選挙運動のお話

街宣車の連呼

昨日は日曜と言う事で各候補者が頑張っておられたと思いますが、とにかく昨日は暑かった。暑くてムシムシする中で「○○をヨロシク」しか叫ばない街宣車は正直なところ迷惑なだけの存在です。まあ参議院選挙にしろ、兵庫県知事選挙にしろ選挙区が広い割りに候補者が少ないので、衆議院選挙とか県市議会議員選挙に較べる被害は少ないのですが、それでもターミナル付近には人出を見込んで乗り込んで来られますから「やり過ごす」まで不快指数の上塗りになります。

ところが小耳に挟んだ話では悪名高き街宣車の連呼は、実は連呼しか行ってはならない公職選挙法の規定になっているらしいと聞きました。まさかと思って確認したら本当にそうでした。ただこれは幾ら法律文としても日本語かと思うような晦渋な文章です。だって大前提として禁止になっているものが、実態としてどこか禁止か良くわからなくなっているからです。まず。

第百四十一条の三

 何人も、第百四十一条の規定により選挙運動のために使用される自動車の上においては、選挙運動をすることができない。ただし、停止した自動車の上において選挙運動のための演説をすること及び第百四十条の二第一項ただし書の規定により自動車の上において選挙運動のための連呼行為をすることは、この限りでない。

初っ端が凄くて、

    何人も、第百四十一条の規定により選挙運動のために使用される自動車の上においては、選挙運動をすることができない
どうもなんですが公職選挙法が出来た時には、自動車は候補者の移動手段のためだけに使われるとされていたと解釈する以外にありません。でも実際には連呼はあり、街宣車を止めてクルマの屋根のステージに登り街頭演説を行ったりは日常風景です。それが可能なのは但し書きに許可されています。まず街頭演説は、
    停止した自動車の上において選挙運動のための演説をすること
街宣車が止まっていれば車上で街頭演説を行っても良いわけです。ここも勝手な推測ですが、もともとは候補者が自動車で選挙区内を移動し、クルマから下りて街頭演説する事のみを許可していた趣旨と思われます。街頭演説も路上なりにそのまま立って行うのもありでしょうが、何か台の上に立って行うも当然あるかと存じます。聴衆が多ければ地面に立っただけでは候補者の姿が見えなくなるからです。

そういう演台の利用については「たぶん」規定はないと思われます。高さがある方がやはり好まれるでしょうから、演台として止まった車の上を利用するは発想として出てくるでしょう。たとえばたまたま近くにあったクルマの上に登って街頭演説を行っても良いのなら、乗ってきたクルマの上からやっても実質変わらないの解釈でしょうか。ようわかりません。クルマによる選挙運動は禁止されていますが、この但し書きにより止めさえすれば街頭演説はOKになります。


連呼はさらに複雑で、

    第百四十条の二第一項ただし書の規定により自動車の上において選挙運動のための連呼行為をすることは、この限りでない。
第百四十条の二第一項はどうなっているかと言うと、

第百四十条の二

 何人も、選挙運動のため、連呼行為をすることができない。ただし、演説会場及び街頭演説(演説を含む。)の場所においてする場合並びに午前八時から午後八時までの間に限り、次条の規定により選挙運動のために使用される自動車又は船舶の上においてする場合は、この限りでない。

ここも大前提は

    何人も、選挙運動のため、連呼行為をすることができない
連呼は禁止となっています。ところが二つの例外規定を設けています。
  1. 演説会場及び街頭演説(演説を含む。)の場所においてする場合
  2. 選挙運動のために使用される自動車又は船舶の上においてする場合
演説中は連呼可能のようです。それとウンザリする人が多い街宣車からの連呼はここで許可されています。この規定を読みながらある街宣車の宣伝内容を思いなおしています。どんな感じであったかは記憶に頼りますが、ある街宣車がとりあえず走っています。その時には、
    ○○△△、○○△△をヨロシク
でもって街宣車が信号で停止すると、
    私は××の実現をお約束します(・・・要するに連呼ではない演説的な内容)
信号が青に変わり街宣車が再び走り出すと、
    ○○△△、○○△△をヨロシク
なるほどで街宣車は、
  1. 動いている間はひたすら連呼のみ可能
  2. 信号であれなんであれ停止している間は演説可能
こういう厳格な規定で動いているらしい事がやっと理解できました。連呼関連で選挙終盤で毎度のように聞かされる、
  1. 最後のお願いにやって参りました
  2. あと一歩、あと一歩のご支援を
この手の内容も本来は停止中の街宣車でしか厳密には出来ないと思うのですが、ある程度お目こぼしと言うか、慣例上「連呼に含む」でOKなのかもしれません。いやヒョットすると真面目な候補はちゃんと街宣車の停止中に行っているのかもしれません。これを言い出すとキリがないのかもしれませんが、街宣車に手を振ったりすると、
    ご声援ありがとうございます
てなレスポンスが返ったりしますが、これも連呼には当たらないと考えられますから
    何人も、第百四十一条の規定により選挙運動のために使用される自動車の上においては、選挙運動をすることができない
これに該当しそうな気がしないでもありません。もうちょっと言えば街宣車から手を振る行為も違反に該当しそうな気がしないでもありません。公職選挙法の原文を読む限り大前提は何人も自動車で選挙運動が出来ないであり、連呼も禁止です。但し書きの例外規定で走行中は連呼のみ可能、さらに停車中のみ街頭演説可能とされているだけだからです。


桃太郎作戦

他も面白いものがあって、(気勢を張る行為の禁止}と言うのがあります。

第百四十条

 何人も、選挙運動のため、自動車を連ね又は隊伍を組んで往来する等によつて気勢を張る行為をすることができない。

自動車はさすがに見ないですが、候補者が運動員を引き連れて商店街などを歩く行為はよく見かけます。何台かの自転車で走り回るもあります。なんとなく該当しそうに思われるのですが「判例から学ぶ公選法」シリーズ No 47に、

  1. 街頭演説等で、選管から交付された選挙運動員の腕章11枚、車上運動員の腕章4枚、計15人分の腕章を使い、他候補者と選挙カーの運転手を含め17人を超える人員が隊伍を組んで、メガホン等を持ち投票を依頼する行為は、気勢を張る行為と認められる。
  2. 街頭演説が終了した直後、その候補者の運動員が聴衆に対してかんしゃく玉やクラッカーなど音やテープが飛び出す物を交付し、これを破裂させる行為は、気勢を張る行為と認められる。
  3. 選挙カーから、CDや録音テープを使用して音楽を鳴らす行為は、違反行為ではありませんが、特別大きな音量や奇声等を流した場合は気勢を張る行為として違反行為と認められる場合があります。
  4. チンドン屋を真似て運動員が街頭演説をして歩く行為は、その時期、場所、方法によっては気勢を張る行為となる場合もあるが、普通一般のチンドン屋の程度は違反行為とはならない。

とりあえず1.が笑ったのですが、1人の候補が街頭演説している分は良いとはなっていますが、ここに他の候補が合流して選挙運動員が17人以上になると公職選挙法に抵触するとなっています。ちょっと判り難いかもしれませんが、参議院選挙なら同じ政党の比例区候補が地方区の候補と合流して街頭演説を行い、両者の選挙運動員が合計で17人以上になると宜しくないようです。合流して選挙運動を行うのは良いとして、選挙運動員の数を候補者も含めて調節しないといけないぐらいでしょうか。

それよりもっと笑ったのは扮装の項目で、

普通一般のチンドン屋がOKなら違法とされるには相当奇抜な扮装が必要かもしれません。どこまで行けばアウトなんだろう? とりあえず自転車や徒歩で17人未満の選挙運動員の隊伍とかぐらいならOKのようです。


人気投票

これはよく取り上げられますが、

第百三十八条の三

 何人も、選挙に関し、公職に就くべき者(衆議院比例代表選出議員の選挙にあつては政党その他の政治団体に係る公職に就くべき者又はその数、参議院比例代表選出議員の選挙にあつては政党その他の政治団体に係る公職に就くべき者又はその数若しくは公職に就くべき順位)を予想する人気投票の経過又は結果を公表してはならない。

ごく普通に読めばマスコミが大好きな選挙情勢の分析とか、世論調査は真ん中ストライクと感じるのですが、これだけ毎度毎度定番のように記事なりますから、総務省なりから通達、解釈の類がきっとあるのでしょう。なければあんだけ堂々と記事に出来るはずもありませんし・・・


街宣車の感想

たぶんですが候補者だって連呼のバカらしさを感じている人は少なくないと思っています。これも新人で知名度が低く、○○党ブームの風だけが頼りの人なら連呼も有効な戦術でしょうが、そうでなければ選挙戦術として効果が乏しいとか、かえって逆効果と思っている候補者がいても不思議ありません。うちの奥様が子育て中に昼下がりにやっと子供を寝かしつけたら、

    ○○△△、○○△△でございます
これで広くもない町内をグルグル走られ、挙句の果てに当時住んでいたマンションの真ん前で街頭演説を轟かせてくれました。どうも定番コースだったらしく、何人かの候補者に来襲され、奥様が出した結論は、
    来なかったところに投票する
嫌と言うほど名前を刷り込まれたので、選挙運動に来なかった候補はすぐわかったそうです。それでもある選挙事情通にいわせるとあれも必要だそうです。どういう事かと言うと、選挙は表の街宣車グルグルよりも裏の組織票をどれだけ固めるかが大きな比重を占める候補者は少なくありません。選挙での支持を約束した組織なりには選挙運動は不要そうに思われるのですが、どうも違うらしいと言うお話です。

外野から見れば組織票として固めたところは放置して、そうでないところから票を集めるのに力を傾けるのが有効と思うのですが、支持を約束した組織に挨拶が必要だそうです。なんと言うか

    選挙期間中に街宣車が来なかったからヘソを曲げる
そう考えると奥様が顰蹙を買った候補者の狙いがなんとなく見えてきます。組織票と言っても必ずしも固まって住んでいる訳ではありません。住所は広く散らばっているわけですから、おそらく組織票者への挨拶が必要だったのだと考えられます。つまり奥様から1票を得ようとしたのではなく、投票を約束している組織票保有者に挨拶をしている候補者もおられたのだろうです。


実はこの話を聞いてようやく理解できた事があります。支持者、それも相当支持が組織員を動員しての演説会です。そりゃ固い支持者ですから演説会場が熱狂的になるでしょうが、そういう支持者に支持を訴えたところで票数が伸びるわけではありません。そんな身内で気勢を上げるよりは、まだ支持が固まっていない層に選挙運動を行う方が戦術的に有利じゃなかろうかです。

これはどうも選挙の理解が甘いようで、固そうに思われる支持者だって機嫌を損ねれば誰に1票を投じるかわからない訳で、支持を表明している組織にわざわざ足を運んで挨拶する必要があるのが選挙の一面のようです。マスコミ選挙用語で言う「支持基盤を固める」ぐらいのところでしょうか。ここの運動が甘いと「支持基盤を固めきれていない」ぐらいの表現になりそうです。

組織選挙に徹するとは、支持を表明できている組織票だけで当選が可能な状態で、選挙期間中はひたすら挨拶に回る選挙戦ぐらいを指すのかもしれませんし、「組織の引き締め」とはサラっと挨拶しただけでは票が流れる懸念があり、時間を割いてもう1回挨拶に行く誠意を見せて回っているぐらいでも良いのかもしれません。でもって行きがけの駄賃のように移動中の街宣車からは連呼のみが響き渡ると言うところです。

なにか間違っているような気がしないでもありませんが、この公職選挙法を改正しようと言う声は立法府からあんまり上らない気がします。これもいろいろ言われていますが、ザラっと考えると基本的に組織票があり、現職で知名度が高い候補に基本的に有利だからは妙に説得力がありました。だからなかなか意見が出ないし、まとまらないぐらいです。

ま、しばらくは連呼に耐えないと致し方ないと言うところのようです。


蛇足

未成年者の選挙運動の禁止てなものがありまして、

第百三十七条の二

 年齢満二十年未満の者は、選挙運動をすることができない。

ふ〜んてなところですが、例のネット選挙解禁に伴って気になる事が書いてありました。総務省未成年者へのチラシってのがありまして、未成年者への禁止事項を簡潔に書かれています。

  1. 自分で選挙運動メッセージを掲示板・ブログなどに書き込み
  2. 他人の選挙運動の様子を動画共有サイトなどに投稿
  3. 他人の選挙運動メッセージをSNSなどで広める(リツイート、シュアなど)
  4. 送られてきた選挙運動用電子メールを他人に転送
よく読めば微妙と言うか、どうなんだの個所はあります。たとえば候補者ではなく政党代表ならどうなんだです。端的には安倍首相をシュアするのは該当するのかしないのかです。これに関連して、どこかの市長はツイッターで有名ですが、直接選挙に関するツイートもありますし、そうでないツイートもあるかと存じます。そういうツイートをリツイートするのはどうなんだです。

まあ、よほど悪質で無い限り摘発される事は少なそうに「私は」感じていますが、とりあえず1回選挙をやってみないと、どの程度で実際に摘発されるかは不明ですから、良い子の皆様は怪しそうな人物には触れられない方が無難と存じます。