日本医師会へのエール

医療危機への解決策を結構あれこれこねくり回した挙句、悲観的な結論を5/18のエントリーにしています。簡単にまとめるとこのままではどうしようもない。流れは悪い方に加速する一方で、具体的な改善案は、私だけではなく多くの心ある医師がネットでも発表していますが、その影響力は打ち上げ花火どころか線香花火にも遥かに及んでいません。となれば医療危機はこれから粛々と進行することになります。

現在は逃散現象がやっと社会的事件として世間にやっと知られて少しだけ問題化され始めた時点です。問題化といってもまだまだ長閑な反応で、厚生労働省大本営発表の原因以上はマスコミは調べる気も無く、鵜呑みにした情報の上での机上の解決策を垂れ流すに留まっています。ネットの普及により旧来よりは知れるようになったとは言え、医療界は特殊技能者による閉鎖社会であり、そこでの情報はそう簡単には知れ渡るものではありません。つまり社会の認知と実態では、実態の方がはるかに先行している事を知っておいて欲しいと思います。

そういう現実から焼野原の暗い予想以外の未来を描きにくくなっていますし、この医療危機を真剣に考えた医師の少なくない人数が、そこまで行かないと何も始まらないとの結論に達しつつあります。この辺までは先日の結論のなぞりです。私はこの結論の予想の下で、医療崩壊から焼野原時代の自分のサバイバルを考えることにしています。残念ながら私がまだまだ現役で、なおかつ自分の診療所の開業資金の返済ぐらいは出来ているかもしれませんが、悠々の引退資金を蓄えるには程遠い状態でそんな時代が来そうだからです。

ところで医療荒廃の時代が到来し、「これではダメだ」の世論が本格化したときこそ、国民が望む医療を再構築する転換点と予想しています。そういう時期が来た時、医療界はどうしたらよいのでしょうか。もちろん改革案の構築の重要な担い手であることは間違いありません。医師の意見を全く聞かずに医療構築などは不可能であるからです。ではどうやって医師の意見を表明するかになりますが、今もこの先も変わりませんが、こんなブログで力説しても何ほどの影響力もありません。医療問題は高度な政治問題であり、政治力学の中でこれが決定されるからです。

政治は世論で動きます。医療荒廃に悲鳴をあげた国民が「なんとかせい」の要求を振りかざせば政治は動きます。無視すると議員は職を失うからです。ただし医療の枠組みを決めるのは政治です。世論が起これば方向性に多大な影響を与えますが、具体策を検討し、実行するのは政治です。その政治の場に医療者が意見を反映させるには医療者の代表である必要があります。となると医者の団体が必要と言う事になります。

医者の団体となると医師会とならざるを得ません。医師の間でも医師会への評価は年々低下しています。かつては国と全面対決するぐらいの政治力を誇った医師会ですが、現在は見るも無残にその政治力は衰微しています。だから「あんなものはアテにも頼りにも出来ない」の意見が飛び交っています。もっと強力なリーダーシップをとれる団体を渇望する声も少なくありません。しかし新たに設立するのは容易ではありません。記憶に新しい新たな団体の設立の動きは徳洲会徳田虎雄氏の自由連合があります。相当巨額の資金を投入したはずですが、ほとんど実を結ばなかったと考えています。あれ以上のアクションを取れる医師は希少で、新団体設立は非常に困難と考えます。

医療荒廃時代に備えて医師会の再建が必須です。日医は迷走を続けています。医師会の迷走はワンマン武見会長引退後ずっと続いていると考えます。武見時代の過去の栄光と現実との乖離にあがいている様に見えます。あがいて細かな路線争いから内部闘争を繰り返し、そこでエネルギーを消耗させたため、政治的影響力は急速に低下し、また医師会員からも支持を失ってきています。現在の医療危機を加速させた戦犯の一人でもあります。

日医が来るべき医療荒廃時代に対応するには抜本的な体質改善が必要です。日医は従来、まず中を見、外は自民党の厚生族しか見ていませんでした。それだけで事足りていたからです。事足りてはいましたが、そのため国民の支持を完全に失っています。「日医は傲慢」「日医は医者の利権擁護団体でしかない」「日医の言う事を聞かないのが医療改革である」と。

日医は失うべきものが殆どなくなってきています。政権内部への政治的影響力は見る影も無く衰微し、これにのみ頼る運営で日医の存在感の回復を目指すのは痴人の夢だと考えます。日医が目指すべき方向は国民の支持の獲得です。医療荒廃が進めば国民の批判の鉾先は政府にも向かうでしょうが、日医にも向けられます。向けられた時に批判を吸収し、そのパワーを政府と対決する方向に持っていく事が必要です。その機会は遠からず来ます。その時に政権との中途半端な馴れ試合をしていたのでは誰も信用しなくなります。

またその時が来るまでに支持を得やすい素地を作っておかなければなりません。日医は政府の手先ではなく、国民の見方であるとの印象です。日医こそが国民の健康を守るために国民のために戦う団体であるとの認知です。これまでの負の遺産を一掃するのは容易ではありませんが、この体質変換を可及的早急にしなければなりません。。

冷静に見て、現在の医療政策、またその政策によってもたらされた矛盾、歪は山ほどあります。それを逐一ピックアップし、痛烈な批判を加え、改善を政府に迫れます。結果として却下されたって構わないのです。患者のため国民のために奮闘している団体であると言う事をアピールする事が重要なんです。またその時には患者の事を一番に考え、場合によっては医者が痛んでも正論を愚直に主張していくことです。それを一貫して続けることが国民の支持を集めます。

日医が常に国民のために考え動いている団体である事を認知されて初めて、日医の発言が世論を動かします。世論が動き、政治が動いた時、政治の場に於ても重きを為せます。日医が医療荒廃の時代に働くとしたらこれしか道は無いと私は考えます。日医が見なければならないのは政権与党の有力者ではなく、国民なんです。これが見えないようなら日医に明日はありません。