事故調と日医

今日はまず山中教授がノーベル賞に輝いた事を祝福します。広い広い広〜い意味で同じ医学の徒の仲間として嬉しいところです。同じ医学の徒と言っても山中教授はノーベル賞の研究、私は町医者で落差は相当なものですが、医学では町医者もまた重要なパーツと信じて自分の役割を果たしたいと思っています。では、そんな壮挙とは異次元の地べたに這うようなお話をお送りします。


事故調日医案の意見集約法

日医が事故調の創設に前向きに動いています。個人的には前に挫折した大綱案の問題点を何も解消していないので、前回同様私の意見は反対です。日医は前回の大綱案の時もあの木下理事が全国行脚までして推進に努めており、成立寸前まで漕ぎ着けた経緯があります。あの時と執行部のメンバーは2回変わりましたが、未だに日医は「大綱案の問題点を残したままでも事故調ウェルカム」であるのがわかります。

日医が推進派である事はチョット置いておきます。大綱案の問題点を蒸し返していたら今日のエントリーは終わってしまいます。興味を持ったのは日医の意見集約手法です。これは別に機密情報ではなく、医師会員なら問い合わせれば入手できるクラスの情報です。

Date 経緯
9/21 日医から都道府県医師会にあてて日医の事故調案を通達
兵庫県医師会長から、日医文書を伝え、意見を県医師会まで届けるようにと、文書が郡市医師会に通達
9/25 神戸市医師会理事会で議題となる
9/26 神戸市医師会HPに医師会案を掲載
10/5 兵庫県医師会への意見締め切り
10/9 日医意見締め切り


日医が都道府県医師会に日医案を示し意見を求めたのが9/21、それでもって意見の締切が10/9ですから、全部で19日間の日程になります。19日間が長いか短いかは考え方があるでしょうが、医師会意思決定システムからすると短いと思います。今回の意見集約方式は言い換えると、
  1. 日医案を郡市医師会レベルで可否を問うべし
  2. 都道府県医師会は郡市医師会レベルの意見を集約して、都道府県での可否を表明せよ
でもってなんですが、まず郡市医師会レベルの可否をどうやって聞くかです。これは郡市医師会の理事会になります。大建前としては郡市理事会からさらに郡市の一般会員に意見を聞いての決定にするべきでしょうが、実態として理事会が決めます。また一般会員の意見を聞くにも時間がありません。

一般会員の意見を聞く時間がないと言うのは理事会スケジュールにも関連します。たとえば神戸市では確か月2回開催が基本です。9/21に県経由で日医からの伝達が来て、これを受けての理事会が9/25に開かれたのはそういう理由と考えてください。話を神戸の例にしますが、ここで神戸市理事会が一般会員の意見を聞こうと思ったら、さらに下部の区医師会に委ねる必要が出てきます。

区医師会も月2回の理事会を開催しているのですが、当然ですが市理事会の後の開催になります。そこから区の一般会員に意見を聞くとしても、その意見は次回の理事会の議題になります。理事会で区としての意見を決定して市に持って上り、各区の意見から市の意見を決定するのも市の理事会です。そこからさらに県の理事会と言う事になります。ですから県の締切が10/5なのも理事会スケジュールの都合と私は見ます。

これだけの手続きを19日間で済ませるには非常に短いと見ます。


ここで理事会スケジュールを繰り上げれば良いの意見は当然出てくると思います。事故調案は医師にとって非常に重要な問題であり、臨時の理事会を開催してスケジュールを短縮すべきであるです。これは正論なのですが、もう一歩引いて考えて欲しいところで、そもそもそこまで急いで結論を出すほど切羽詰った問題かです。緊急に政府案なりに対抗して出す必要がある事態かどうかです。

事故調案は前回の挫折から4年は経過しています。また日医案自体は去年から叩き台は出来ています。前回は基本的提言で今回は骨子だそうです。内容はサラサラと見る限りとくに大きな変更点はないと見ています。去年の時点ではとくに基本的提言に対する医師会の意見集約はなかったはずです。つまり1年以上は余裕で時間はあったです。

厚労省が再び事故調案成立に向け動いてはいますが、現時点では前回のように今日明日みたいな切羽詰った状況とは思えません。なんちゅうても、いつ解散総選挙があるかわからない状態ですし、総選挙後にどこの党が与党となり、誰が首相になり、はたまた誰が厚労大臣になるかも不確定要素がテンコモリ状態です。日医が日医案を対案として準備しておきたいのは最低限理解しますが、意見集約に拙速が必要とは私は思えません。

ここで都道府県や郡市医師会の理事と言っても、はっきり言って手弁当でやっており、臨時理事会が増える分だけ本業を圧迫します。余程の緊急事態ならともかく、そうでなければ定例理事会のスケジュールで問題を出来るだけ処理しようとするのが自然です。つまりと言うほどではありませんが、日医が事故調案に求めた合意過程は、

  1. 郡市医師会理事会での1回審議による合意
  2. 郡市医師会理事会の合意の集約による都道府県医師会の1回審議による合意
これをやるぐらいしか時間が無いという事です。つうかそれしか求めていないと考えるのが妥当かと思われます。もう少し言えば、下手に時間的余裕を与えれば異論が噴出しかねないので、あんまり考えずにサッと決めてもらいたいの意向と見ます。どうしても日医案を原案のまま通したいのでしょうが、これで前回のように
    ほとんどの医師会が賛成している = ほとんどの医師会員の多数が賛成している
これをやられると思うとウンザリします。だいたいですが、都道府県クラスの理事であっても何故に前回の事故調案が挫折したかを本当に理解しているか私は大いに疑問です。事故調案の真の問題点を知っている者がどれほどいるかです。事故調案の問題点を知っていないと議論しにくい案ですから、さほどの基本知識もなく資料としてドカンと渡され、「意見はございませんか」をやられたら少々意見が出てもシャンシャンになってしまうです。

定例理事会と言っても事故調案だけを検討するわけでなく、時間の殆んどを上部の医師会からの伝達事項の朗読に費やされます。残された時間で検討事項を幾つか討議するわけで、事故調案を丁々発止でやったりすると、とんでもないマラソン会議になる仕組みです。もっともマラソン会議を苦にせず、翌朝までやっても平気そうな方々も少なくありませんから、時間の点はさほど気にする必要はないかもしれません。


定番の愚痴

ここからは愚痴ですが、医師会内部の事情をそれなりに知るようになってから痛感しているのですが、医師会活動に熱心な者ほどヒラメ傾向が強いと感じています。それぞれ個人としては人柄も良く、また地域レベルの医師会活動に熱心なのは高く評価していますが、上から来る決定事項には異様に忠実な側面があります。上で決定されて伝達された事は絶対であるとの考え方です。

もちろん、自分なり自分が直接所属する医師会に不利なものであれば反論もしますが、もっと大きな問題となればサラサラと流してしまうです。そりゃ、市の下の区の医師会レベルですから、直接関係するのは殆んどは市レベルの問題です。市と区のレベルの問題なら身近で現実的ですから、討議にも力が入りますが、その上になると雲の上の世界になるのは致し方ないとは思います。力瘤を入れたところで、どうにもならないからです。

それと医師会活動に熱心な人ほど医師会的出世を望まれます。断っておきますがそういう事を否定する気はまったくありません。あれだけ本業を犠牲にして、手弁当で医師会活動に従事しておられるのですから、せめて肩書き的な名誉を欲しても批判されるものではないと思っています。肩書き的な名誉の価値観はあくまでも主観ですから、それが欲しいのなら求める事自体は至極当然の事と思っています。それぐらいの代償はあって然るべしです。

ただなんですが、医師会に限らずどんな組織であっても出世はさらに上位の者がその能力なり、実績を認める事が必要となります。変な話ではなくて、上に気に入られて引き立てられないと出世は出来ないです。この構図はあらゆる組織にあり、医師会もまた例外では無いです。でもって医師会はかなり年齢層が高い組織体ですから、どうやれば上に気に入られ、嫌われないかをさすがに経験からよく御存知であると言う事です。

医師会的問題で区と市の問題が生じた時に解決に尽力するのは、手法にもよりますが「あいつは出来る」の評価を獲得する可能性が期待できるものです。それが区と県とか、区と日医となるとある種の越権行為になります。そこに口出ししたければ、そこまで上がってから口を挟むのがルールだと言う事です。これはこれで組織の秩序を守る面の評価になりますが、この意識はさらに下部に適用されるのが現実です。

今回の事故調案クラスの問題になると、本来はそれこそ全医師会員レベルに関ってくるものになるはずです。ところが区理事クラスであってもこれに「まったく」関与できないです。日医が郡市医師会と指定すれば区以下は切り捨てられる訳です。この切り捨てられる中に末端の一般会員がゴッソリ入っているわけです。


もちろん何万人もの会員を抱える巨大組織の運営ですから、全員の意見を聞いていたら永遠の小田原評定になるとの考え方もあります。だから委任、委任で意思決定権を預けているわけです。ただ多重委任の果ての決定にどこも口を挟めないのもシンドイところです。委任による意思決定システムに支障が生じている原因は良くわかっているのですが、このシステムを変更すのにも多重委任の果ての意思決定が必要と言う点でクラクラします。

今回の意見集約によって私も含めた医師会員の多く、下手すると全員が賛成と受け取られるのも心外です。せめて私は反対であると明言しておきます。せめて区レベルでも理事会クラスで発言する機会がもしあれば、反対意見があった爪痕ぐらいは残したいところです。でもないだろうなぁ、そもそも機会もないし、やったからと言ってどうなるわけでもないし・・・。