やっと記事になったようで

今朝付けの神戸新聞に兵庫の公立病院の医師不足が一面トップで掲載されていました。リンクをしたいのはヤマヤマなんですが、ここの新聞のウェブサイトは更新が1日遅れなので申し訳ありません。明日忘れてなかったらリンクしておきます。

少し前に産婦人科だけの減少記事を麗々しく掲載していましたが、それだけでない事にやっと気がついたようです。一面に載せるぐらいなので少しは調べたのでしょうが、内容的にはサラッと表面をなぞっただけのものですね。解説に当たるところでは、新研修医制度の影響なんて事を今さらのように書いていましたので、認識の差のあまりの遠さにウンザリさせられました。

新研修医制度は医師不足を加速させる要因ではあります。しかしそれがすべての原因ではありません。たしかに新研修医制度が無ければ、今回の医療危機は来るのがもう少し遅かったとは思います。ただしそれは遅くなっただけで、それさえ無ければ医療が安泰であったわけではありません。新研修医制度はこれまで溜まっていた医療の矛盾を一挙に表面化させただけにすぎません。

元になる記事が手許にないので記憶に頼って書きますが、神戸新聞医師不足の構図の理解は、

    新研修医制度導入→医局入局者減→医局人事衰退→地方撤退
この理解の上での解決策は、医局制度に変わる新人事制度の確立です。この解決法の前提は厚生労働省御用達の大見解である、「医者は足りている、偏在化が問題である」から一歩も出ていません。明記はしていませんでしたが、医局人事システムが衰退して地方勤務を忌避する医者が都市部に偏在したので、是正すれば事足りるです。医者のワガママが諸悪の根源であると。

偏在化の話はもう何度も書いたので重複になりますが、偏在化して医者が溢れかえっているはずの大都市部でも医者は仕事に困っていません。偏在化が問題となるのは仕事にあぶれる医者がいる地域が存在して初めて成立します。あまって困っている地域があって初めて、足りない地域への再分配計画が考慮されると言えます。

医者の人事権を役人が掌握する計画は着々と世論固めを進めているようです。「医師不足でなくて偏在化」のフレーズは医者なら一笑に付してしまうジョークですが、マスコミはこれをドグマにし始めているようです。マスコミがドグマにすればそれを推進する巨大キャンペインが華々しく展開するのは時間の問題でしょう。医師の就職先の選択の自由を公的に奪う事は、憲法に抵触するとの指摘が多々あります。かつての医局人事も憲法に抵触する可能性があると叩かれたものです。

ところがマスコミがドグマによるキャンペインを展開すれば、それを蹴散らす法改正を世論として形成するのはきわめて容易です。おそらく出てくる理屈は「公共の福祉の優先のため」あたりが有力と考えます。もちろんそれを言い出せば弁護士も、司法書士も、看護師も、すべての国家資格を持つ人間への拡大解釈は自由自在になるのですが、その辺は伏せられて医者だけが限定対象になるのもまず間違いないでしょう。

考えられる新人事制度ですが、一番ありうるのは県下の公立病院の人事一元化が考えられます。県立や組合立、市町村立の病院への個々の就職を認めず、窓口を自治体立病院への就職として一元化することです。日赤や済生会なども巻き込む可能性は大です。一元化したからには待遇に差があったら困りますから、低いので有名な県立病院クラスにそろえる方向が有力です。

一見万々歳のシステムのように見えますし、それを切り札的政策のように賛美するマスコミもあります。全体としてそんな方向性にこれから進む公算は高いですし、厚生労働省も諸手を上げて推進するのも予想されます。ただしそんな事を強行すればどうなるか、医者なら分かりますが、一挙に大量逃散が発生します。何が悲しくて、そこまでして自治体立病院に勤務する事に固執する必要があるかと言うところです。

かつては私立病院より公立病院に勤務している方が一格上と考えられていた時代がありました。これは給与が私立より低くてもです。そういう無言のステータスがあった時代はありました。今そんな事を真剣に考えている医者がどれほどいるでしょうか。医者は公立、私立の色分けよりも人間らしく勤務する職場を求めています。こんな人事制度が出来ると、医者はまずこの人事制度の枠外の私立有力病院に殺到し、そこが駄目なら開業できる医者は開業を目指すでしょう。私立にもいけず、開業も出来ない医者が、行き場をなくしてやむなく公立に行く事になります。またこういう制度はどこかでまずモデルケースとしてどこかの県が先行導入するでしょうから、私立にも開業にもあぶれた医者は、そんな人事制度の無い県に大量流出するのも十分想像できます。

まあそうなれば、先陣切って導入した県の医療が瞬く間に焼野原になるでしょうから、全国に広げることが不可能になる公算も大です。一方で焼野原になった県の住民はさぞ困るでしょうね。一旦焼野原になれば、人事制度を撤回しても二度と帰ってこないでしょうから、住民の苦痛は相当期間続く事になります。とは言え、そうなることさえ厚生労働省の医療費削減政策の一環とする観測もありますから、救いの無い話であることは間違いありません。

医療機関のないところには医療費は発生しませんから、究極の医療費削減政策になります。そいでもってスケープゴートはお決まりの医者ですね。そのための世論工作は巧妙かつ着実に進行しているようです。