制度は複雑

4/9付産経新聞(Yahoo !版)より、

自民党田野瀬良太郎総務会長は9日昼の記者会見で、新党「たちあがれ日本」に参加する与謝野馨財務相に対し「(選挙区で落選し)自民党比例代表で受かったのだから、議員辞職も一つの選択肢だ」と述べ、自民党を離党するなら議員辞職すべきだとの考えを明らかにした。

新党には興味はありません。興味があるのは比例当選した議員が離党した時の扱いです。現在の衆議院選挙制度は複雑で、小選挙区比例代表の二つに分かれているだけではなく、両方の選挙区に立候補が出来る制度です。そのため小選挙区で落選しても比例で復活みたいな現象が当たり前のように起きます。

ただ小選挙区での当選者と比例代表の当選者では扱いがチト異なります。私も完全に理解しているかどうか怪しいのですが、大雑把に分類すれば、

しごく簡単には小選挙区の議員が死亡などで議席を失えば、これを補充するために補欠選挙が行われます。一方で比例選挙区では党の名簿からの繰り上げ当選が行なわれます。小選挙区でも時期によっては次点候補が繰り上がる事もあるようですが、その辺の細かい点は省略します。名簿繰上げの順も以下同文にしておきます。

もうちょっと補足すれば小選挙区では議員の名前に投票し、比例選挙区では政党に投票すると言えばシンプルかもしれません。ですから小選挙区選出議員は議員の意志で離党したり、他の政党に移る事は可能です。では比例議員はどうなるかです。

比例議員は政党への投票で当選しているわけですから、議員が勝手に離党したり、他の政党に移ってもらっては少々都合が悪い事になります。ここからは公職選挙法になるのですが、これがかなり煩雑な書き方になっています。

第99条の2

 衆議院比例代表選出)議員の選挙における当選人(第96条、第97条の2第1項又は第112条第2項の規定により当選人と定められた者を除く。以下この項から第4項までにおいて同じ。)は、その選挙の期日以後において、当該当選人が衆議院名簿登載者であつた衆議院名簿届出政党等以外の政党その他の政治団体で、当該選挙における衆議院名簿届出政党等であるもの(当該当選人が衆議院名簿登載者であつた衆議院名簿届出政党等(当該衆議院名簿届出政党等に係る合併又は分割(2以上の政党その他の政治団体の設立を目的として一の政党その他の政治団体が解散し、当該2以上の政党その他の政治団体が設立されることをいう。)が行われた場合における当該合併後に存続する政党その他の政治団体若しくは当該合併により設立された政党その他の政治団体又は当該分割により設立された政党その他の政治団体を含む。)を含む2以上の政党その他の政治団体の合併により当該合併後に存続するものを除く。第4項において「他の衆議院名簿届出政党等」という。)に所属する者となつたときは、当選を失う。

眩暈がしそうな条文なのですが、読みにくくなる( )の部分を除去して書き直してみます。

     衆議院比例代表選出)議員の選挙における当選人は、その選挙の期日以後において、当該当選人が衆議院名簿登載者であつた衆議院名簿届出政党等以外の政党その他の政治団体で、当該選挙における衆議院名簿届出政党等であるものに所属する者となつたときは、当選を失う。
衆議院名簿届出政党とは衆議院議席のある政党の事で、そうでない政党は候補者届出政党と定義するようです。もうちょっと簡略に言うと選挙時に争った他の政党のうち、実際に議員のいる政党に移ったら議員資格を失うと言う事です。もっと現実的に言うと、記事にある与謝野氏が民主党なり、国民新党なりの現存する政党に移れば失格と言う事です。

ほいじゃになります。離党すればどうかになります。これは他の政党に移ったわけでは無いので、議員資格を保持できます。現実に与謝野氏は議員であり、自民も「辞職をしろ」と言うだけが精一杯の対応になります。さらに新たな政党を作ったり、それに参加するのはどうなるかと言えば、これは衆議院に議員のいる政党でも無く、総選挙時にあった政党でも無い訳ですから属するのは自由になります。現実に与謝野氏は新党を作り上げてそこに属しています。

ちなみに参議院にも比例代表がありますが、これについても、

前各項の規定は、参議院比例代表選出)議員の選挙における当選人について準用する。

ほぼ同様であると言う事です。


う〜ん、う〜ん、どうにも違和感が残ります。これは議員とは何者ぞの問題に終着しそうな気がします。誰が選んだ代表であるかの定義が比例ではややこしくなっていると思います。小選挙区は単純で、その選挙区の有権者が選んだ代表です。一方で比例選挙区は原則として政党が比例選挙区の有権者に選ばれたという見方になりそうな気はしています。

では議員が党の所有物かと言えば、これもまた微妙なところです。議員は個人でも議員であるからです。自分で考え、自分の意志、自分の政治信念を持つのが議員であり、党所有の投票ロボットと言ってしまって良いかどうかになります。単なる投票ロボットであるとするなら、極論すれば不要になります。比例選挙区で議員を選ぶ必要は無く、政党に○○票の投票権を与えれば済む事です。よほど安上がりになります。

比例議員が完全に政党の所有物であるなら、政党の方針に異を立てることも出来なくなります。異を立てて除名即議員失格とされ「代わりはいくらでもいる」の世界に放り込まれるからです。そのために政党と喧嘩して離党しても議員資格を失わないようにしているぐらいには解釈できます。

議員個人としてはそれでも良いかもしれませんが、有権者の意志はどうなるんだの問題が当然出てきます。有権者は比例の候補を選んだのではなく、政党を選んでいます。信任したのは政党であって、比例議員ではないと言えます。有権者が選んだ政党所属の議員が、勝手にその政党から離れてしまうのは、かなり有権者をバカにした行為という見方も成立します。


なんとなくスッキリしないのですが、有権者が議員に付託するものは何かになります。一般的には議員が掲げる公約なりマニュフェストなりの実現を期待して有権者は議員に投票し、議員は公約なりマニュフェストの実現に努める関係かと思いますが、公約やマニュフェストの実現もまた絶対ではありません。政治経済の情勢が変われば、公約墨守では政治が成立しないからです。

ほいじゃ、公約やマニュフェストが空証文かといえばそうでもないでしょう。公約と現実の中で達成できたものの評価が議員の評価になるでしょうし、その評価を次の選挙で審判を受けるわけです。ただ審判を受けるのは小選挙区なら議員個人であり、比例選挙区なら政党になるわけです。



あかん、あかん、どうしても話が解きほぐせません。私はどうしても議員は基本的に独立していると考えたくなりますから理解が難しくなります。私は議員はあくまでも個であり、その個の集合体が政党と言う見方が濃厚にあります。つまり選挙で選ばれるのはあくまでも議員個人であると言う考え方です。選ばれるのが議員個人であるなら、選挙後に離党しようが、他の政党に移ろうが、新党を作ろうが評価は任期中の活動の評価のみになります。

小選挙区やかつての中選挙区であるなら議員個人を優先して考えても差し障りがないのですが、比例議員の立場は難解です。無理やり理解すれば、比例議員は個人でもあり、政党所有でもありの二面性を持っていると言えば良いのでしょうか。

現在の選挙制度も難解ですが、比例議員の位置付けもかなり難解であることだけはわかりました。