8/8付の産経ニュースから適宜引用しながら考えます。
全国で産科医が減り、分娩(ぶんべん)可能な病院が激減するなか、助産師外来など助産師を活用した対策が注目を集めている。ところが、過酷な勤務から、助産師も不足している状態だ。日本産婦人科医会の調査で、助産師充足率0%の診療所が44・4%と高知県と並んでワースト1位の山梨県では、この状況を打破しようと今秋、研究費を負担し、助産師の活用方法などを研究してもらう寄付講座を山梨大に開設する。(油原聡子)
山梨も助産師が不足しているようです。「寄附講座」の話はともかく、どれぐらい不足しているかを検証してみたいと思います。助産師の充足率の考え方はいろいろあるかもしれませんが、記憶に新しいのは看護師内診問題です。スッタモンダはありましたが、現在のところの灰色決着で、大雑把に言えば「助産師が足りないからお目こぼし」ぐらいと理解しています。分娩医療機関なら充足するように努力していかなければならないぐらいのところです。助産師の不足数はとりあえず分娩医療機関を充足させないと始まらないわけで、今日のお話の助産師不足の視点はそこにまず据えます。
充足対象の分娩医療機関数ですが、
2008年4月の時点で7病院9診療所
計16の分娩医療機関である事が分かります。一方で就業助産師数ですが、
県医務課によると、県内で看護業務に就いている助産師は平成18年末で約230人。そのうち産科以外で看護師として働いているのが65人
もう少し詳しいデータがないかと探してみると県医務課のデータそのものが出てきました。そこには平成18年12月31日現在で158人となっており、その内訳は、
病院117人(74.1%)、診療所16人(10.1%)、助産所6人(3.8%)、その他19人(12.0%)
ここで県医務課のデータにある「その他19人(12.0%)」が気になるのですが、厚労省HPにある日本産婦人科医会の産科における看護師等の業務についての意見に平成15年の全国データですが「助産師就業者数および就業場所」の記載があります。
就業場所 | 人数 | 割合(%) |
保健所 | 216 | 0.8 |
市町村 | 437 | 1.7 |
病院 | 17,684 | 68.7 |
診療所 | 4,534 | 17.6 |
助産所 | 1,601 | 6.2 |
社会福祉施設 | 15 | 0.1 |
事業所 | 12 | 0.0 |
看護師等学校養成所等 | 1,020 | 4.0 |
その他 | 205 | 0.8 |
合計 | 25,724 | 99.9 |
全国集計を見ると病院、診療所、助産所で就業場所の92.5%となり、残り7.5%が「その他」になります。その他の内訳は、看護師学校や助産師学校、保健所、市町村になっています。何か事情があるのでしょうが、山梨では「その他」の比率が全国よりやや高めな事が分かります。それとこの「その他」の内訳を参考にすると、記事中の「産科以外で看護師」は完全に助産業務と無縁であると考えられ、そのために県医務課のデータに反映されていないと考えられます。記事情報と県医務課のデータが若干相違している理由はよく分かりません。
助産師数の細かい数字の解釈はともかく、分娩機関の助産師の充足に該当する助産師実戦力は、
-
病院:117人
診療所:16人
日本産婦人科医会の助産師充足率を参考にすればよいようです。日本産婦人科医会は産科における看護師等の業務についての意見で、
1分娩機関あたり助産師6〜8人が必要
この「6〜8人」の意味ですが、1人夜勤体制を敷く勤務体制を意味します。医師ならものの4〜5人もいれば24時間365日救急外来をやれると見なされたりしますが、就業助産師はそういう世界とは無縁です。1人夜勤体制の必要人数は厳密には8人ですから、ここから不足助産師数を算出できます。まずもし分娩医療機関に均等配置されていたらですが、
机上の均等配置なら充足する事が分かります。もちろんこれはあくまでも机上のものであり、実際の実就業助産師数は個人の志望により若干の偏りが出ます。医師の場合、すぐに「偏在」とボロクソに言われますが、医療機関の勤務条件は全国均等ではなく、業務の多忙さ、業務の難度、給与、通勤条件、生活環境などによりかなり変ります。それによって若干の偏りが出るのは自然の事です。山梨のデータは病院と診療所の分類は出来ているので、その点を踏まえて再計算すると、施設 | 施設数 | 必要助産師数 | 実就業助産師数 | 不足助産師数 |
病院 | 7 | 56 | 117 | +61 |
診療所 | 9 | 72 | 16 | -56 |
病院には若干の余裕がありますが、診療所はかなり深刻に不足している事が分かります。ただ病院が診療所と同じ条件かと言えばそうとは言い切れません。7つの病院全てかどうかは分かりませんが、病院には助産師研修の場としての役割も求められているかと考えます。記事にも、
1人の助産師が研修をしながら勤務に余裕を持って扱えるお産は年間30人という
ここで記事に掲載されている山梨の分娩数ですが
県内では年間7500人ほどお産があり
分娩医療機関が全部で16ヶ所ですから平均で469人になります。あくまでも平均ですが、研修が必要な助産師の年間受け持ちが30人としていますから、病院には15.6人の助産師が必要の計算も成り立ちます。15.6人は2人夜勤体制を意味し、これを16人として病院の必要助産師を再計算すると、
病院であってもそんなに余裕はなく「たった」5人程度の余力しかないとも解釈可能です。もっとも病院間でも若干の偏りはあるらしく、助産師の少ない地方の病院だと、新人がいきなり1人でお産を任せられるなど勤務が過酷。勤務態勢の整った大都市の病院で学びながら働きたいという学生も多い
この「地方の病院」が山梨の病院を指すのか、山梨のさらに地方の病院を指すのかが解釈が微妙なのですが、山梨の病院が「地方の病院」ともし解釈すれば、この助産師数でも不足としているのかもしれません。山梨大医学部看護学科の遠藤俊子教授は
「養成するだけではだめ。まとめて配置して交代勤務できるようにするなど働きやすい環境を整える必要がある」と指摘
計算上は、病院の助産師は「まとめて配置」ではなく「均等配置」で16〜17人の助産師数で2人夜勤の交代制勤務ができるはずなのですが、それではまだ助産師が足りないとの厳しい指摘を行なっています。2人夜勤体制でも不足となれば3人夜勤体制になるのですが、これには厳密には24人が必要です。これも計算してみると、
山梨大医学部看護学科の遠藤俊子教授の「まとめて配置」の意味が3人夜勤体制の24人を意味しているのであれば、山梨の病院の助産師は51人足りないと考えられます。そうなると診療所の不足分も合わせて山梨の不足助産師数を計算すると、たしかに全然足りませんね。現在133人しかいないわけですから、相当足りない状態である事が数値で分かります。ではその不足分を埋める助産師養成の現状ですが、県内の養成機関は県立大と山梨大医学部だけ。助産師課程を希望する学生は多いが定員は計15人程度
ここの記事内容の理解が案外難しいのですが、まず県医務課のHPに「大学・看護学校一覧」があります。
大学・看護学校 | 課程 | 修業年限 | 定員 |
山梨県立大学 | 保健師、助産師、看護師 | 4年 | 100名 |
山梨大学 | 保健師、助産師、看護師 | 4年 | 60名 |
共立高等看護学院 | 看護師 | 3年 | 40名 |
帝京山梨看護専門学校 | 看護師 | 3年 | 80名 |
富士吉田市立看護専門学校 | 看護師 | 3年 | 50名 |
甲府看護専門学校 | 看護師、准看護師 | 3年、2年 | 160名 |
記事にあるように助産師課程があるのは県立山梨大学と山梨大学に助産師課程があります。両方とも4年制で大学課程であり合わせて160名を毎年募集しています。看護大学のことは余り詳しくないのですが、それでも聞くところによると、4年間で看護師、保健師、助産師の3つの課程を履修し修得する事になっていたはずです。つまりここの卒業生160名は助産師免許所持者であり、助産師であるということです。それとも山梨の看護大学はカリキュラムが違うのでしょうか。
もちろん看護大学卒業生が全員助産師を行なわなければならない事はありませんし、記者の理解が不消化の部分があるとも考えられるのですが、
-
助産師課程を希望する学生は多いが定員は計15人程度
それとこの看護大学卒業生160名を見て気が付くところがあります。山梨県には65名の産科以外に就業している助産師がいるとなっています。この65名はどうも助産師業務とは完全に無縁で看護師として働いているようです。別にそういう働き方をしても全く差し支えないのですが、看護大学卒業生160名にうち15名が助産師になるとして、残り145名は助産業務にタッチしない助産師となります。看護大学160名がいつからこの数で卒業生を送り出しているかわかりませんが、毎年145名の助産業務を行なわない助産師が誕生して、合計でたった65名しか残っていないのは県内残留率が異常に低い様に感じます。
どうにも山梨の県内事情や助産師養成課程がもう一つよく分からないのと、情報が断片的なので隔靴掻痒のところがありますが、とにかく山梨も助産師が足りないようです。ちなみに山梨の就業看護師・助産師数はほぼ全国平均で、保健師数はやや多めになっています。