日医新会長

親民主であるのが大事件のように報じられているのが非常に不思議です。現在の政権は民主が握っており、そうなれば現政権に擦り寄ろうとする人物が出て来ても不思議ありませんし、その人物を近眼で老眼の方が多い日医代議員が支持しても、そんなに驚かなければならないことなんでしょうか。どうも感覚がついていけません。

前にもやりましたが、啓蒙のために日医会長選のシステムをもう一度御紹介しておきます。私も日医会員ですが会長選にはまったく無関係です。会長選は日医代議員によってのみ選挙されます。日医代議員は医師会員500人に1人程度の割りで、各都道府県に割り当てられるとされますが、どんな感じかと言うと、2/26付m3.com「医療維新」より、

東京都医師会の臨時代議員会が2月25日開催され、日本医師会の代議員選挙が行われた。選挙の実施は、1994年以来、16年ぶり。

東京では都の代議員が選出する方式のようですが、原則は都道府県医師会に一任されており、もうちょっと言えば都道府県の代議員も投票した記憶はゼロです。末端の会員が辛うじて関るのは、都道府県代議員を選ぶさらに代議員の選出ぐらいでしょうか。つまりは市町村医師会長を選ぶぐらいしか関与できません。

つまりは日医会長戦は直接選挙でないのはもちろんですが、実質として間接選挙ですらないと言っても差し支えありません。99%以上を占める末端会員は完全に蚊帳の外に置かれていると言うわけです。えらいシステムの会長選挙ですが、昔はこれでもさして支障はありませんでした。極論すれば誰が会長になろうとさしたる影響はなかったからです。どんな泥仕合の会長選をやらかそうが、せいぜい「今度の新会長は○○って言うんだ、へぇ〜」とゴミ箱に丸めてポイ状態でした。



ただですが今度の新会長は従来の日医会長と一味違うとは考えています。一味違うと言っても新会長の識見能力が卓抜しているという意味ではありません。卓抜しているかも知れませんが、私は殆んど存じ上げない人物ですから、新会長の個人的な能力は不明です。一味違うというのはその立場と言うか立脚基盤、権力基盤が違うと言う意味です。

新会長が日医会長の座に登りつめた経緯は、正直なところクーデターのようなものです。当時の日医の方針に公然と反旗を翻し、翻したまま支持を掻き集めて会長になられています。反旗も新会長がカリスマ的能力を発揮して、その気の乏しい部下を巻き込んで起したものなら例外的事例になるかもしれませんが、下からの圧力に便乗して反旗を翻したのなら先例になります。

いや新会長がカリスマ的であろうがなかろうが、クーデターを成功させたと事自体が先例になったと考えた方が良いかもしれません。つまりこれまで鉄の年功序列で「その他大勢」として切り捨てられていた末端会員の影響力を無視できなくなったと言う事で、もう少し具体的に言えば、日医の路線が気に食わなければ、誰かを担いで第二、第三のクーデターはいつでも起せる事が示された事です。

前会長があれだけボロを出しても日医会長としてふんぞり返っておられたのは、支持を集める相手が年功序列の上層幹部だけであったからと見れます。最終的にその一握りの上層幹部さえ掌握しきれなくなって三選は果たせなくなったのですが、新会長が支持を集める相手は上層幹部だけとは言えなくなっていると言う事です。

ここも詳しく言えば、上層幹部は鉄の年功序列を登ってきた既得権者です。末端会員の圧力が高まった時に、従来は握りつぶしてオシマイでしたが、先例が出たからには握りつぶしをやると叩き出される懸念が出ます。彼らは失うモノが多いですから、叩き出される懸念が出れば下からの圧力に迎合する選択を選びやすくなります。

実際はそれほど単純ではありませんが、末端会員の圧力は日医を踏み潰せると言う事です。本当にそうかどうかではなく、「そうかもしれない」の意識が出ざるを得なくなると言う事です。これまで上だけを見ることで成立していた日医の権力構造が下も意識をせざるを得ない状態になると考えます。

その上に、上下の意思疎通の公式ルートが事実上存在しない事です。末端会員の圧力の高まりは対話の促進と言うより、短絡的にクーデターに向いやすいのが日医の構造です。ガスの抜きようの無い硬直したシステムであるからです。


それと実際のところをよく知らないのですが、現時点では日医が新会長派で染まっていると言う事は無さそうです。反対勢力は厳然と存在しています。そういう状況で新会長が権力基盤を固めようとすれば、従来のように上層幹部だけの支持を集めるだけでは難しく、末端会員の支持を集めるのが有効な戦略になります。

とりあえず今の体制でも上層幹部の支持が無いと動き難いですが、上層幹部の立脚基盤もとどのつまり末端会員の支持であり、これが揺らげば反会長の立場を維持できなくなる懸念が出てきます。疎外されていた末端会員の支持が日医自体を左右して行く可能性は大きくなります。日医会長が権力基盤を固めるためには、末端会員の支持を集めるのが早道と見れます。

ただし現在のシステムでは、末端会員の声は直接にも間接にも反映されないものになっています。現在のシステムではいくら末端会員の支持を集めても、直接には新会長の権力基盤にはなりません。そういう意味では厄介な組織なんですが、末端会員の支持を直接権力基盤に組み込むためには、組織の改革が必要です。不満が溜まったら、次はクーデターみたいな組織では不安定で役に立たないものがありますし、いつ会長自身がクーデターの血祭りになるかもわからないからです。


ちょっと過剰な期待を寄せてしまいしたが、真意はともかく新会長はとりあえず上下の意思疎通を図る対策を行なうと見ます。新会長への末端会員の支持があれば、上下のパイプが強いほど権力基盤は強化されるからです。問題はその程度で、ガス抜き程度のものを考えているか、究極的に日医会長選を直接選挙にまでするかになります。

たぶんその程度の差が新会長の鼎の軽重を問われるところかと考えています。たとえば上下ルートをガス抜き程度にし、親民主路線ゴチゴチで参議院選挙に突入し、民主惨敗なんて事になれば、一遍に日医会長の地位は不安定になります。上層幹部の反会長派は勢いづくでしょうし、支持を期待した末端会員も離れていき孤立無援の状況が出現するからです。

まあ従来の手法で上層幹部の支持を固め、自分が抜けてきた道を塞ぐ秩序強化に向う可能性も十分あります。そうなる蓋然性はかなり高いのですが、それではおそらくクーデターの圧力が高まるだけで、たとえクーデターを強権で封じ込んでも、今度は分裂騒ぎさえ誘発しかねない状態が今の日医です。本来、新会長が選択できる余地は非常に狭いと見ますが、狭く見えているかどうかは誰にもわかりません。

考えようによっては新会長の起したクーデターは中途半端だったので、不満の圧力をもっと高めて、日医を吹き飛ばすような巨大クーデターになった方が良いかもしれません。そういう意味では新会長がお座なりのガス抜きと、秩序強化路線に走った方が日医のためには望ましいとは言えます。

いずれにしろそういう視点を持って、一味違う新会長の手腕と器の様子を見てみたいと思います。今は新会長就任の門出の記事ですから、精一杯甘い祝辞とさせて頂きました。