松谷有希雄医政局長のお言葉

いつも貴重な情報を読ませていただいている東京日和様で、目が点になるような記事を読ませて頂きました。日本醫亊新報No4345(2007/08/04号)の短信欄にあった記事だそうです。

 厚生労働省の松谷有希雄医政局長は7月28日、日医主催の男女共同参画フォーラムに出席し、医師の絶対数が不足しているかどうかという問題について「不足だという世論が強くなってきている。今後の厚労省の施策はそういうことを反映したものにしていくことになる」と明言した。

 同省はこれまで医師の偏在は認めているが、絶対数の不足は認めていない。この日のフォーラムでも、松谷局長は「医師の絶対数が足りているかどうかは価値観の問題。行政的に決めることではない」との見解を示した。しかし、討論の司会を務めた日医の保坂シゲリ男女共同参画委員長が「今の医師は不足だ」と追求すると、世論としては「医師を増やせ」「不足だ」という声が大きいことを認め、それを施策に反映させていく考えを示した

「短信」だけあってコンパクトでわかりやすい記事です。この記事でテーマになっているのは「医師は足りているか」の問題です。この問題については、国際比較でも、現場の実感でも、現場の労働実態でも、「全然足りていない」がこのブログで繰り返し論議されてきた結論です。このブログだけではなくほとんどの医療系ブログでも数限りない論証によって「医師は足りない」を主張し続けています。

「医師は足りない」はネット医師世論だけではなく、国会質疑でも取り上げられ、厚生労働大臣自らが質問の矢面に立っています。国会質疑でも激論を極め、産婦人科医不足問題では「少子化だから産科医も減る」と答弁して大顰蹙を買い、偏在で余っている地域はどこかの質問に、完全に立ち往生するなどの醜態をさらけ出しています。これだけの阿呆陀羅答弁を繰り返しても、医師は足りているし、医師不足の象徴とも言える、産科医、麻酔科医、小児科医でさえ十分足りている上に確実に増えていると断言し、医師は余剰に向かって驀進中との見解を一歩たりとも譲る気配はありませんでした。

厚生労働省の「医師は足りている」の根拠もすでに明らかにされており、このブログでも手垢がつくぐらい取り上げた医師の需給に関する検討会報告書であり、これに参考資料として添付されている、再検証不能の統計資料である「医師の需給推計について(研究総括中間報告)」です。この二つの公式資料は厚生労働大臣及び厚生労働省が、どれほど医師不足の実態を追及されて立ち往生しても揺るがない、宗教的盲信の聖典とその奥義書として厳然として聳え立つ代物です。

聖典と奥義書によって守られた「医師は足りている」は、地域による医師不足を「偏在」と狂信させ、偏在であるが故に「過剰地域」から医師を融通すれば、すべて問題は解消するの無駄な施策を次々に繰り出す拠り所ともなっています。「なぜそうなのか」については今日はもう触れません。もし御理解できないようならご面倒でも過去ログを御参照頂きたいと思います。理由をここに書いたら、それだけで今日のエントリーは終わってしまいます。

民意の代表である国会議員の質問にも「足りている」と強弁してきた厚生労働省ですが、猛暑で頭がボケたのか、参議院選挙の結果に思考回路が狂ったのか、凄いお言葉を述べておられます。

    「不足だという世論が強くなってきている。今後の厚労省の施策はそういうことを反映したものにしていくことになる」と明言した。
「明言」だそうです。こんな片隅の記事ですが、厚生省の鉄の方針である「医師は足りている」を引っ込めたとなっています。医療現場の悲惨な状況レポートや、労働基準法を鼻息で吹き飛ばす勤務実態などには「まったく」耳を傾ける姿勢が無かった厚生労働省が、コロリと方針転換したお言葉です。

見解転向の理由は

    世論としては「医師を増やせ」「不足だ」という声が大きいこと
聖典や奥義書による根拠を放棄した事になります。

とりあえず「医師不足」を訴えてきた努力が少しは報われた事にも思えそうですが、この厚生労働省が転んだ理由に寒気を感じてしまいます。転向理由は「世論がそう言っている」なのですが、そういう理由で転向するのなら、これも世論が大合唱して要求している

    日本全国24時間365日万能コンビニ外来
これもまた受け入れる事に通じます。厚生労働省の基本見解は変わっていませんから、医師不足対策としてはシブシブ厚生労働省が行っている僻地枠の医学部定員増を正当化する程度に留まり、これで医師不足が来年にも解消するから、解消した医師不足の成果として「日本全国24時間365日万能コンビニ外来」の実施を強制してくるように思えてなりません。

被害妄想が過ぎますかね・・・。