日暮れへのツーリング(第33話)決めた

 お腹も空いたから、

「うどん屋に行くで」

 ライダー飯にうどんは合ってるけどまたうどんかよ。コーヘーってそこまでうどんが好きなのかな。行ってみると、わぉ、駐車場がいっぱいになってるし行列まで出来てるぞ。とはいえ、他に行く当てもないから並んでやろう。

 コーヘー説の補充みたいなものだけど、義経が逆落としを敢行したのは、合戦が始まってから、それなりの時間が過ぎてからなのも間違いなさそう。源氏の作戦は東西の木戸からの挟み撃ちだけど、平家軍が木戸の戦いに注意が傾いたところに、

「平家の本営に逆落としの奇襲をかけてんやろ。それで本営が大混乱になってもたから、浮足立った平家軍は雪崩を打って大輪田の泊に敗走になったぐらいでエエはずや」

 多井畑厄神宿営説への補強としたら、多井畑から逆落としポイントの移動時間を確保できるぐらいかな。コーヘーの説がホントだとして、そんな作戦を義経はいつ思いついたんだろ。

「やっぱり山田に来てからちゃうか。義経かって山田に来た時は、山田からどうやって西の木戸に行けるかを知りたかったと思うんやけど、あそこで一の谷陣地の情報をあれこれ手に入れたぐらいしか考えられへん」

 可能性として山田の住人も一の谷陣地の構築に駆り出されていたかもって。それは現実的にあるかもだ。だったら鷲尾義久も、

「工事に駆り出された連中の隊長みたいな役割で、一の谷陣地まで行っとった可能性はあるやろ」

 義経はそこで平家の本営の位置と、そこに通じる裏道の存在を知って逆落としの奇襲を敢行したぐらいかな。

「義経は戦術の鬼才やと思うてる」

 そうなるよね。そんなリスキーな戦術を良く実行できたものだ。そっか、そっか、山田でも一夜を過ごしたはずだから、そこで考え出した作戦を相談ヶ辻の軍議で出したぐらいか。辻褄だけは見事に合ってるぞ。

「褒めとるんか」

 話としてはね。それにしても、通り過ぎるだけなら何の変哲もない田舎だけど、これだけの歴史ロマンが込められてるのにビックリした。とにかく登場人物が大物すぎる。なかなかこれだけの大物が関わるところって珍しいはず。

 そんな話をしてるうちに順番が来て店内に。待つことしばしでうどんが来たけど、なかなか美味しいじゃない。さすがはうどんキチガイが選んだ店だ。

「誰がうどんキチガイやねん」

 そんなものコータローしかいないだろうが。毎回、毎回うどんにしやがって。美味しいから許すけどね。うどんを堪能してから、ついでだからって多井畑厄神に。あのねぇ、これのどこかがついでの寄り道なんだよ。つうか、よくこんな道を知ってるもんだ。

「山田から多井畑の距離を実感してもらおうと思うて」

 へぇ、ここが多井畑厄神か。

「ここやねんけど、昔は摂津と播磨の国境で関所みたいなもんもあったらしいねん。その時にこの神社も始まったらしい」

 義経軍が来た頃はどうだったかなんてわかんないけど、当時もそれなりの社殿があったんだろうな。今でもこんなに立派だものね。今日も楽しかったな。やっぱりさ、一人より二人の方が楽しいもの。

 そうなると、どうしたって問題は同じところを回ってしまう。この歳になっても、やっぱり女と男だから距離感をどうするかなんだよ。今の距離感は良いと思うし、同性同士ならそれで良いし、その距離だって保てるはず。

 つうかさ、同性同士ならこれ以上は距離を詰められないだろ。だけど異性なんだよね。さらに言えばまだ枯れてない。枯れてしまえば同性と同じになるはずだけど、

「そんな簡単に枯れへんらしいで」

 そういう話はあるけど、実態はどうなんだろ。とにかく個人差が大きすぎるから一般化は出来ないはず。と言うかさ、渚には恥ずかしいけど余裕であるのよ。これだってさ、渚をそれでも求める男がいての話になるのは前提だ。

「課長様やったら買えるやろ」

 そういう女もいるらしいけど、あれは趣味じゃない。これは幾つになっても同じだけど、渚は入れて欲しいぐらい愛してる男としかやりたくない。コーヘーが余計なツッコミを入れやがったから話が脱線しかけたけど、枯れてないから距離を詰めると女と男の関係に突き進んでしまうのよね。

 ここだけどさ、そういう深い関係になってしまった方がラクだし、良い事だってあるんだよね。だってさ、そうなれたらお泊りツーリングで聖地である阿蘇ツーリングだって夢じゃなくなるもの。

 そりゃさ、やったら燃えカスみたいに残ってる結婚願望に火が着くリスクはあるけど、そっちに行っちゃうとコーヘー相手ならメンドウ過ぎるんだよね。そう成金にからむ騒動だ。そんなものに付き合いたくもない。コーヘーの成金は、楽しむためだけに使いたいかな。

 そこまで割り切れるのなら、望まれるのなら応じるべしになる。ここもさ、渚の体を見て萎えるリスクは山ほどある。そればっかりは、それこそどうしようもない。それこそ、その時はその時だ。よっしゃぁ、ここまで決めたぞ。ここからラブホとなると、

「そろそろ行こか」

 バッチリ以心伝心だ。来た道を引き返すのか。そのはずだよね。多井畑厄神から塩屋には出られるけど混雑の名所の浜国道だし、須磨の方に下りても同上だ。どっちに行っても神戸市街を横断しないといけなくなる、

 だから山麓バイパスで新神戸だ。あそこもラブホが多いもの。白川JCTから入ったけど、ここって昔は有料道路だったのよね。

「そんな昔やないで、平成二十年のこっちゃ」

 あのね、平成が終わって令和も何年だと思ってやがる。

「聞いた話やけど、この道が出来る前は板宿を回ってたらしいで」

 そ、そうなるか。それって、名谷とか西神ニュータウンが出来る前の話よね。

「新神戸トンネルも呑吐ダムもあれへん時代や」

 そっか、全部無かった時代もあったんだ。もちろん山麓バイパスもなかったはず。それを言えば、

「第二神明もあらへんかったそうや」

 そうなって来ると神戸から西に向かうのは浜国道になってくるから大変そうだ。今なんかと比較にならないぐらいの渋滞が起こってたんだろうな。それを思えば今はラクチンだ。

「料金所だけがメンドウやけど」

 その代わりにモンキーなら二十円だ。料金所を過ぎると長いトンネルになるけど、さすがにドキドキしてきた。この歳になって男を受け入れるなんてね。ラブホに入ったらシャワーを使わせてもらおう。さすがに暑くなって来てるから汗もかいちゃってるもの。

 一緒にシャワーを望まれたら、どうしよう。一緒でも良いけど、やっぱり別々にしてくれって頼もう。この歳になっても結ばれてからでないと恥ずかしいもの。結ばれた後なら一緒にお風呂でも良いけどね。

 渚だって満たされたいけど、コーヘーにも満足して欲しいな。そうだそうだ、コーヘーは何を望むだろ。いきなり全部は求めないと思うけど、望むのなら頑張る気持ちはあるからね。渚だって一通りは出来るようになってるもの。

 もうすぐトンネルから出るぞ。そこからラブホで、そうだな一時間もしたら、二人の関係は別物になってる。ホテルを出る時にはコーヘーの女だもの。コーヘーの女か。受け入れたからにはちゃんとなってやる。

 妻の座はあきらめてるけど、その代わりに愛人として面倒見てね。渚だってちゃんと尽くすつもりだから。もう心の準備はバッチリだ。久しぶりなんてものじゃないけど、体だって欲しがってるぐらい。

 渚もあれ自体は嫌いじゃない。むしろ好きだ。とくに受け入れて一つになる感覚は嬉しいんだ。そこからストロークになるけど、最初はゆっくりが良いな。若い時はとにかくガシガシと突かれまくったけど、いきなりそうじゃなくて、味合うぐらいが好きだ。

 そうやってさ、段々と燃えて来たらピッチが上がってく感じ。ストロークだって序破急があるんだよ。そして目指すのはフィニッシュだ。一緒にイケたら最高だけど、今日はそこまで無理かな。

 それでもフィニッシュは楽しみだ。こればっかりは年の功ですべてレアだ。コーヘーに変な病気が無いと信じてる。渚にもないって信じてね。フィニッシュの時、それもその男の最初のフィニッシュを受け止める時は格別なんだ。

 愛する男を満足させたの達成感はもちろんだけど、これで完全に男のものになった充実感さえある。渚はコーヘーの女になったと心も体も思うし、コーヘーだって渚の男にしたって感じかな。

 でね、その後の時間も好きなんだ。女にだって賢者タイムはあるって言うけど、あれは男の急速冷凍みないなものじゃない。まあ、男の急速冷凍ってあんなんだって知って驚いたけどね。

 女の賢者タイムってゆっくりと余韻を楽しみながら醒めて行く時間なんだ。今日ならついに結ばれて、コーヘーの女になった実感を噛みしめる時間になるはず。ここで冷たくしやがったら許さないぞ。

 これは歳だからさすがにないとは思うけど、二回戦を求められたら応じてやるよ。二回戦どころか、何回戦だって応じるつもり。それを応じるのが女だと思ってる。これも実際にそうなったら、勘弁してくれになる時が多いけど、あくまでも心構えとして応じてやる。

 この辺は個人差が大きいけど、渚はそういう女なんだ。男を受け入れるかどうかは真剣に悩むけど、受け入れると決めたら、そのすべてを受け入れたいのよ。もっとも、SM趣味とか、変態行為はNGだけどね。コーヘーにはないと信じてるよ。

 とにもかくにも渚は決めた。決めたからには燃えまくるし、すべてを開くし、受け止めてやる。さてどこのラブホだ。そこのベッドの上で渚のすべてを見せてやる。どこからでもかかって来いだ。

「ほんじゃあ、また連絡するわ。元気でな」

 こらぁ、これでお別れって言うのか。渚の心が通じてたのじゃなかったのか。積み上げて来た心と体の準備をどうしてくれる。責任者出て来い。ああ、行っちまいやがった。