御用会議の進み方

看護の質の向上と確保に関する検討会なるものがあるようです。第4回の議事次第があり、そこにこれまでの委員の主な意見議論の整理(案)が掲載されています。これまでの知見から言うと「これまでの委員の主な意見」はそれなりに会議に出た意見が掲載されています。一方で「議論の整理」は事務局すなわち厚生労働省サイドの結論に誘導する意図がはっきり現れる事が多いと感じています。長めの引用になりますが、ちょっと比較してみたいと思います。

とりあえずですが、「主な意見」は5つの項目に大別されています。

  1. 看護職員の確保
  2. 新人看護職員の質の向上
  3. チーム医療の推進
  4. 看護教育のあり方
  5. その他
これに対し論点整理は、
  1. 看護教育のあり方について
  2. 新人看護職員の質の向上について
  3. チーム医療の推進について
  4. 看護職員の確保について
さすがに一致しています。今日は会議の運用を見たいだけなので「看護教育のあり方」に絞ってみてみます。「主な意見」から見ていきますが、まず冒頭に総論的な意見が3つ出されています。

  • 「看護基礎教育のあり方に関する懇談会」では、看護の基礎教育の大学にすべきだという意見をかなりの委員が出しており、そうしたものをきちんと施策に乗せて実行されるようなステップを踏んでほしい。
  • 大学、一貫校は文科省の管轄であることから、厚労省文科省と共同の議論が重要である。
  • 看護教育を検討するに当たっては、実際の医療現場で働く看護職員の意見をもっと細かく聞くべきではないか。

この辺は事情が良く分からないので「そんなものか」と言うぐらいですが、各論として

  1. 看護師教育
  2. 保健師助産師教育
  3. 教育内容
  4. 教育環境
  5. 専門看護師、認定看護師
この5つについての意見がまとめられています。これも順番に見ていきますが、まず看護師教育です。

  • 大学においても看護師教育は3年間である。4年制化を主張するなら、保健師助産師は卒後に養成することとし、大学で看護師教育だけで4年間の教育をやって見せてほしい。
  • 3年制の養成所は看護師の養成の70%以上を占めている。これらを4年制に移行させるには相当の労力も金もかかる。すべて4年制にしても学生はついてくるのか、不安だ。文化系大学が医療系の学部を作り学生を集めるため、養成所の定員確保が厳しく、養成所は大変な経営困難に陥っている。
  • 4年制とした場合、土地の確保、教室の確保、学内実習施設の拡充など、学校経営上、どのようなリスクがあるのか考えなければならない。
  • 医療関係職の基礎教育はほとんど4年制の大学レベルになっているが、看護師の教育は戦後60年の様々な社会状況・医療の変化に対応するため、その時々に必要な制度が生まれて、今日に至っている。看護基礎教育の統一化にまで進まなくとも、整理することは国の責任において行うべきではないか。
  • 現場はどんどん繁雑になり、機能分化が進んで、様々な医療関係職種が入ってきている。後発の医療職種の養成は4年制である。看護師の様々な養成課程は歴史的に生まれてきたもの。基礎教育の統一とまでいかなくても、整理すべきである。
  • 養成所を出た看護師は劣るのか、4年制なら良いのか。統合カリキュラムの保健師は駄目なのか。議論の意味が分からない。大学という言葉で4年に持っていこうとするのは少し乱暴な議論ではないか。
  • 3年制と4年制との優劣を論点にしているのではない。少子化で定員割れが起こっている中、いかに人材を確保するかということである。
  • 育てたいのは、即戦力の看護師か、臨機応変に対応できる看護師か。大学教育では後者(臨機応変に対応できる看護師)、プロフェッショナルとして伸びる看護師だと思う。
  • 看護基礎教育について大学を基本とすることの合意はほぼ得られているのではないか。ただし、一気に全員を大卒とすることはできないとすれば、どのくらいの時期に、どのくらいの人を大卒とするのか、具体的な議論が必要である。

どうもここの議論は看護教育の年数議論のようで、4年派と3年派が議論を戦わしている様子がわかります。3年派の意見はある意味現実的で、

  • 3年制の養成所は看護師の養成の70%以上を占めている。これらを4年制に移行させるには相当の労力も金もかかる。すべて4年制にしても学生はついてくるのか、不安だ。
  • 養成所を出た看護師は劣るのか、4年制なら良いのか。統合カリキュラムの保健師は駄目なのか。議論の意味が分からない。

ここだけ読んでも何が「現実的」か分かり難いと思いますが、看護職員の確保の意見の中で
    質の確保以前に、学生の数の確保が問題である。
こういう現状があるらしく、4年制にする事が学生確保につながるか大いに不安としている様子が分かります。一方で4年派の意見は読んでいても楽しくて、
    育てたいのは、即戦力の看護師か、臨機応変に対応できる看護師か。
個人的には「即戦力 ≒ 臨機応変」と思うのですが、どうもそうではないらしく、この二つはまったく別の概念であるようです。そして「臨機応変」の看護師は4年制で育てる必要があると主張されています。正直なところ「???」ですが、看護教育論と言うのはそういうあたりにある事ぐらいがわかります。


次は、保健師助産師教育です。

  • 看護系大学で4年間で看護師だけの養成を行った場合、保健師助産師の養成はどのような教育機関が担うことになるのか、需給のバランスを踏まえた議論が必要である。
  • 国立大学では、専攻科や大学院での保健師助産師の養成は、教育の効率性、採算性、教員確保の観点から非現実的であると考えており、保健師助産師確保の観点からこれを検討すべきである。
  • 医療が進歩した状況下では、予測し、考える力を身につけた看護師が必要であり、保健師助産師、看護師の3つの教育を一緒に行い、大急ぎで養成するのは適切でないのではないか。
  • 保健師が対応する健康課題は幅広くなり、高い専門性も求められるため、現行では6ヶ月以上となっている教育期間を延長することが必要である。
  • 看護師の教育を4年制化した場合、保健師助産師の教育を、大卒後、2年間積み上げるのかどうかは、全員が大卒になった段階で考えたい。大学4年間の中で保健師助産師を養成することが、看護職員の確保には重要である。
  • 統合カリキュラムは、看護師にとっては良い教育だが、保健師助産師にとって良い教育なのか検討が必要である。保健師は大方が免許を活用していない「ペーパードライバー」であり、需給バランスを考慮した教育が求められる。専門性の強化の観点からも大変重要な課題である。
  • 大学4年教育の中で保健師助産師も立派に育つ、という考えもあるし、そうでない考えもある。先の「看護基礎教育のあり方に関する懇談会」では保健師助産師の養成を改めて検討するとされており、今回は過去の検討を踏まえてそれを超えていくべきである。
  • 保健師助産師看護師法における規定をはずして、保健師助産師、看護師はそれぞれどうあったらよいのか、という議論が必要である。

ここも現在の看護教育の大勢を知るには興味深いところです。大雑把にまとめると、

  1. 看護大学は看護教育だけで4年間行なうべきものである
  2. 保健師助産師は看護大学卒業後にさらに2年間のプログラムを組むべきである
看護教育3年論と4年論の争いが嘘のようですが、理想としては看護教育は4年が望ましく、それも現在のように保健師助産師の抱き合わせの資格のように取るのは好ましくなく、改めて独立した教育機関で取得する事が望ましいとしています。これも「そんなものか」としておきます。


次は教育内容です。

  • 看護基礎教育で何をどこまで教育するのかを検討することが必要であり、それに伴って、教育年限を何年とするか議論するべきである。
  • 基礎教育と臨床現場とのギャップを埋めなければならない。
  • 高齢化に伴い、治す医療よりも支える医療のウェイトが大きくなっている。看護教育の中でこうした変革を教育し、看護職員が在宅看護にもっと従事するようにすることが必要である。
  • 在宅医療推進の趨勢の中、在宅医療をやろうという看護師が少ない。卒後教育の中でどのように訪問看護師を養成するのか、大学病院等で是非考えてもらいたい。地域の中で訪問看護師を養成する学校があってもよいのではないか。
  • 地域看護は、看護師にとってやりがいのある領域であり、どこかで教えなければならない。

ここは簡単で在宅看護に適した看護師の必要性が論じられています。これは国策ですからこうならざるを得ないでしょう。


次は教育環境です。

  • 看護系大学の教員は、臨床に出る時間の余裕がない。医学部と看護学部とでは、学生数と教員数の割合が大きく異なる。教育環境の改善を考えるために必要なデータであるので、この比較について資料を提示してほしい。
  • 看護系大学が雨後の竹の子のように設置できるのは、看護系学部は専任教員が12名そろえばよいからである。医学部は120名であり、このギャップを改善するべきである。
  • 教員の配置状況が違う。特に助産師の教員は配置されていない。実習を考えると人が足りない。

これも恥ずかしながら初めて知ったのですが、

  • 看護系大学が雨後の竹の子のように設置できるのは、看護系学部は専任教員が12名そろえばよいからである。
  • 特に助産師の教員は配置されていない

看護系大学の設置基準はかなり緩いようです。専任教員の数は医学部の1/10でOKのようで、だから看護大学は量産可能の厳しい指摘です。


最後は専門看護師、認定看護師です。

  • 専門看護師の養成が進むよう、雇用を促進してほしい。
  • 専門看護師と認定看護師を医療機関が広告可能となったことはインセンティブとなっているが、さらに進めるため、独立して実践できる権限を付与することができれば、給与の面でもそれを反映した賃金の配分が可能となるのではないか。
  • 専門看護師・認定看護師の活躍に対して、国がモデル的に支援できないか。

専門看護師や認定看護師の役割を否定するものではありませんが、それでも個人的には笑ってしまうのですが、

    給与の面でもそれを反映した賃金の配分
専門看護師や認定看護師が給与面で反映を受けるためには、現在の医療経営では反映させるだけの稼ぎが必要かと考えます。どこも余裕が無いからです。診療報酬上の加算であるとか、医師の仕事を具体的に何%カバーできるかの具体的な金額に相当するものです。病院の収入が変わらない上で給与に反映させればそれだけ人件費が増えて経営を圧迫します。圧迫するようなものを経営者は積極的に採用しないと考えます。


ちょっとまとめると、

  1. 看護師教育


      3年制と4年制のどちらが現実的に望ましいか議論がある


  2. 保健師助産師教育


      看護大学の4年間は看護教育に専念する方が望ましく、保健師助産師はさらに2年の教育があるのが望ましい


  3. 教育内容


      在宅治療に適合する看護師の量産が望まれる


  4. 教育環境


      現在の看護系大学の教員配置はお粗末である


  5. 専門看護師、認定看護師


      普及させなければならない
私が読む限り「主な意見」はこんな感じです。これに対し「論点整理」では、

  • 看護教育は看護サービスの基礎をなすものであり、卒後の研修などとあいまって国民が良質な医療を受けられるようにするために、時代や患者ニーズの変化に合わせて不断に見直し、充実を図る必要がある。
  • 現在、高齢化、医療の高度化、在院日数の短縮化の傾向、在宅医療など療養の場の多様化など患者ニーズの変化に伴い、医療の質の一層の向上が求められる中、チーム医療の一役を担う看護職員を養成するための看護基礎教育の充実は重要かつ緊急の課題である。
  • 他方、看護師の養成機関には、大学、短期大学、養成所(主として専修学校)、5年一貫校があるが、いずれの養成機関を卒業した新人看護師についても臨床実践能力が不足していることが指摘されている。
  • 看護師がその役割を果たすために必要な知識・技術や能力は多岐にわたるが、そのうち、免許取得前の基礎教育段階で学ぶべきことは何かという点を整理しながら、すべての看護師養成機関について教育内容、教育方法等の見直し・充実を図るべきである。併せて、後述のように卒後の新人看護職員研修についても、その普及をはかり、充実させることが必要である。
  • 保健師は、今後対応する健康課題が幅広くなり、より高い専門性が求められることから、その教育内容の充実が必要であるが、教育の仕方については、保健師の量の確保の観点から現在の統合教育がよいという意見と、現在の統合教育の下でいわば「ペーパードライバー」のような保健師が増えており専門性を高めるために統合教育を見直すべきとの意見もある。
  • 助産師は、今後、より高い専門性が求められることから、その教育内容の充実が必要であるが、教育の仕方については、助産師の量の確保の観点から現在の統合教育がよいという意見と、昨今の多様なニーズへの対応が求められることから高い専門性であり統合教育を見直すべきとの意見もある。
  • さらに、看護職員が専門性を持ってキャリアアップしていくことは、患者への看護サービスの向上や看護職員の離職防止、定着のためにも重要である。一部の医療機関では看護職員が段階的に習得すべき内容を管理的な要素と実践的要素とにわけて示している例もあり、こうしたことを踏まえ、各医療機関等における看護職員の実践的キャリアアップや、医療機関が専門看護師や認定看護師等の積極的な活用を推進することについて、支援策が求められる。

読めばわかるように「主な意見」として出された事柄はほとんどスルーされています。まあ看護教育をすべて4年制に移行させるためには多額な費用が必要で、また現在の看護大学が行なっている統合教育(看護師、保健師助産師)を否定すれば混乱しますし、分離すればまた費用がかかります。費用といえば看護系大学の内容のお寒さも充実には金がかかりますから、

    臨床実践能力が不足
こう指摘しておきながら、
    免許取得前の基礎教育段階で学ぶべきことは何かという点を整理しながら、すべての看護師養成機関について教育内容、教育方法等の見直し・充実を図るべきである。
体制の貧弱さが臨床実践能力の不足を招いているとせず、臨床実践能力が足りないようだから現場で何とかせよとの方向性を打ち出しています。唯一「主な意見」が反映されているのは、
    医療機関が専門看護師や認定看護師等の積極的な活用を推進することについて、支援策が求められる
この文章が意味するものは「この程度なら補助金をいくらか出す」と解釈すればよろしいかと思います。いくらかの補助金の他は医療機関負担ですから、この政策については妙に具体的に読めます。


論点整理はさらに集約されており、

  1. 教育内容を見直すとした場合、どのような視点から見直すべきか。たとえば、高度な医療における看護実践能力の獲得、各養成機関の創意工夫、多様な医療現場があることなどをどう考えるべきか。
  2. 保健師助産師教育の在り方について、議論を深める必要があるのではないか。
  3. 看護教員の質の向上と確保についてどのように考えるか。

非常に個人的な感想ですが、論点整理で絞った3点については十分具体的な意見が出ているような気がします。にもかかわらず、「考えるべきか」「議論を深める必要があるのではないか」「どのように考えるか」となっており、簡単に言えば厚労省が決めている結論に相応しくないとしているように思えます。それとも議論はこの辺で幕引きにしてくれのサインと解釈するのが正しいのでしょうか。最後に3つにまで整理された論点をもうちょっとだけ突っ込んでおきたいのですが、

教育内容を見直すとした場合、どのような視点から見直すべきか。たとえば、高度な医療における看護実践能力の獲得、各養成機関の創意工夫、多様な医療現場があることなどをどう考えるべきか。

ここもよく読めばおもしろいのですが、どうもここで厚労省が求めているのは、

    各養成機関の創意工夫
看護大学が医学部に較べると、1/10の教員数である点が手薄であるとの指摘はスルーされて、あくまでも現場で現状の戦力で解決せよとの意向と考えられます。つまり厚労省は何もしないと言う姿勢の表れに読むことが可能です。

保健師助産師教育の在り方について、議論を深める必要があるのではないか。

これも主な意見では現在の統合教育のデメリットが強調されていましたが、「議論を深める」つまり今回の検討会ではこれ以上は触れるなとの表現にも読めます。

看護教員の質の向上と確保についてどのように考えるか

ここの「確保」を増員と解釈するのは不可能ではありませんが、「質の向上した看護教員の確保」と読めない事もありません。3項目まで整理した論点にしては、どうも重複する様な気がしてならないのですが、これは「各養成機関の創意工夫」ができる「質の向上した看護職員」による解決策の提示に見えないこともありません。言わば駄目押しの強調の感じです。

この件自体を追いかける気は殆んど無いのですが、会議と言うのはこうやって進んでいくというのが興味深かったです。