看護職員確保対策

ここのところシリーズの様に続いていますが、今日もソースは、全国厚生労働関係部局長会議資料【医政局】(平成20年1月16日開催(一日目))なる会議資料の重点事項の44ページからで、軽めの話題です。

とりあえず冒頭部でのけぞりそうになりました。

看護職員確保対策については、平成20年度予算案において約84億4千3百万円を盛り込んだところである。

もちろん医師より絶対数が遥かに多いですから、医師確保対策の161億円の約半額が多いとは言えませんが、結構な額が看護職員確保対策に使われているのがわかります。そう言えば看護師も「確保」なんですね〜。

続いて新規事業が列挙されています。

  1. 新人看護師に対する医療安全推進モデル研修事業
  2. 在宅療養者に対する訪問看護訪問介護の一体型サービス提供モデル事業
  3. 学生実習国民向けPR
  4. 助産師確保地域ネットワークづくり推進事業
  5. 院内助産所助産師外来開設のための医療機関管理者及び助産師研修事業
  6. 院内助産所助産師外来の設備整備・施設整備
  7. 病院内保育所の施設整備

新規事業等と言うからにはからには継続事業もありそうなものですが、これについての記述はありません。また医師「確保」事業と異なり予算分配も書いてありません。ただ全部で7項目のうち3項目が助産師関連のものであり、助産師関連の事業は医師「確保」でも1.4億円が計上されていましたから注目しておいても良いかもしれません。

この後は7項目のうち5項目について具体的な説明がありますから順番に見て行きます。

新人看護師に対する医療安全推進モデル研修事業について

 看護基礎教育における学習内容と臨床現場で求められる能力のギャップによる新人看護師の離職の防止や、医療安全の確保に向けた体制の整備が喫緊の課題となっており、医療現場を支える新人看護師の資質の向上が急務となっている。

 こうした観点から、看護師学校養成所の卒業直後の新人看護師に対する臨床研修をモデル的に実施し、その結果を分析の上で効率的、効果的な研修方法を全国的に普及させるための事業を行うものである。

 具体的方法としては、特定の医療機関が自ら採用した新人看護師への研修だけでなく、他の医療機関からも新人看護師を受け入れて研修を行う方法や、複数の医療機関で分担して研修を行う方法等様々な形式での研修の実施を想定しているものである。

 この事業は厚生労働省医療機関等との委託契約により実施することとしているが、各都道府県におかれては、実施にあたり医療機関や関係団体に対する本事業の周知や調整等について、積極的にご協力をお願いしたい。

ここは新人看護師の研修体制についてのもののようです。来年度はモデル事業のようで、目指す方向は全国一律の新人研修体制を作る事と読めます。言うまでもなく私は小児科医ですから、現場の事情は良く分かりませんが、新人研修方法の全国統一は、看護師現場では「喫緊の課題」となっていると考えれば良いのでしょうか。

院内助産所助産師外来の設置の促進について

 産科医不足への対応や地域における周産期医療の確保の観点から、正常分娩における助産師の活用を積極的に進めていくべきであると考えており、妊産婦のニーズに応え、安全・安心・快適なお産の場を確保するため、病院・診療所に対し、いわゆる「院内助産所」や「助産師外来」の設置のための施設や設備の整備に対する補助や、医師や助産師等の研修に対する補助を行うこととしている。

 各都道府県におかれては、地域の周産期医療の確保のため、こうした補助金等を活用するなどしながら、積極的な設置の促進をお願いしたい。

ここは読めばそのままで、院内助産所助産師外来の設置推進政策です。どれぐらいの補助金が出るの出ているのか関心はあります。1/19のエントリーで触れたように、嘱託医師、嘱託医療機関の問題は事実上解消していますし、よく考えれば嘱託医療機関への距離もまったく触れていませんでしたから、積極的に進められるかもしれません。もっとも産科医療機関助産師不足の問題がどうなっているかも心配なんですが、その点は次の項目にあるようです。

助産師確保地域ネットワークづくり推進事業について

 助産師を活用する体制の整備を進めるため、各都道府県に、助産師の確保・養成策や医療機関等の連携体制等を協議する「助産師確保連絡協議会(仮称)」を設置する「助産師確保地域ネットワークづくり推進事業」を創設したところであり、助産師の確保・活用に向け、当事業の積極的な活用をお願いしたい。

これは地域での助産師掘り起こし事業ではないかと考えます。そう言えば助産師も「確保」になっているのが少し笑えます。あくまでも個人的な意見ですが、助産師の不足も内診問題以来深刻であり、売り手市場になっています。医師のドクターバンクや女医バンクが機能していない二の舞にならないように祈っておきます。

医療依存度の高い在宅療養者に対する訪問看護訪問介護の一体型サービス提供モデル事業について

 本事業では、医療依存度の高い在宅療養者(介護保険対象者を除く。)の多様なニーズに対応したサービス提供のあり方を検討するため、訪問看護訪問介護を一体的に提供するサービス体制をモデル的に実施することとしているところである。この事業は厚生労働省から都道府県に対して委託をし、委託先の都道府県においては、当該委託事業の具体的な調整や検討を行うための検討会を設置するとともに事業の実施・検証をしていただくこととしている。在宅での療養生活を支える地域ケア体制の整備を進める観点から、当事業の積極的な活用をお願いしたい。

これはどう考えれば良いのでしょうか。まず介護保険対象者を除くとなっていますが、では介護保険対象者はどうなっているかと言うと、

≪被保険者の範囲は40歳以上≫

  • 被保険者は、(1)65歳以上の方(第1号被保険者)と、(2)40歳から64歳までの方のうち医療保険に加入している方(第2号被保険者)です。

  • これらの被保険者の方が、(1)入浴、排せつ、食事等の日常生活動作について介護を必要とする状態(要介護状態)にある、あるいは、(2)虚弱な状態であって要介護状態とならないために適切なサービスを受けることが必要な状態(要介護状態となるおそれのある状態)である場合に、保険給付の対象となります。なお、40歳から64歳までの方については、脳卒中、初老期痴呆など老化に伴って生じた要介護状態に対し保険給付を行います。

ちょっと煩雑なんですが、このモデル事業の対象者は、

  • 65歳以上の方は除かれる
  • 40〜64歳の方のうち脳卒中、初老期痴呆など老化に伴って生じた要介護状態になったものは除かれる
それ以外の患者の在宅療養の調査と言うかモデル事業のようです。考えられそうな事は・・・対象患者を入院治療から在宅医療に進めるためのものと考えますが、どうなんでしょうか。

病院内保育所施設整備事業について

新たに病院内保育所を開設しようとする場合の施設整備費について、医療提供体制施設整備交付金に追加を行うこととしている。

これは医師確保対策として病院内保育所運営事業として15億円が計上されています。そこには趣旨として、

    女性医師等が子育てと診療等の両立のための支援が推進されるよう事業の拡充等
これと重複する様な気がしないでも無いのですが、看護職員確保対策としては金額が書いていない代わりに、「医療提供体制施設整備交付金に追加」と使用用途が実務的に書かれています。

この事業を読みながら思ったのですが、かつて(今でも「まだ」かもしれませんが)女性医師の子供は院内保育所に預かってくれない時代がありました。他にも理由があったのでしょうが、院内保育所が看護師のための予算で設置されたのが原因かもしれません。こういう補助金事業は用途が異常に細かく規定されている部分があり、規定の中で「看護師の子供のため」みたいなものがあったのかもしれません。


アレレ、これだけって感じです。7つの新規事業を看護師と助産師で分けてみると。

  • 看護師


    • 新人看護師に対する医療安全推進モデル研修事業
    • 在宅療養者に対する訪問看護訪問介護の一体型サービス提供モデル事業
    • 学生実習国民向けPR


  • 助産




  • 看護師・助産師共通


共通の確保対策である「病院内保育所の施設整備」は効果が期待できるものだと思います。ところが看護師のその他の3項目はモデル事業が2つ、PR事業が1つで、これが看護師確保対策にどれだけ有効かやや疑問符が付きます。無駄とは言い切りませんが、少なくとも来年度には直接関係なく、効果が出てくるのは再来年度以降になります。とくに「在宅療養者に対する訪問看護訪問介護の一体型サービス提供モデル事業」がどれほど看護師確保に結びつくものなのか、そもそも看護職員確保対策に該当するものなのかは個人的には「???」です。

一方で助産師への確保対策は非常に具体的なものです。院内助産所助産師外来を増設する事に焦点を絞った対策です。院内助産所助産師外来の是非については議論があるところですが、事業としては筋の通った項目が並んでいます。

    助産師掘り起こし(ネットワーク事業) → 助産師再研修事業 → 設備・施設整備
並んだ項目を見るだけで「院内助産所助産師外来」をいっぱい作るぞの意識がヒシヒシと伝わってきます。予算配分は分かりませんが、看護職員確保対策というより、院内助産所助産師外来整備促進事業のように思えてなりません。医師確保対策と違い、看護職員確保対策には、厚労省の看護課が看護協会と表裏一体となって取り組んだと推測されますから、その意図するところが明白に見えるかと考えます。