ツーリング日和28(第34話)チャンスの可能性

 フェリーでの最後の食事を楽しみ船室に戻って来た。今日は色々あり過ぎた。感情的にどうしようもなかったのはそうだけど、コータローには悪い事をしたって反省してる。あれだけ楽しみにしていたロングツーリングだもの。

 もう何年前の話だ。コータローは千草のそんな過去だってすべて受け入れてくれて結婚までしてくれてる。今だってこんなに幸せにしてもらってるのに、楽しいはずの時間をぶち壊しにしようとしてるだけじゃない。

 自分が情けないよ。どこまでコータローに迷惑を掛けたら気が済むんだよ。千草の幸せはすべてコータローにあるんだよ。それなのに、それなのに、いかに初体験とは言え、たった一回の事でここまで・・・

「オレは男やから、千草の本当の悲しみとか、悔しさはわからん」

 まあそうなんだけど、疑似体験なら出来るよ。

「そっちの趣味はあらへんねん」

 それは食わず嫌いかもしれないよ。女と違って男なら初体験から、

「それどこ情報やねん」

 BL以外にないでしょうが。でも惜しいのはやっぱり惜しいな。とにかく一発だけだからな。あれだってそれなりの回数を経験した上で捨てられていたら違ってたとか。そういう女は数えきれないぐらいいるものね。

 千草の場合は罰ゲームの座興にされたのだけど、コータローの言うように、ハズレ男って後でわかったらどんな気持ちになるんだろ。経験ないから想像するしかないけど、まず大失敗だったと思うよね。

 これは誰だってそうのはずだけど、相手を愛してるからこそ体を開いて受け入れてるし、愛撫だって好ましい相手だから良いものと受け取ってるはず。これはヤリマンの何股女だって基本は同じだ。

 ヤリマン何股女との違いは、そういう好ましい相手が一人なのか、複数なのかの違いで良いはずだ。どんだけヤリマン女でも男なら誰でもウェルカムじゃないはずだ。これは色情狂でさえそうのはず。

 そう考えると事態はヘドが出るほどおぞましいものになる。だってだよ、それまで愛しい男、好ましい男だったのに、ハズレ男の本性がわかった瞬間に疎ましい男ナンバーワンに激変してしまうもの。

 ここの気持ちだけは千草にもわかる。千草だって初体験が済むまで愛しい男が相手だったんだ。それがロストヴァージンの直後に究極のクソ野郎に激変したようなものだからね。あの激変が何回も何回も関係を重ねた末に起こるんだよ。

 ハズレ男だけど、とくにコータローが喩えに出していたマゾコン男はおぞましすぎる。女が誰よりも嫌うのがマザコン男なんだ。そいつがマザコンってわかっただけで半径1キロぐらいは近づきたくもないぐらい。

 マザコン男であるだけでそれぐらいは余裕で忌避されるけど、そこにママン大好きが加わるとこの世の最凶コンボみたいなもの。そんなハズレ男はママンとやっとれとしか思わないし、吐き気しかしないけど実際に励んでるのもこの世にいるらしい。

 ママン大好きマザコン男の本性を知れば絶対拒否になるのは言うまでもないけど、そこで殴っても蹴っても消せないのが、本性を知るまでに何度も何度も体に刻み込まれた黒歴史だ。下手すりゃ妊娠どころか子どもまで産んでるケースもあるんだもの。

 何々よりマシって論法は時と場合によりけりだけど、ママン大好きマザコン男が相手よりマシだったかもしれないかも。だってだぞ、もしコータローがママン大好きマザコン男だったら、自分の体の汚らわしさに狂い死にしそうだ。

 それでも惜しかったのは本音だ。あのクソ野郎さえこの世に存在しなければの仮定は既に証明されてるようなものだからだ。これは千草から見た惜しさだけど、この歳のヴァージンなんて喜んでくれるのかな。

「えらい質問やな。そやな、あの時に初めてやって聞かされたら、鼻血が止まらんようになって、そのまま失血死しとったわ」

 なるわけないだろうがって言いたいけど、コータローは千草の初裸エプロンの時にそうなりかけた前科はあるのよね。鼻血で失血死はともかく、その歳まで経験してなかったら、ヴァージンを貫くのは大変だったかも。

 この辺も初体験の一発だけで、そこから処女膜さえ再生しそうなぐらいブランクがあるのよね。だから処女とどれぐらい差があるのかはわかんないのよ。千草で言えば、コータローの時の方が痛くなかっただけじゃなく、すんなり入ったし。それなりに感じるぐらいまで行けたかな。

 その経験からするとたとえ一回でも差があり過ぎるけど、あくまでも千草の経験だけの話だ。少なくともコータローの時の方が楽しめたし、楽しめたから今があるは言い過ぎか。これは女の方からだけど男のコータローはどうなの。

「オレかって男やから千草をすべて染めたかったんはあるわ」

 それが処女を抱く醍醐味って言うものね。

「そやから中三の時に・・・」

 お前はロリコンか! もっとも中学生で経験するのもいるから可能性だけはあるのは認める。だがな、そんな気なんかカケラもなかったのは知ってるんだからな。同級生を舐めるな。

「せめて成人式の時に・・・」

 絞め殺したろか。あの時に学校一の美少女をお持ち帰りしたのだって知ってるんだぞ。それも晴れ着の千草を置き去りにしてだ。もっとも学校一の美少女は既に妊娠中だったけどね。

「ほんじゃ、成人式の時に千草をお持ち帰りしてたら」

 ゴメン。もう手遅れだ。その一年前に千草は初めてを失ってる。それとあの時にお持ち帰りされていたらだけど、あの日はまずなかったな。だってだぞ、やろうと思えば全部脱がないといけないじゃない。

 全部脱ぐのは良いんだよ。脱がなきゃ出来ないからね。でもだぞ、脱いだら着ないといけないじゃないか。コータローに着付けなんか出来ると言うのか。

「そやった。髪型もあるわな。それでもやってるやつはおるらしいけど、どないしてるんやろ」

 自分で着付けが出来るか、着付けサービスがあるラブホもあるって聞いたことがあるよ。髪型はどうしてたかまで知らないけど、その気で行ってたら、そういう髪型で成人式に出席してるのじゃないかな。

「そうなるとチャンスは高校時代に絞られるな」

 コータローは東高のドブネズミ制服に欲情するって言うのかよ。とも言えないか、あのドブネズミ制服に欲情した男と経験した同級生ぐらい知ってるもの。だけどだ、どこで知り合うと言うか接点を持てるって言うんだ。

「そりゃ、合コン」

 コータローの高校であったのかよ。

「あった話は聞いたことがあるけど、どこでやってんやろ」

 あれは千草も不思議だった。千草もあったのは聞いたことはある。常識的には高校生だし、懐具合を考えてもファミレスとかカラオケは候補にはなるのはなる。

「東高やったら歩いて行けるとこにあるやんか」

 歩いて行けるからダメなんだよ。近すぎるから生活指導の先生の目が光り過ぎてんだから。あんなところにノコノコ入って行くだけでも、生徒指導室に呼び出し喰らうし、親まで呼び出されて大目玉確定だ。

「神戸まで遠征しとってんやろか」

 神戸まで出れば教師連中の目からは逃げられると思うけど、行き帰りの交通費だけでも高校生の小遣いじゃ厳しすぎるよ。

「そこはバイトで」

 それも無理なのは知ってるだろ。例外的な高校を除いてバイトは許可制のはずだ。許可を取ろうと思ったら定番の家計のためだ。たとえ許可を取れてもバイト代はがっちり親に監視される。そもそも許可がもらえるような家庭なのに、合コン代なんかもらえる訳がないだろうが。

「そこは隠れて・・・」

 コータローはどこの世界に住んでるんだ。故郷の話だぞ。あんなとこに隠れてとかの話が存在する訳ないだろうが。

「そやな。千草お嬢様がバイトなんてしようものなら、その日のうちに市内に轟きまくるわ」

 コータローも変わらんだろうが。これは千草やコータローだけじゃない、誰がやってもそうなるのが田舎の常識、デフォそのものの世界だ。田舎の高校生の合コンはそれぐらいハードルが高いのよね。だからもしあるとすれば、

「合ハイか」

 そっちはあると思うんだ。サイクリングでも良いと思うよ。それなら生徒指導の先生も文句を言いにくいだろうし、親の許可だって取りやすそうだもの。なんか無理やりみたいだけど、出会いと言うか接点が出来る可能性があるぐらいは認めてやろうか。

「そやけど次はやっぱり難関やな」

 そうやる場所だ。さすがにアオカンは少ないと思うんだ。

「痛そうやもんな」

 そうなると定番中の定番しかないかもね。親と他の家族が留守の間に自分の家の部屋でやるってやつ。これならベッドの上だし、部屋の中だものね。もっとも初体験だったら後始末が大変そうだ。

 でもさぁ、家でってやっぱり多いんじゃないかな。共働きがデフォの時代にとっくになってるし、少子化の時代でもあるじゃない。それより何より高校生の財布に優しい場所だよ。

「そやからオレも千草も清い体のままやったんやな」

 それも無いとは言えない。だって二人とも母親が専業主婦だものね。あっ、誤魔化されるところだった。高校時代は絶対にノーチャンスだ。千草はまだチャンスはあったかもしれないけど、コータローが血道を挙げまくっていたのは誰だか言ってみろ。

「その話は・・・」

 その話しかないだろうが。どこに千草が割り込む余地があったんだ。

「それはさておきにしてやな」

 逃げるのかコータロー。まあ、良いか。中学も高校もノーチャンスだったけど、今は夫婦なんだ。それがすべての結論。今夜は昼間の事があったから絶対に欲しかったもの。