某医師会長の言葉より医師会を考える

医師会に入ってよく判った事は、医師会(郡市医師会レベル)で役職をされ、さらに医師会出世双六を目指されている方は医師会活動に非常に前向きかつ熱心である事です。皮肉ではなく正直そう感じます。医師会活動と言っても郡市レベルでは活動は基本的に手弁当であり、本業への影響はどう見たって多大であるのに、ものともせずに精力的に活動されています。

それと郡市レベルの活動は地味なものです。これは地域差が大きいですが、神戸(神戸の場合は市ではなく区医師会)の小児科で言えば、毎月の保健所の検診業務への出務手配とか、急病診療所への出務手配、さらに区医師会単位でやっている休日電話相談事業みたいなものがあります。また市民無料医療講座みたいなものの主催(結構大変です)もあります。これらも誰もがやりたがるものならともかく、本音では「出来たらやりたくない」の会員の動員ですから、結構辛気臭いものです。

他には行政情報の伝達、さらには伝達内容の疑義の折衝なんかもあります。伝達内容は通達とか、事務連絡の類で来るのですが、この手のお役所文の解釈は時に難儀です。また解釈できる人間であっても、「こういう場合はどうなんだ」の疑問点は良く出ます。これらの質問の会員からの受け皿が医師会であり、これについての行政サイドへの折衝も医師会のお仕事です。

医事紛争の仲介もまた医師会業務の一つであり、これなんか間違っても担当者にはなりたくないと思います。しかし現実には担当者が存在し、もし発生すれば精力的に解決に当たって行くです。弁護士に丸投げするだけじゃないかと考えている人もおられるかもしれませんが、実際には弁護士に委任する前に担当者だけで解決している紛争もあると言う事です。

たまたまかも知れませんが、郡市医師会レベルでは爺医とまで揶揄される幹部の多くが、邪気少なくカネにも利権にもならない世話役を熱心に勤められているのです。能力的な差はここでは置いておきます。言いたいのは姿勢です。



えらい医師会擁護のオンパレードになってしまいしたが、とある日に某医師会長(日医ではありません)の話を聞いた(つうか聞かざるを得ない状況にあった)のですが、この人物もまた異様なぐらい医師会活動に熱心です。そいでもって理想の目標を掲げ、そこに近づく努力を惜しまれていません。ただ目指す理想がチョットなんです。いや変な理想を掲げておられる訳ではないのですが要約すると、

  • 勤務医にも医師会に出来れば全員入って欲しい
  • 医師の団体として加入者が全員に近づくほど発言力が強くなり、医師のための施策が実現しやすくなる
これが理想の目標であるらしいです。これを戦略目標として、当面の戦術として、
  • 勤務医に医師会活動の本質を理解してもらうにはどうすれば良いか
  • 医師だけでなく他の市民にも医師会活動をもっと理解してもらうにはどうすれば良いか
これに対して具体策を熱心に検討されておられるです。この戦略目標自体は基本的に「正しい」とは思います。郡市医師会レベルの活動は地味ではありますが勤務医にアピールできる点はあると思います。それで魅力を感じるかどうかは別としても、医師として理解可能ですし、そういう地域医療レベルに協力するために医師会に入会すると言うのは選択枝として生じます。

もっと現実的なお話としては、嫌でも今後増加する在宅医療に伴う病診連携のパートナーとして医師会の存在は利用価値はあるとは思います。病院医療の今後の問題は、いかに退院患者の受け皿を円滑に見つけていくかにあり、開業医集団の団体である医師会と喧嘩しても仕方がなく、より効率的な関係を結ぶために医師会に入会しての情報交換とか連携はあっても悪くない選択だからです。



綺麗事だと笑われるかもしれませんが、正しいのは正しいとは感じます。しかし、さらなる前提が抜け落ちています。言うまでもなく医師会活動の頂点にいる日医の問題です。医師会はどこもしょせんは日医の手下であるの見方は一面の真実ではありますが、必ずしもそうは言い切れない部分があると考えています。活動実態として、下に降りるほど純粋の地域医療活動になるです。

逆に上に行くほど政治的要素が強くなります。もっともそういう役割分担で階層化されていると言えばそれまでなんですが、末端医師会には政治的要素が非常に希薄です。やっている業務の主体は上記したような地味なお仕事です。

昔からそうであったのか、ある時期(たとえば武見時代)から変質したのかは知る由もありませんが、頂点にいる日医と末端医師会の関係は妙に薄いところがあります。末端医師会員が関係するのは、神戸であるなら区医師会が直接であり、医師会の役職についてようやく市医師会、県医師会と関係を持つ程度です。日医なんて上部に存在する事を知っている程度です。

某医師会長が勤務医の医師会加入を勧めるのは頂点である日医の発言力を高めるかもしれませんが、その日医に末端医師会員はタッチする事は出来ず、事実上の白紙委任状を出しているに過ぎないです。そうなれば白紙委任状を提出する日医への信頼問題になります。つまり、

    医師にとって日医は信頼できるか?
この命題に帰着するわけです。某医師会長の発言ニュアンスをそれなりに慎重に聞き分けていたのですが、やはり某医師会長は日医を信頼しているようです。考えてみれば当たり前で、あれだけ精力的に活動すると言う事は医師会出世双六をさらに進めたいわけです。自分が双六で進む「あがり」の日医を信頼していない訳がないです。

つうか、たとえば現在の執行部とかに対しての批判ぐらいはあっても、現在の医師会体制については是認しており、せいぜい「このオレがあの席に着いた暁には」ぐらいのところかと思っています。まあ、そういう意欲的な人物が「いつの日」か日医会長の椅子に座り、日医改革を断行してくれるのは構わないのですが、現状で日医を信頼する前提で勤務医を勧誘するのは無理だろうが正直な感想です。

たとえばこの勤務医の医師会加入促進ですが、神戸と言う狭い枠組みでやろうとするのならまだしも可能性があります。神戸と言う狭い枠組みなら、病診連携などの地域医療への参加は地味でも勤務医にもメリットが出ます。また行政との折衝でも、医師会加入率が高いほうが発言力は強くなりますし、150万都市と言っても会員数もしれてますから、勤務医会員の発言力を確保する手立ては色々に工夫できます。これが日医と連動すると言った途端にすべてが色褪せるです。



日医への信頼が揺らぐ原因は歴史的経緯もあるでしょうが、構造的な問題もあると思っています。医師は医療だけに限定すれば共通項がありますが、労働上と言うか、経営上と言うか、経済的な立場からすると細分化されます。おおまかには3つぐらいに分けられると思いますが、

  1. 勤務医
  2. 個人開業医
  3. 病院経営者
言い換えればサラリーマン、個人商店主、会社経営者です。この3つの立場の利害は一致しません。他の職種であってもこの3つは別々にグループを経営します。会社員だって管理職以上とそれ以外は立場が異なるみたいなものです。立場が異なった結果としてサラリーマン階級は労働組合に収束されますし、経営者は経団連みたいなものに収束されます。そして個人商店主はどちらも入れないです。

日医はこの3つの集団の利害を代表できるかの命題があるわけです。そう考えると、かつて伝説の武見元会長の就任がクーデターになったのは理解出来る様な気がします。つまりどこかのグループが主導権を握れば他のグループにとっては不利益が生じるです。武見元会長は開業医グループが主導権を握る様にしていますが、そうする事が必要であったです。

あくまでも結果論ですが、3つのグループの利害を調整するのは基本的に無理があり、開業医グループの利害に純化したのが当時の日医であったです。だから今でも言われる日医は開業医の利害団体であるはウソでも誤解でもなかったわけです。言い方は悪いですが、他のグループを排除したからこそ、あれだけの権力を武見元会長は揮えたんじゃないかとも言えそうな気がします。

ちなみに現在の日医は開業医の団体とも言い難いところがあります。執行部の構成を見ればわかるように、中規模の医療経営者の利害代表団体となっています。あえて言えば、経営者サイドに偏っているぐらいの評価で良いと思います。経営者と労働者は人間関係はともかく、経営上、労働上は対立する存在になります。勤務医の利害を日医が代表するとは、経団連が労働者の立場を代表しているみたいなものとも言えそうな気がします。

経営者も労働者も同じ医師だからと一つに括ってしまうのはかなりの無理があると感じてなりません。仮に労働者(勤務医)が日医の主導権を握ってしまえば、今度は経営者グループが分裂すると思います。それぐらい立ち位置が違うと言う事です。もし日医が医師を代表する組織でありたいなら、これだけ立ち位置の違う利害者集団を不満なくまとめる能力が要求されると言う事です。

神戸と言う狭い枠組みであれば、まだしも勤務医の医師会加入促進は可能としたのはこの点で、実際に行う事業が純医療分野に多く、利害の共通項が多いからです。これが日医レベルの国相手になると共通項より対立項が必然として増えるから溝が広がるです。溝は構造的なものであり、小手先の対応ぐらいでは如何ともしがたいです。言ってみれば、日医史上の巨人である武見元会長ぐらいの力量があっても難しかろうです。


・・・てな事を、やる事もないので考えていました。そいでも現実としてはそんな根源的な話を持ち出しても誰も聞いてはくれないでしょうし、仮に議論したところで上手い解決策が出てくる訳でもありません。もしも協力を依頼されるような事があれば・・・私の得意技であるお茶をしっかり濁させて頂きます。リアルの私は医療政策とか、医師会とかには興味も関心も薄いタダの町医者ですから。