当ブログのコメンテーターが優秀というか怖いのは常々知っているつもりですが、今朝は「やられた」と言う感じです。今日エントリーしようと準備していた医師派遣の事を、通るすがる様に先にコメントされてしまいした。もちろん怒っているのではなく、内容をまた再訂正して充実できる事に「嬉し涙」を流していると御理解ください。つう事で通るすがる様のコメントを加えさらにパワーアップした内容で本日はお届けします。
今日もソースは、全国厚生労働関係部局長会議資料【医政局】(平成20年1月16日開催(一日目))なる会議資料の重点事項の12ページからです。
医師派遣システムは医師確保対策に昨年度は18億円が費やされ、来年度は21億円が投じられます。どんなシステムになっているかですが、
- 第1段階:都道府県医療対策協議会
- 第2段階:地域医療支援中央会議
医師を供出する病院は
- 第1段階:医療対策協議会からの要請に応じ、医師確保に協力可能な医療機関
- 第2段階:全国規模の病院グループ等
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医療対策協議会の構成メンバーを中心とした医療機関
第2段階は国立病院機構や日赤が候補として挙げられていたと記憶しています。どちらも医師が供出できるほどの余力があるかは疑問ですし、国立病院機構がパイロット事業として行なったら悲鳴をあげて頓挫したとも記憶しています。それともっと基本的な疑問ですが、国立病院機構や日赤も地域医療対策協議会のメンバーになっていないのでしょうか。もしそうなれば、これらの病院は都道府県からも国からも医師の供出を常に迫られる事になります。かなり無理があるシステムに思えます。
ここについて通るすがる様は
派遣先の一つは地元に近く、ある程度内情を知っていますが、それでもどういう基準で選ばれたかはよくわかりませんでした。派遣元についても、日赤系、社保系、日本医科大とどうしてそのグループが派遣元に選ばれたのかまではよくわかりません。
報告には医療対策協議会の成果は記されていません。記されているのは地域医療支援中央会議の成果だけです。
実に華々しい成果と自賛しているようですが、正直なところ18億円もかけた割には少なすぎるような気がします。単純計算で1ヵ所当り2億2500万円のコストパフォーマンスになります。少ないのは理由があって、地域支援中央会議が医師派遣を行なう条件がかなり厳しいからです。決して、医療対策協議会が要請したらホイホイと医師を「確保」してくれるわけではないのです。その条件とは、都道府県からの要請とか、中核的な病院である事はまあ良いとしても、
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二次診療圏内に当該医療を代替する医療機関がない
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医師派遣の終了までに地域における医療機能の分担及び連携体制の構築
この派遣期間について通るすがる様から情報を頂いています。
派遣の実態は基本的に一週間単位で各派遣元の医師をローテートさせて半年間、ということのようです。
これだけ厳しいと都道府県もおいそれとは国に支援を求められないでしょう。おそらくですが、膨大な申請書類が必要とされ、その片言隻句に厳しい審査が地域医療支援中央会議で行なわれると考えます。その上で、固く固く派遣条件の履行を確約した上で、ようやく派遣の段取りになるかと考えます。
他人事ながら派遣された道県が派遣期間終了までに医療体制を再構築できたかは非常に興味深いところですし、もし再構築できなければ再派遣の申請など受付けてくれるのでしょうか、難しいと思います。これも派遣条件のうちにあるのですが、
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開設者・管理者の相当の努力
ここもまた通るすがる様からですが、
派遣のその後ですが、日本医科大が大分県竹田市に一人の医師を半年間派遣という(短いことは短いですが)通常の医局人事でもありうる派遣体制を取って、しかもその派遣期間中に自前で常勤医を確保できて救急体制を整えられた、と一先ずの結果を出しています。
http://mainichi.jp/area/oita/news/20080126ddlk44040092000c.html
そのほかは結局この報告書の時点では「もともとの派遣元である大学医局に鋭意要請中」みたいな状況ですね。
8ヵ所中1か所が再構築の成果は、成功なのか失敗なのかは微妙なところと感じます。
国の医師派遣が少なかったのは、派遣条件の厳しさと、このシステムで期待していた「全国規模の病院グループ」に医師供出余力が無かったのも一因とされています。これも記憶に頼りますが、派遣された医師のそれなりが国の募集に応じた医師だったと思います。逆に言えば8ヵ所分の医師しかそもそも「確保」できなかったのではないかとも考えられています。
緊急医師派遣事業が思うように進まなかったのが、派遣する医師の「確保」に問題に起因すると分析された可能性があります。おそらくそれに対する対策として打ち出されたのがコレだと考えます。
まず研修先の定員枠を限りなく実数に近づけるようです。余剰分として削られるのは都市部の病院が標的なっているのは明白です。これにより「研修医数=研修医枠」に限りなく近づき、研修医枠の確保が研修医の確保に直結する事になります。都市部の研修医枠が削られるのは、厚労省公式見解として都市部には「医師が余っている」理論も背景にあると考えてください。
そうしておいて、研修指定病院の条件を「医師派遣」とリンクさせています。つまり医師派遣に積極的な病院に研修医枠を優遇するとしています。逆に言えば消極的な病院は研修医枠を減らすぞと恫喝しているわけです。つまり都道府県なり国からの医師供出命令があった時に、どれほど快く応諾したかで来年度の研修医枠の匙加減は変わると言っている事になります。「医師が余っているはず」の都市部の病院はとくに研修医枠を守るために嫌でも協力するだろうではないかと考えます。
もっとも実際のところ、医師を供出できる余力のある病院などほとんど無いので、自らの病院の機能を落として出血供出するしか手段はありません。一方で医師派遣システムは十分な供出能力を確保できますから、今年のような無様な人数の結果とならず、21億円の予算に相応しい人数を派遣でき、世間の喝采を浴びる事が可能になります。
かくして21億円をかけて運用する「タコが自分の足を食うだけ」の医師派遣システムは、医師以外の絶賛の評価の下、今年度より実り多いシステムになると考えられ、ますます肥大化していくでしょう。知恵者はどこにでもいるものだと感心します。
知恵者と評しましたが、あくまでも小知恵です。小知恵の立脚点は「都市部の病院に医師は余っている」「余っているのに出し渋っている」です。地方の基幹病院も同様の見解かと思います。病院が喉から手が出るほど欲しがっている研修医の供給をコントロールすれば、医師派遣にはホイホイと協力するに違いないとの発想かと思います。
私は大病院の勤務歴が乏しいので見当ハズレになっているかもしれませんが、医師の出血供出に耐えかねた病院が前期研修医の確保から撤退しないかを懸念します。厚労省が強力にコントロールできるのは前期研修医だけで、後期研修医は法制上の裏付けは無かったかと記憶しています。そうなれば病院の戦力として考えれば前期より後期研修医の方が専門も決定しており、余ほど役に立ちます。
実はその点も考えているようで、後期研修医も専門医資格とリンクさせて、病院に派遣を強制させようとしています。しかしそうするためには全診療科の専門医を国家資格に格上げしていかないと強制力に欠けます。専門医についてはそうなる方が望ましいの声は確かにありますが、専門医の国家資格化は厚労省の基本方針である総合医路線と矛盾する事になります。
来年度はどうなるか興味深いところです。