コップの中の乱戦

日医前会長が様々な経緯で1期で引き摺り下ろされたのはよく御存知かと思います。この前会長の地元が大阪で、次期日医会長選で捲土重来を画策したのが事の始まりのようです。手始めと言うか、足がかりにしたのが府医師会会長選で、現会長支持派と壮絶なつばぜり合いを行なったようです。その段階の様子を2/5付の日刊薬業では、

大阪府医が内部対立

 次期日医会長選をめぐっては、現唐澤執行部への対応を争点に大阪府医師会が内部で対立。次期日医執行部に人材を送り込み内部からの改革を訴える現職の酒井國男会長と、反唐澤執行部の集結を訴える伯井俊明氏(前日医常任理事)の2人が次期府医会長に立候補を表明し、両陣営が熾烈(しれつ)な選挙戦を繰り広げている。

 伯井氏は、2年前の日医会長選で唐澤氏に敗れた前日医会長の植松治雄氏が支援。植松執行部時代に伯井氏とともに常任理事を務めた松原謙二氏も共同歩調を取る。一方で、植松執行部で同じ常任理事を務めた三上裕司氏は酒井氏の陣営に加わり、日医執行部12年の経験を持つ糸氏英吉・元日医副会長も酒井氏支持。22年ぶりに選挙が行われる2月14日の府医会長選へ、日医の執行部経験者が対立する構図となっている。

構図は

  • 酒井國男氏:親唐澤派
  • 伯井俊明氏:反唐澤派
府医師会を真っ二つに割る会長選挙の結果はRisfax【2008年2月15日】によれば、

「唐澤日医」打倒勢力、対抗馬擁立は消滅

大阪府医師会長選 酒井氏が1票差勝ち、135対134の大接戦

 大阪府医師会長選挙は14日、投開票され、現職の酒井國男氏が、前日本医師会常任理事の伯井俊明氏(松原市医師会出身)を破り、3選を果たした。代議員270人の投票で、酒井氏135票、伯井氏134票とわずか1票差(白票1票)だった。伯井氏は、現日医執行部を批判し、再選出馬する見通しの唐澤祥人会長の対抗馬を擁立する意向だったが、落選で事実上不可能になった。小脳出血で倒れ入院中の唐澤氏の回復度合いにもよるが、4月の日医会長選では、現執行部勢力が主導権を握りそうだ。

 双方が「大差の勝利」と豪語したものの、フタを開けてみると、史上まれにみる大接戦だった。酒井氏は「どちらにとっても信じられない結果だろう」と評した。現日医執行部について「例えば診療報酬改定では鈴木(満)常任理事が孤軍奮闘するなど、組織的な連携が欠けている印象」と語った。そのうえで伯井氏の「打倒・日医」ではなく、「話し合ったり、人材を送り込んだりすることで内部改革していきたい」と強調。「倒すこと自体に反対ではない。ただ倒すためには仲間が必要だが、近医連(近畿医師会連合)の雰囲気もそうではない。私が会った全国の都道府県(医師会)会長でも倒そうと主張する人はいない」と話し、現執行部を是認することが現実的対応との見解を示した。一方、伯井氏は「今の日医ではダメという主張が、本当に代議員に理解されなかったんだろう」と敗戦の弁を述べた。

 酒井氏、伯井氏ともに2年前の日医会長選では、地元・大阪から2選を狙った植松治雄会長(当時)を支持した。しかし、植松氏が唐澤氏に敗れた後、「親自民」を掲げて当選した唐澤執行部との距離をめぐって、意見の違いが顕在化。ついに86年以来22年ぶりの府医会長選に突入した。酒井氏は、自民党と協調路線をいく唐澤執行部と徐々に関係を深め、「是々非々」としながらも支援に転じた。「(伯井氏のように)府医を怨念と復讐で引っ張っていくことはできない」などと痛烈に批判したうえで「日医会長の指導力と会内の団結力が重要」と訴えた。

 植松氏の側近中の側近である伯井氏は「唐澤執行部のような姿勢では、政府の医療費抑制策を主眼とする改革路線に対抗できない」「医師会は自民党のポチでいいのか」などと主張。大阪府医を中心に反唐澤勢力を結集して、新たな日医執行部をつくることをめざしたが、1票に泣く結果となった。

激しい会長選だった様で、会長選に先立って行なわれた議長選では伯井派が5表差で勝利し、本番の会長選では1票差で酒井派が勝利しています。議長選から会長選の間に何が行なわれたかは想像するのも恐ろしいものです。それでも結果は結果ですから、曲がりなりにも一件落着と思いきや、第2ラウンドの鐘が打ち鳴らされます。

会長選の投票用紙の中に1枚だけ規定外の投票用紙が含まれていたのです。それも都合の悪い事に酒井派の1票だったのです。これが無効になればなんと投票数は同点となります。ここまで怨念がこもった選挙ですから伯井派の反撃が行なわれます。2/26付産経新聞より、

大阪府医師会長選で落選の陣営、効力停止求め大阪地裁に仮処分申請
2008.2.26 14:07

http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/080226/trl0802261405008-n1.htm

 今月14日に行われた大阪府医師会の会長選挙をめぐり、1票差で敗れた府医師会元副会長の伯井俊明氏(63)の陣営が26日、選挙の結果は医師会の定款に違反するとして、府医師会と3選を果たした酒井國男会長(64)を相手取り、選挙結果の効力停止を求める仮処分を大阪地裁に申し立てた。

 申立書などによると、会長選挙の投票は、どちらかの名前の上に「〇」を記入する選択方式を採用。しかし、酒井会長の得票に、古い記名方式の投票用紙1枚が混ざっており、代議員会議長が有効と判断。その1票が無効と判断された場合、2人の得票が同数になるため、くじ引きで新会長が選ばれるはずだった。

 伯井氏側は「正規の投票用紙を用いないものは無効」という府医師会の定款などを挙げた上で、「議長は票の判断をする権限を持たないことも定款に書かれており、何から何までおかしなやり方で行われた選挙だ。新会長の就任が既成事実になることは納得できない」と主張。

 一方、府医師会の酒井会長は「詳細が分からないので今の時点ではコメントできない」としている。

舞台は法廷闘争まで拡がる事になります。

正直なところ手続きはともかく、規定外の投票用紙の有効性を認めた判断は妥当かと思いますが、筋を立てれば仮処分申請にも理はあり争いは泥沼化していると見て取れます。外野から見れば野次馬根性で「もっとやれ、もっとやれ」と囃し立てたいような騒動ですが、冷ややかにみればどっちもどっちの争いです。投票用紙云々の事は抜きにしても、酒井派も伯井派も何のために争っているのだろうと思ってしまいます。

伯井派は反唐澤ですから、大阪府医師会を握り日医会長戦への橋頭堡を築くのが目標のはずです。大阪府医師会を握るために会長選挙に挑んだのは分かりますが、日医会長戦まで繋いでいくためには「圧勝」が理想的条件です。圧勝でなくともそれなりの票差で勝つことが必要条件で、僅差であれば両派に大阪府医師会が分裂し十分な橋頭堡になりません。ましてや法廷闘争まで展開しての逆転勝利では、怨念が濃厚に渦巻き日医会長戦どころでなくなると思うのは私だけでしょうか。

酒井派は親唐沢ですからどんな形であれ勝利すれば目的を果たします。西日本の大票田である大阪が反唐澤一色にならなければそれでOKで、目的は十分に果たしていると考えます。問題は大阪を真っ二つに割ってまで貫いた唐澤支持にどんな意味があったかです。現会長を支持しても本来何も悪く無いのですが、現会長は小脳出血を起こし現在治療中です。程度は不明ですが、いわゆる半病人状態です。医療情勢が平和な時代であれば続投も結構でしょうが、激動の時代の会長として舵取りを任して問題ないと判断しているのでしょうか。その点が不思議でなりません。

半病人であっても得難いカリスマであるとか、現会長以外に政府と渡り合えるものがいない実力者であるのならともかく、私の知る限り現会長の実績・評価は高いとは思えません。そのうえ健康状態に不安を抱えるとなれば、他の人材を探す選択の方が日医全体としてはメリットが高いように感じます。酒井派も内部改革を訴えていますが、唐澤続投の上での改革とは首を傾げざるを得ません。他の人材が伯井氏であるかどうかは別問題としてもです。

日医の内情は詳しくありませんが、活力のある組織であるなら常に有力後継者が複数控えており、トップの活動に支障が生じればすぐさま取って代われる状態になっています。活力が低下してくると後継者の質が低下し、さらに低下すると後継者さえ枯渇してきます。日医の活力の低下は半病人の並みの資質の会長の対抗馬さえ出てこない状態に陥りつつあるとさえ見えます。

平和な時代であれば対岸の火事として眺めるだけでよいかもしれませんが、今の医療情勢を考えると無駄な権力争いに見えて仕方ありません。それでもここまで来れば、行くとこまで行くんでしょうね、きっと。