もう少し勉強して欲しいな

昨日の神戸新聞社説です。昨日取り上げたかったのですが、ここの新聞のWEB版の社説部分の更新は1日遅れになるのでリンクできる今日にしました。内容は読んでもらえればそれまでですが、それではブログの埋め草にならないので要約します。

問題として上げられているのは医者不足による診療科の閉鎖や縮小が相次いでいる事です。さらにこれが兵庫県のみならず全国的に起こっていることを報じています。これは事実ですし、ようやく取り上げてくれたかなと言うところです。問題があれば原因の考察に進むのが順序です。社説でピックアップした原因は、

  1. 新研修医制度により研修医が大都市の民間病院に流れ、大学病院の医師が減った。そのため僻地医療を支えていた大学病院派遣医師が引き上げられ地域医療の医師不足となった。
  2. 産婦人科や小児科は過酷な労働や医療事故が敬遠され志望者が減った。
たった二つしか原因を挙げていませんが、上げた側から妙な追加解説を上げています。上記a.、b.に対比してあげます。
  1. 基本的な診療科を幅広く経験させる臨床研修制度そのものは、それまでの医局中心の偏った内容に比べ、評価は高い。
  2. 医師の開業志向も強まり、生活を重視する傾向が顕著ともいわれる。
新研修医制度は始まってまだ2年、ようやく1期生が後期研修に入ったばかりです。新研修医制度が有効なものかどうかの評価は、この1期生が本当の臨床の実戦に入らないと真価はまだわからないのじゃないでしょうか。新研修医制度の理念は正面からは反論し難いものではありますが、理念が高すぎて、現場の医師たちの多くは「そんなにうまくいくものだろうか」の疑念の声が少なくありません。世の中の制度は謳い文句も重要ですが、実際に動かして成果が現れない事にはそんなに手放しで評価するものではないと思います。

次の産婦人科や小児科が激務や高い訴訟リスクのために敬遠される理由に、生活を重視する傾向が顕著というのも、ここで並べる理由に非常に恣意的なものを感じます。医者だって人間です。人間なら生活を重視してどこか問題があるのですか。医者は家庭生活などまったく省みないのが当たり前で、そんな医者は言語道断と言いたいようにしか思えません。医者の使命感は高いものがあります。高いが故に厳しい勤務条件の職場も黙々と支えています。それを支えるのが当たり前であり、耐え切れないのは甘えであるという主張は驚倒します。ましてや生活を重視する事さえ犯罪的な行為であるとの論調はどういう頭の構造で考えたのか不思議でなりません。

さらに社説は続きます。

これは6/1にもエントリーにも書きましたが、最近の医師不足のキーワードである「偏在」がどこにあるのか論拠を示して頂きたい。大都市に偏在するなら大都市では医者が余っていなければなりません。大都市では医者が就職難にあえぐ一方で、地方で医師不足が深刻化するというのであれば「偏在」が問題になります。ところが大都市部でも医者の求人はふんだんにあり、どう贔屓目に見てもやや余裕があるところがせいぜいであり、大都市から引き抜くほどの医者がいる事実は寡聞にして存じません。医療現場にいるものの素直な実感として、大都市部ではそこそこ足りているであり、その上で地方に医師が足りないのは単純に医師不足であるとしか思えません。

さらにさらに社説は続きます。

    医療費を抑制する流れの中では、なおのことである。
これについて最初から論じるのは控えますが、医療費削減が医療問題のすべての根源であると私は考えていますが、これについては手放しで容認しています。口は出すが金は出さないと言う事でしょうか。医療費が削減され、医師の勤務条件が益々厳しくなっても、生活をさらに犠牲にしてこれをカバーせよとの主張にしか見えません。

ちなみにこの社説のタイトルは「地域医療/知恵の出し方はまだある」なんですが、タイトルにある知恵の出し方は社説の末端に付け足しのように掲載されています。

    一人ひとりの医師の負担を減らすためには、地域医療の中心となる病院と診療所、開業医の連携を密にすることが重要だ。在宅医療に振り向ける余力も生まれる。
開業医の平均年齢はほぼ60歳。勤務医は医師不足で地域医療は崩壊寸前。そんな状態での連携がどれほどの効果があるか私は素直に疑問です。

社説とは重いものと考えます。新聞社がその主張を世に問うものだからです。しかしこの社説は厚生労働省大本営発表を鵜呑みしてなぞっただけのものです。この国のマスコミが大本営発表が大好きなのは歴史が証明しています。またマスコミは大衆迎合主義と言われますが、その本音は時の権力者に迎合するものであり、時の権力者の嗜好に合わせて世論を誘導し煽動する事も証明されています。

こんな社説でも「そうだ、そうだ」と納得する人が量産されたでしょうから、医療はまた焼野原に一歩近づいたと言う事ですかね〜。