日本医師会長選

総選挙の結果は周知の通りで、異例の長期政権を誇っていた自民党が本格的に下野すると言う事態が起こっています。当然ですが各種団体もこの影響を受けますし、日医もまた例外ではありません。

常識的なお話ですが、日医の路線は武見元会長が強面路線を行ったことは有名です。強面路線は武見元会長であるからできた事で、以後の路線は政府すなわち自民と協調路線を歩んでいます。協調路線と言っても、当初は武見元会長の遺産もあって独立しながらも協調の気風もあったかもしれませんが、前会長の時に小さな事件が起こります。

前会長は協調路線ではジリ貧と考え、再び強面路線を取ろうとしたとされます。実際の運営手腕にも問題はあったとされますが、前会長の動きに危機感を感じた自民党医療系議員が会長選挙に大きく介入したと噂されます。その結果誕生したのが、現会長であるともされています。はるか上層部のことなんて末端会員には知る由もないのですが、現会長の路線は協調路線どころか、リモコン路線ではないかとまで評価する者もいるぐらいです。

それでも自民政権さえ磐石であり、医療界が平穏無事ならば現会長も普通の医師会長として勤め上げられたと思っています。現会長が当選されたのは2006年4月で、当時は小泉元首相が郵政選挙で歴史的大勝を収めた後であり、強力な政権政党である自民党と協調路線を取る事に表立って異議を唱えるほどのものでもないとは言えたからです。

ただ過度の協調路線は医療界に深刻な影響を及ぼします。言うまでもなく医療費抑制からさらに削減路線のために病院だけではなく、日医の支持基盤である開業医も悲鳴をあげたからです。日医と言うか医師会の構成は複雑で、

こういう組織図なんですが、市町村、都道府県、日医は別立ての独立した組織になっています。これが一体運用できる秘密は、医師会員が市町村、都道府県、日医の3組織に同時加入するからです。現実に医師会費は3つの組織に別々に支払っています。私は医師会のA会員ですが、市町村医師会員であり、都道府県医師会員であり、日医会員であると言う事です。

あえて近い例えを出すと、日本人として市町村に籍をおき、都道府県にも籍をおき、日本国民であるみたいな感じです。そう言えば税金も3ヶ所に分けて払います。

医師会員の意識として3組織は建前上別の組織ではありますが、実質として日医を頂点としたピラミッド構造の1つの組織に所属していると考えています。日医に強力な求心力さえあれば、実は別組織であるなんて事は考えもしなかったのがこれまでです。

しかしピラミッドの頂点である日医の求心力が低下すれば下部組織への統制力は緩みます。意識としては一体であっても、本当は別組織だからです。医師会員の帰属意識は下部組織に濃厚です。市町村医師会へは「私は所属している」意識は濃厚です。当然の事で、顔見知りの医師もおり、通常の医師会業務は市町村医師会で殆んど済んでしまうからです。

せいぜい市町村の上の都道府県医師会ぐらいまでが、実感として所属している感覚があるところであり、日医となると完全に別世界です。求心力があるから日医の指示を聞き、日医に政治的な行動を委任していますが、求心力がなくなれば、下部と見なされていた医師会は独自の行動を取りますし、独自の行動を取られても日医は現実的に制裁を加える事が出来ないのです。

総選挙でも日医は自民を押したはずです。かつては日医のトップダウンで、下部組織は反対する事など夢にも思わず従ってきましたが、現会長時代の日医の求心力の低下は、それを昔話にしつつあります。茨城県が民主全面支持を打ち出したのは有名ですが、各地の市町村医師会で民主支持とか、支持まで行かなくとも自主投票の動きが起こっています。

また自民支持と医師会レベルで決定しても、医師会員は気にもしなくなっています。自民を支持するものは自民を支持しますし、民主を支持するものは民主を支持します。もちろん他の政党や候補であっても同様です。

今回の総選挙は日医が支持した自民は大敗しています。自民が政権の座を維持していたら、日医の威厳はなんとか保たれたと思いますが、日医執行部の威厳の後ろ盾であった自民勢力が激減し、政権を手放したとなると、反旗を翻した下部組織に対しての影響力はさらに低下します。今はそんな状態かと見ています。



さてと、こういう状態で日医をどう立て直すかが最大の課題のはずです。これまで日医は自民ベッタリ路線でしたから、考えられる戦略は2つです。

  1. あくまでも自民ベッタリ路線を貫き、次期総選挙で自民の返り咲きを期待する
  2. 民主と新たな協調路線を築く
1.の戦略は魅力的ですが、現実に取れるかどうかとなると疑問です。診療報酬の決定一つを取っても、実質は政治の範疇になり、さらに締め上げられると日医自体が本当に空中分解します。1.の路線を医師会員に有無を言わせず引っ張っていけるカリスマは医師会にいないと考えます。

そうなると2.の路線が現実的で医師会員の支持を集めやすい事になります。そのためには自民ベッタリ路線の日医執行部を総入れ替えし、民主に擦り寄る勢力が主導権を握る事が必要になります。そうでもしないと民主の歓心を呼ぶ事が出来ないからです。おそらく次期会長選挙はこの路線の候補者が確実に出てくると予想しています。

ここで私は1.も2.もリスクの高すぎる路線の様に感じています。これからの日本の政治がどう展開するかの予想が難しいからです。展開も簡単に予測しておけば、

  • 民主が自民に代わって長期安定政権を築く
  • 次期総選挙で自民が政権を奪還し、再び長期安定政権を築く
  • 二大政党(自民、民主に限らない)が周期的に政権交代を行なうようになる
これも様々な予想がありますが、今までの自民政権みたいな長期安定政権は期待しにくいのではないと考えています。周期的に政権が代わる政治状況下で、特定政党とベッタリ癒着すれば、その政党が政権を失った時のデメリットが大きすぎるからです。現実に直面している問題がそれです。そうなると望ましいのは、
  1. 是々非々路線を構築する
これも絵空事みたいな路線ですが、どこかが政権与党になろうとも大きなデメリットを来たさない路線作りを目指すべきではないかと言う事です。ベッタリでない分だけメリットも減じる(今もメリットがあったかどうか疑問なんですが)としても、政権交代が生じても大きなデメリットも生じない体制です。



そんな事を真面目に考えていたら9/14付Risfax記事です。

来年4月の日医会長選では唐澤氏の3選が取り沙汰されているが

つう事は日医は自民ベッタリ路線を貫き、次期総選挙での一陽来復戦術を取るつもりでしょうか。申し訳ありませんが、現会長の指導力では空中分解するのが目に見えています。それとも現会長の体制のまま民主に擦り寄る戦術を取るのでしょうか。これもあれだけ民主から烙印を押されている現会長及び執行部ですから、擦り寄る戦術を取るなら交代したほうが余ほど有効です。

では現会長のままで是々非々戦術を取れるかと言えば、指導力はともかくとして、現会長に色がつきすぎています。これも頭を取り替えないと実現不可能です。

どう考えても普通の世界では続投なんてありえないですし、会長選挙が医師会員による直接選挙であるなら、絶対に当選しないのですが、多くの医師会員にとって希望のない現会長の3選は可能性としてかなりあります。会長選挙は日医代議員による間接選挙だからです。

札医通信487号20.3.20が参考になるのですが、

Q:会長に当選するには?

A:社団法人日本医師会定款施行細則第2章(会長選挙の必要得票数) 第28条会長選挙においては、有効投票の総数の3分の1以上の得票を得なければならない。2前項の場合において、3分の1以上の得票を得た者がないときは、有効投票の最多数を得た者2人をもって候補者とし、会長の選挙を行う、とあります。

この投票権を持つのが日医代議員ですが、どうやって選ばれるかといえば、

Q:代議員の選挙及び定数は?

A:同定款施行細則第4章(代議員の選挙の委託) 第36条定款第25条及び第26条の規定に基づく本会の代議員の選挙は、都道府県医師会に委託して行う。(代議員の定数基準) 第37条本会の代議員の定数は、会員総数が500人以内の都道府県医師会においては1人、500人を超えるものにおいては、500人又はその端数を加えるごとに1人を加えた員数とする、とあります。

ここに

    本会の代議員の選挙は、都道府県医師会に委託して行う
こう書いてありますが、私は見た事も聞いた事もありません。実情に詳しい方に聞けば、完全に役職化しており、医師会活動で年功序列の末に手にするものだとされています。ここには「選挙」と書いてありますが、実態は「選出」だそうで、なおかつ選出されれば役職として手放さないとも仄聞しています。この辺は都道府県により事情は異なるかもしれませんから、熾烈な代議員選挙を経験した方はご報告下さい。

そもそもなんですが、代議員選挙が本格的に行われていたら、会長選挙の前哨戦になりますから、毎回大きな話題になるはずです。ミニ版ですが、アメリカ大統領選挙の選挙人獲得競争みたいな様相を呈するはずですからね。

それで日医代議員が何人いるかなんですが、

Q:現在の代議員数は?

A:同定款施行細則第38条本会の代議員の選挙の基準となる本会員数は、毎年12月1日現在の会員名簿による、とあり、昨年12月1日の会員数から計算すると、平成20年度の代議員総数は343人になります。

見ればお分かりのように

    平成20年度の代議員総数は343人
この代議員の年齢構成も書いてあり、

年齢構成では平成16年時で代議員数342名中7、80歳代が111名、60歳代が182名、それに比し4、50歳代が49名しかいなかったということです

こういう構成の343人の1/3である115票以上(有効投票数ですからさらに下がる可能性があります)を集め、投票数が1位であれば無事当選です。去年の会長選挙時と較べてどれだけ代議員が入れ替わっているかはわかりませんが、たった343票しかありませんから、選挙運動次第で現会長は当選する可能性は十分あると言う事です。

なんのかんのと言っても日医ですからその動向に注目せざるを得ないのですが、驚愕すべき選挙結果が出るかもしれません。もし驚愕すべき選挙結果が出た時に日医がどうなるかは注意しておいて良いと思っています。日医も正念場と言うより、崖っぷちに立っていると外野からは見えるのですが、果たして執行部になるような幹部にそこまで危機感があるかは、末端会員にはわからないところです。

日医会長選挙は来年4月です。