょうか。つまり新聞社が選挙情報をサイトで提供すると、
  1. 有償の原則に違反する
  2. 指定する掲示場所に反する可能性
この2つの問題が出てきます。ここも解釈が微妙で、通常の方法の時には有償が条件となっていますが、都道府県指定の掲示場所には有償が条件になっているかどうかは判然としません。

誤解して欲しくないのですが、新聞社が選挙情報をサイトで提供すること自体に反対する気は毛頭ありません。ネットメディアの発達は公職選挙法の規定が出来たものであり、規定にないネットメディアの利用法について、従来の規定であれこれ解釈している状態だと思うからです。新聞社情報のネット提供も、良い意味での拡大解釈で、これを認めているとして問題とは全然思いません。

それとこれだけネットメディアが成長すれば、公職選挙法が改定されるのも必然です。改定時に解釈運用されていた事柄が既定事実として認められるのも良くある事です。杓子定規に解釈すれば新聞社の選挙情報のネット提供も問題が残りそうな気配がありますが、将来の改定・運用を考えるとわざわざ問題視するようなものではないと考えます。


ではでは改定後の問題です。今の政治状況から公職選挙法の改定まで政治の手が回るか疑問ではありますが、改定に当って問題になりそうなのは、選挙報道を許される報道機関の範囲ではないかと思われます。現行の規定はテレビ・ラジオであっても、ネットTVの発達や、動画サイトの問題が出てくると思います。

テレビ・ラジオまで考えると話が広がりすぎるので、新聞・雑誌の問題点は紙媒体の発行条件が出てくるんじゃないかと思います。少なからぬ人の観測は、情報の主戦場は紙媒体からネット媒体に移ると考えています。年数を重ねるほどこの傾向は観測も実際もそうなっていくと考えます。端的なものとして電通の広告費の推移があります。

電通データは集計法の変更があり、集計法がそろっている2005年データからをグラフにして見ます。

見ればそのままなのですが、2009年は総広告費自体が大きく落ち込んでいますが、2010年は微減程度に留まっています。しかし新聞広告費は全体よりさらに低下傾向にあるのがわかります。これに対しネットは2009年に全体が落ち込む中で微増を示して新聞広告費を逆転し、さらに2010年は再び増加傾向を示し、新聞との差を1300億円以上に広げています。

情報産業は民放が典型ですが、広告費の集まるところが栄えます。ネットの広告費は10年、いや5年以内に1兆円を越えても不思議ない状態になっています。そうなれば現在はミドル・メディア程度と評されている純ネット報道機関もさらに成長する可能性があります。しかし紙媒体条件がある限り、選挙報道に参入できない事になります。

ここで難しくなるのは、紙媒体条件が外れたときの限定条件です。ネットメディアの特性として、紙媒体時代のように企業体単位の限定が難しくなりそうな気がします。紙媒体時代は報道する側とこれを受け取る側の区別が明瞭でしたが、ネット媒体ではその境界線が極めて曖昧です。個人単位であっても報道機関になりうるのがネットメディアです。

問題の焦点は個人での報道を果たして規制しうるかと言う事になりそうな気がします。既製メディアは紙媒体条件を死守したいと思うでしょうが、ネットメディア時代に紙媒体条件をどこまで守れるかはかなり疑問です。そうなると方向性としては、情報機関の限定ではなく、情報機関が発信する選挙情報の内容の規制に向わざるを得ないんじゃなないだろうかと思います。


私の予想が当たるかどうかは蓋を開けてのお楽しみです。一つの流れとしては、公職選挙法の改定のカギを握る立法府の動きがあります。立法府といえば大層ですが、議員の中にネット選挙の解禁に賛成する議員が増えている事です。増えていると言っても、考え方は濃淡が様々ですが、基本方向として緩和からさらに解禁の流れが確実にあると見ています。

これは議員自らの選挙に有利であるとの判断だけではなく、良くも悪くも既製マスコミが情報を寡占している状況は好ましくないとの判断もあると考えています。これは従来、既製マスコミの操作だけで世論を誘導できていたのに対し、ネットメディアがこれに必ずしも誘導されないだけではなく、そのネットメディアの動向が、選挙に大きな力を持っている事を感づいているためではないかと考えています。

ネットメディアの影響の増大に対し、封じ込めと活用の2種類の対応がありますが、封じ込めの限界を既製メディアの動きから察してもおかしくありません。もっとも、そんなに直線的に動くかどうかは不明です。少なくとも数年以内の改定なら、まだまだ既製メディアは強大ですから、紙媒体条件も含めて十分な影響力を残したものになるでしょう。しかし、長い目で見ると力関係の変化により、ジリジリと土俵際に押し込まれていくんじゃないかと予想しています。


なんか話があちこちに飛びましたが、「連想」ですから御容赦下さい。そうそう石川県選管の決定ですが、あれは石川県選管の管轄の範囲にのみ影響を及ぼすものでしょうか。それとも全国に影響を及ぼすものなのでしょうか。全国と言っても、私は石川県の選挙の有権者ではないのですが、石川県の選挙の候補者に有利・不利をもたらすような事を書けば問題になるのでしょうか。

公職選挙法も長いのですべてはチェックしきれませんでしたが、仮に石川県選管の範囲にのみ影響を及ぼすものであり、範囲外の人間に問題が生じないとすれば、ちょっと面白い事が生じるかもしれません。ネットは基本的に匿名社会です。石川県選管の規定に反するものが見つかった時に、これが誰を書いたものかを調べる必要があります。

プロバイダに依頼すれば特定可能ではありますが、これが莫大な数になると対応はチト大変かと思います。たしか時事通信に候補者同士の通報を期待するとなっていましたが、接戦になれば大量の情報が提供される可能性もあります。大量の原因として、今回の石川県選管の決定を問題視する人は少なからずいますから、祭りになる危険性もあると言う事です。

そうならない事を祈っておきます。