ステラ賞については前にも取り上げた事があるのですが、簡単にご紹介すると知る人には有名なマクドナルド・コーヒー事件に由来しています。訴訟大国アメリカでも「さすがに・・・」と言わしめる訴訟(判決ではありません)にランクを付けて賞を贈ると言う企画です。
前のエントリーからだけのものでラクをしますが、2006年度の1位は、
2006年度優勝者:アラン・ヘッカード
オレゴンのポートランドに住むヘッカードは、バスケットボールのスター選手であるマイケルジョーダンより3インチ(≒8センチ)も背がひくく、体重も25ポンド(≒11.5キロ)軽く、8歳以上年上であるにもかかわらず、ジョーダンと似ているため頻繁に間違われることがあると言い張っていた。それにより、ジョーダンに対し「名誉毀損と永久的な(心的)外傷」を負ったとして5200万ドル、「精神的苦痛に対する懲罰的損害賠償」として3億6400万ドルの訴えを起こした。さらに彼は同額の訴えをナイキ社の共同創業者であるフィル・ナイトに対し起こし、総額8億3200万ドルを要求した。しかしながら、彼はナイキ社の代理人との話し合いでこのまま訴訟を続けた場合逆に訴えるなど強硬な措置に打って出ると聞かされ、すぐに訴えを取り下げてしまった。
And the winner of the 2006 True Stella Award: Allen Ray Heckard. Even though Heckard is 3 inches shorter, 25 pounds lighter, and 8 years older than former basketball star Michael Jordan, the Portland, Oregon, man says he looks a lot like Jordan, and is often confused for him -- and thus he deserves $52 million "for defamation and permanent injury" -- plus $364 million in "punitive damage for emotional pain and suffering", plus the SAME amount from Nike co-founder Phil Knight, for a grand total of $832 million. He dropped the suit after Nike's lawyers chatted with him, where they presumably explained how they'd counter-sue if he pressed on.
ズボンなくされた裁判官、クリーニング店に66億円賠償請求
【6月13日 AFP】クリーニング店にズボンをなくされたとして裁判官が店を相手取り5400万ドル(約66億円)の損害賠償を求めた訴訟で12日、審理が開かれた。裁判所関係者が明らかにした。
訴えを起したロイ・ピアソン(Roy Pearson)さんは、ワシントンD.C.(Washington D.C.)の裁判官。韓国系移民チャンさん一家が経営するクリーニング店「Custom Cleaners」に青と赤のストライプが入ったグレーのズボンを出したところ、同店がズボンを紛失。店の看板にある「満足保証」との文言に欺かれたと主張している。
米テレビ局ABCのニュースによると、ピアソンさんは同店がコロンビア地区消費者保護法(District of Columbia consumer protection laws)に違反するとして、5400万ドル(約66億円)の損害賠償を求めた。この請求額は、同店が「満足保証」の看板を掲げていた日数に、1日1500ドル(約18万円)を掛けて算出した。
ピアソンさんは、チャン夫妻とその息子を別々に提訴。消費者保護法違反に加え、心理的ダメージへの賠償と訴訟費用も併せて請求している。なお、訴訟手続きはピアソンさん自身が行った。
チャン夫妻はABCニュースのインタービューで、年収の2倍の弁護士費用を払ったと述べた。
ABCの報道によれば、ピアソンさんは訴状で、チャン一家の店でズボンをなくされたのはこれが2度目だと記している。
裁判所の広報がAFPに語ったところでは、ピアソンさんはチャン一家のクリーニング店の顧客を含む、地元住民を証人として出廷させた。ワシントン・ポスト(Washington Post)紙の法廷ブログ記者の記事によれば、このうち89歳の退役軍人は、以前同じクリーニング店でズボンを台無しにされたと証言した。ピアソンさんは証言台に立ち、自身のつらい離婚経験や金銭トラブルについて、涙ながらに語ったという。
弁護側のクリストファー・マニング(Christopher Manning)弁護士は、「アメリカ人の裁判好きもここまできたか」と述べたと、ブログは伝えている。審理は13日に結審の見込み。(c)AFP
さすがはアメリカで、ステラ賞1位となると日本はまだまだだろうと思っていたのが去年の話です。しかし何でもアメリカを追いかける日本で、ステラ賞に匹敵するように感じさせる訴訟記事があります。マクドナルド相手と言うのも因縁を感じますし、さらにそれ報じているソースがタブロイド紙(9/11)であるというのも取り合わせの妙です。もちろん記事の内容がそう読めるように感じるだけで、実際のところは知りようもないので、誤解無いようにお願いします。
マクドナルド損害賠償訴訟:店先で転倒し障害 熊本地裁で口頭弁論 /熊本
熊本市新市街のハンバーガーチェーン「マクドナルド新市街店」出入り口付近で転び、障害を負ったのは店側が安全管理を怠ったためだとして、市内の女性(61)が日本マクドナルドに約2600万円の損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が10日、熊本地裁(古市文孝裁判官)であった。被告側は事故が起きた詳しい場所の資料提出を女性側に求め、争う姿勢を見せた。
訴状によると08年12月8日午前11時45分ごろ、女性は店内で食事した後、出入り口の自動ドアから新市街アーケードに出る際、雨で濡れていた出入り口外側の同社の管理敷地内の床タイルで転倒して左大たい骨を折った。1カ月以上入院し、左股関節に後遺障害が残った。
女性は「アーケードは工事中で店先に雨が降り注ぐ状態だったにもかかわらず、店側はモップなどで水をふいたり、吸水シートを敷いたりするなどの安全義務を尽くさなかった」と主張している。
大怪我をされた原告の女性は御不幸な事です。事件の経緯は単純なようで、雨の日にマクドを利用した原告が、マクドの出口で転んで大怪我をしたと言うものです。転んだ場所が出口とは言え
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同社の管理敷地内の床タイル
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店側はモップなどで水をふいたり、吸水シートを敷いたりするなどの安全義務を尽くさなかった
新市街アーケード
熊本は一度しか行った事がないので、新市街アーケードと言われてもよくわからないのですが、おそらく「サンロード新市街」ではないかと推測されます。住所も「熊本市新市街」となっていますから、おそらくこの商店街であると考えられます。探せば写真があったので示しておきます。満遊くまもとに、
問題のマクドの店ははマクドナルド・熊本新市街店としてもよいかと思います。この店がアーケード街のどの辺にあるかと言えば、食べログ グルメレビュアーによりますと、
新市街店は熊本市街にあるアーケードの、下通と新市街のちょうど曲がり角にあるため、通称「角(かど)マック」と呼ばれ
店の写真がないかとググってみると、熊本民主商工会の2005.12.28の記事にありました。
この「管理敷地内」ですが、どうやら幅は狭そうな印象はあります。商店街の店舗で、さらに角地ですから、通路(道路)側に出来るだけ接して作られる事が通常は多いと考えます。それと記事にある、
被告側は事故が起きた詳しい場所の資料提出を女性側に求め
原告はマクドの「管理敷地内」で転倒したので賠償を求めていますから、管理敷地外であれば被告のマクドに責任がなくなります。管理敷地の幅が1メートルも2メートルもあれば転倒場所について争う可能性が低下しますから、幅はタイル1枚程度のものであるかもしれません。つまりそこを跨いでから転倒したのか、そうでないのかです。
転倒場所については水掛け論になるかもしれませんが、仮にマクドの管理敷地を跨いで転倒したのなら、その先はたぶん熊本市が管理する道路の可能性が強いですから、今度は道路管理者に、
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モップなどで水をふいたり、吸水シートを敷いたりするなどの安全義務を尽くさなかった
民事訴訟は誰でも起こせますから、この訴訟がそうであると言っているわけではありませんが、聞くと「なぜに訴訟」みたいなものは決して少なくありません。裁判所の統計によると、平成20年度の民事訴訟の新受だけでも80万件を越えていますから、いろんな訴訟があると言う事です。
マスコミは今回の様に訴訟が起きた事を時にニュースとして伝えますが、当たり前ですがすべてを伝えているわけではありません。すべてどころか、殆んどすべては伝えていないとして良いと考えます。伝えるのは重要性・話題性を考慮して価値を見出したものに限定される事になります。こんな事は説明しなくとも常識です。
そういう観点からすると、今回の事件を幾多の民事訴訟の中からわざわざ取り上げたのは、やはり首を傾げざるを得ないところがあります。記事が伝える限りの内容であれば、原告が勝利したら伝える価値はあると感じますが、訴訟を起した時点ではそこまで価値のあるものかどうかに疑問を強く感じます。
マスコミが「???」の内容の民事訴訟を記事にするときに、しばしばあるのはマスコミが原告を強く支援しているときがあります。とくにタブロイド紙は明らかな実績があります。原告の追跡取材を優先的に行う事により記事にするという手法です。時には渋る原告を説き伏せ、弁護士までセットアップして訴訟に及ぶ時があります。
今回がそうであるかどうかはまったく不明ですが、マクド・タブロイド紙・ステラ賞と3つ並べると、なぜか関連性があるように感じてしまうのが本当に摩訶不思議です。