日暮れへのツーリング(第4話)トラウマ級の黒歴史

 これで決まり、最後の男と考えてたのが健吾だ。こいつも外面もその他条件も悪くなかったかな。交際は順調でそろそろ同棲って話が出た頃にボロが出てきた。なにが出て来たかだけど、

『そんなこと母さんならしない』
『それは母さん好みじゃない』
『そんな靴は母さんなら履かない』

 マザコンのフラグが立ち始めたんだ。あれも結果としては大失敗だったけど、歳も歳だからもう結婚してやるって思いが強すぎたのよね。自分でも懲りないやつだって後で思ったかな。

 とりあえずなんでもかんでも母親を引き合いに出すのはやめてくれって頼んだし、その場では了解してくれた。これならなんとかなりそうと思い出した頃に、渚が夕飯を作ったんだ。そしたら堪え切れないようにやっぱり出てきた。

『母さんの味と違う』

 作る人が変われば同じ料理でも味付けも仕上がりも変わるのは当たり前だ。これだって味付けの好みが違うのはまだ許す。渚好みの味が必ずしも受け入れられない事はあるはずだもの。

 だけど健吾の基準は、あくまでも母親なんだよ。会ったこともない人、食べた事もない味に合わせられるはずがないだろうが。そう言い返したら、

『それもそうだ。同居してしっかり躾直してもらう』

 結婚を視野に入れるのは良いとしても、いきなり同居前提かよ。フラグが五本ぐらい立ち上がった気がした。そこからなんだけど、なんか抑えに抑えていた思いが噴き出すと言うか、堰を切ると言うかみたいになって、

『母さんなら・・・』
『母さんは・・・』
『母さん・・・』

 怒涛のような母さんワールドが展開しやがった。聞いてると健吾の理想の女とは母親であり、それ以外は認めもしないぐらいかな。そうなると渚は嫁として母親のコピーになれって事なのかって聞いたんだ。

『当たり前だ。そのための嫁だ』

 どこかでプツンって音がしたかな。そこまで言うのなら母親と結婚すれば良いじゃないの。

『渚はアホか。血の繋がった親子が結婚なんか出来るはずがないだろ』

 じゃあ、もし血が繋がってなかったら?

『そんなもの聞かれるまでもない』

 マザコンフラグがスタンドいっぱいに翻った。この世にはマザコン男はいるけど、ここまでのマザコンは滅多にいないよ。さらにって話だけど、どこをどう聞いても母親も子離れが出来ていない。

 マザコン息子と子離れできない母親の組み合わせは極悪コンビなのは常識だけど、健吾は極悪の中の極北の気配さえあるじゃない。なんか嫌な話が頭に過ったんだ。極悪コンビは時に最後のタブーさえ踏み破ることがあるって。

 子離れできない母親は息子に親としての愛情ではなく、男としての恋愛感情を抱いてしまう事があるそうなんだ。それでも生みの親だから、殆どの場合はそこが最後の一線として踏みとどまるのが多いはず。

 だけどそこに超弩級のマザコン息子が組み合わされると怖すぎる。健吾がまさにそうだ。だってだぞ、女として熱愛しているのは母親で、熱愛している女と結婚できないのは法律と世間の目だけとしか聞こえないんだもの。

 まさか最後の一線まで越えたのかって聞いたんだ。聞きはしたものの、これにまともに答えるなんて期待はしていなかったのだけど、

『母さんに立派な男にしてもらってる』

 頭が真っ白になりそうだった。健吾は母親との禁断の一線を越えてやがった。それだけでも衝撃的なんてもんじゃないけど、こういう事って絶対の秘密にするもので、それこそ棺桶まで持っていくはずだ。それを平然と口にしてる。

 それも恋人の前で口にするってあり得るか。あり得たから聞かされてしまってるのだけど、この流れからすると童貞の筆下ろしだけで終ってるとは、

『今だって最高だ。あれ以上は考えられない』

 そこからはさらにタガが外れたように母親愛を語りまくり、さらに目指してる結婚像まで言い出した。なんか衝撃も度が過ぎると呆然として、どう反応したら良いかわからなくなるって言うけど、まさにそんな感じになってた。

 健吾が目指す結婚と言うか、家庭だけど、ある種の家庭内ハーレムみたいなもので良さそうだ。戸籍上の問題があるから渚は妻にはなるけど、気持ちの上では母親が正妻で、渚は妾みたいなもの。

 妾でも良く言い過ぎだ。と言うのも母親は孫が欲しいがあるんだ。それ自体は目くじら立てるほどのものじゃいだろうけど、これもまた健吾にとっては絶対になっていて聞かされたのは、

『渚が産むことで母さんの願いが叶えられる』

 あのね、母親が欲しがってるから子どもが欲しいは歪んでるぞ。その時に嫌な想像が広がったんだ。母親の歳ならまず子どもは出来ないとは思うけど、まだ可能性は残る歳じゃない。そんな母親に健吾は励みまくってるから、

『母さんに子どもが出来たら戸籍上は渚の子として育てる』

 眩暈がした。どう聞いたって、健吾の家庭内ハーレムの子を産む機械扱いだ。ついでみたいな話だけど家庭内ハーレムで行われるのは、渚を母親のコピーにすることが日夜行われるとしか考えられない。

『渚が母さんになればなるほど愛せるじゃないか』

 つまりは親嫁丼にしたいって事だ、そこまで話すと清々しい顔になり、

『渚なら出来るから、なんの心配もいらないよ』

 アホだ。究極のアホだ。親嫁丼の家庭内ハーレムを目指す男と結婚をしたい女がこの世にいるものか。渚だって例外じゃない。女を舐めるな。話ではあれこれマザコン男の信じられない話を聞いてたけど、ここまで物凄いのは聞いたこともない。

 健吾は自分の夢をカミングアウトしたぐらいでドヤ顔の極みみたいになってたけど、健吾の夢って地獄絵図そのものじゃないか。どこぞの世界に親嫁丼をしたいって男が・・・目の前に実在するのが悪夢だ。

 渚の健吾への愛情は零度を突っ切っていった。冷たさの極限は絶対零度って習ったけど、そこまでしか下げられないのがコンチクショウだ。こんなもの渚じゃなくてもそうなるだろう。別れるのは当然として、猛烈に嫌な事が頭に浮かんできた。

 健吾は今も母親と励んでやがる。それも隠そうとはしやがらない。この状態って、現在も親彼女丼になってるじゃないの。なんか組み合わせが異常過ぎて麻痺しそうだけど、一般化すれば二股されてるってことだ。

 二股が嫌がられるのは、愛した限りは一人しか愛さないのが前提で、言うまでもないけど男が突っ込む相手も一人なのが決まりだ。それを他の女にも欲情するだけでなく突っ込むなんて許されないのはまずある。

 それとだけど、女は突っ込まれる方だけど、他の女に突っ込んだモノを突っ込まれる生理的嫌悪感だって強烈にあるんだよ。あれは自分専用だから愛おしいモノものになるけど、見ず知らぬ女に突っ込みやがった後なら許せるものか。

 しかもその女が男の実の母親だぞ。実の母親に欲情して突っ込んだ健吾のモノを渚は突っ込まれていたんだよ。生理的嫌悪感の度合いの桁、いや次元さえ違う。その図が頭に浮かんだ瞬間にトイレに駆け込んでゲーゲー吐きまくった。

 頭に浮かんでいたのは穢されただ。女が男に穢されるってあれこれあるだろうけど、一番わかりやすいのはやることだ。渚だってネンネなんて遠い昔の話になってるから男とやっただけで穢されたなんて思わない。

 あれってね、望ましいものなら何度やっても穢された事にはならいんだよ。渚だって結婚まで考えてた男がいたからやってるよ。結果としてハズレ男だったけど、だからと言ってやられて穢されたなんて思いもしないもの。

 結果はともかく、あの時は入れて欲しいモノだったんだ。そう思って入れられたモノなら、何度は入れられても穢されなんてするものか。それを言えば健吾も入れて欲しいモノではあったけど、他の男とはまったく話が違う。

 なにが違うかって。そんなもの騙されてたからだ。考えても見てよ。自分の実の母親に突っ込んでるモノだぞ。そんなものを突っ込まれたい女がこの世にいるものか。そんなものだと知っていたら誰だって裸足で逃げ出すに決まってる。

 女が穢れるのは突っ込まれたくモノを突っ込まれた時だ。レイプなんかその典型だけど、健吾のモノは余裕でそれに匹敵すると思う。穢れてるどころかあんなもの汚物以下の代物じゃないの。

 そんな汚物以下の代物をどれだけ突っ込まれた事か。汚物以下に突っ込まれ、穢れまくった体にさせられたってことだ。こんなものどうしてくれるって言うんだよ。健吾とは当然のように別れたけど、自己嫌悪の塊状態にもされてしまったんだ。

 ここまで穢された女に人を愛する資格なんてあるのだろうかと思ったし、それより何より、男ってたとえ生みの親でも欲情して突っ込む生き物としか見えなくもなっていた。これでトラウマにならない方がおかしいだろうが。

 そうしているうちにアラサーどころか、アラフォーも越えて今に至るだ。ここまでハズレばっかりっておかし過ぎるよね。それも究極の大ハズレばっかりじゃない。そろそろアタリが出ても良いはずなんだけどな。