朝風呂と朝食を頂いて二日目のツーリングの始まりだ。昨夜は燃えに燃えまくったけど、コータローからパワーを注入してもらったから勢力が漲ってる。
「朝からなんちゅう、気合の入れ方や。オレは腰のあたりが軽い気がするけど」
情けないぞ。そんなことで千草の夫が務まるものか。夫たるコータローの三大使命の一つを言って見ろ、
「千草を喜ばすこと」
よろしい。さらなる精進に励むように。千草はね、コータローからパワーを注入してもらえばもらうほど綺麗になるんだよ。
「医学的には・・・」
シャラップ。千草の言葉は神の声だ。さてと北に向かうのか。
「ここや、ここや」
赤い鳥居がずらっと並んでいるからお稲荷さんだな。ゆきふね観展望休憩所ってなってるけど、
「ゆきふねやのうて雪舟や」
昔に俳優として活躍した、
「千草も若いと思うとったが・・・」
そう言うけどコータローだって戦場にかける橋ぐらい見たことがあるでしょうが。早川雪洲はね、一番ハリウッドで成功した日本人の大俳優だよ、
「その雪洲やのうて画家の雪舟や」
ああそっちか。これはコータローの説明が悪い。それはわかったけど、これからあんな階段を登るのにどこが休憩所なんだよ。
「登って疲れた足を休める休憩所や」
雪舟観というのは天橋立を眺める時に四大観があって、ここは雪舟が天橋立を描いたところだから雪舟観って言うんだって。でもどうせ描くなら傘松公園とか、天橋立ビューランドから、
「雪舟の時代にそんなもんがあるか!」
それもそうだ。雪舟観を体験してからさらに北へ北へと。ここは宮津湾の東側の栗田半島ってとこなんだけど、釣りをしている人が多いな。良く釣れるんだろうな。ヨットハーバーもあるのか。
それとシーサイドコースだけど、波が静かなんだろうな。だってあんなに堤防が低いと言うより無いじゃない。これは快適な道だ。その割にはクルマもバイクを見ないな。
「もうすぐ理由がわかるで」
なにがわかるって言うんだろ、ひょっとして道でも狭くなるのかな。
「あそこやけど右やからな」
真っすぐじゃないの。漁港みたいな集落が見えるけど、
「直進は行き止まりやねん」
右に入るとなんだよこれ、結構な登りだし、ワインディングもあるし、狭いし、見通しも良くない。クルマが来たらモンキーでもすれ違いに困りそうじゃないか。それにだぞ、海側にガードレールも何もないところがいっぱいあるじゃないの。
「ああ、落ちんといてや」
気軽く言うな。千草がどうなっても良いとでも言う気か。路面も良くないよ。落ち葉はモンキーの敵だ。もし海に落っこちたら恨んでやる、祟ってやる。それにしてもこんなところにクルマが停まってるってどういうこと。それも何台もだ。
「今の季節やったら釣りちゃうか」
はぁ、ここから崖を下りて釣りって・・・釣りをする人もディープらしいけど、こりゃすごいわ。
「なんか綺麗なビーチがあるらしゅうて、夏には海水浴客もけっこう来るらしいで」
そこは綺麗なのは綺麗そうだけど、海の家どころかトイレも何もないところなんだって。そんなところにわざわざ海水浴に来るなんて京都府民恐るべしだ。それにしてすごい道だな。これって険道だよね。
「府道やから腐った道と書いて腐道や」
そんなところを走らせるなよな。千草を愛してないのか、守るって言ったのは口から出まかせだったのか。
「こんなんもツーリングの醍醐味や」
離婚はしてやらないけど、家に帰ったら再教育だ。それでもなんか下りになってきたぞ。もっとも下りは下りで怖いんだよね。それでもあれは民家だ。人里に戻って来たぞ。
「おもろかったやろ」
今夜は覚悟しとけよな。代償をたんまり払わせてやる。へぇ、ここには民宿みたいのもあるし、海水浴場もあるのか。
「夏は海水浴で、釣り宿もやっとんちゃうか」
そんな気がする。越浜海水浴場ってなってるけど、ここでも泳げるのに腐道に乗り込んで崖を下りてまで行く浜はなんていうの?
「ナビには、おっぱまの浜ってなっとった」
えっと、えっと、ここは越浜と書いて『おっぱま』って読むのじゃないのかな。もしそうだったら越浜の浜になるけど、どうなってるんだ。そうこう言ってるうちに道路にセンターラインが現れてくれた。
なんて広々した道なんだ。千草は生きて腐道を突破したぞ。こうやって走ってみるとあそこだけなんだね。だってその前後は快走路として良いもの。
「ほいでも良うならんやろな」
釣り人と海水浴客の人気はあるようだけど、そのためだけにあそこの道を良くする理由は乏しそうだ。もし良くなったら、
「バイク乗りが集まって来るで」
だったら無理だろうな。栗田半島の東側は栗田湾って呼ぶみたいだけど、この辺もビーチがあって海水浴に来るみたいだ。あっ、そっかそっか、京都は瀬戸内海に面してないし、大阪だって、神戸だって、
「それはありそうやな。南に行くより北に行きそうや」
今日は東に走る。ここは由良ってところで由良川の河口の街ぐらいのはず、対岸にも街がありそうだけど橋が見当たらないな。
「あるやろが」
あるにはあるけどあれは鉄道の鉄橋だぞ。対岸にも街が見えるけど不便じゃないのかな。だからじゃないけど、由良川の西岸を南下だ。橋まで近いよね。
「八キロぐらいやったはずや」
なんか不便そうだ。そうだ、そうだここって今の宮津街道だよね。
「ああそうや。今走っとるのは国道一七八号やけど、国道一七五号と出会うたら由良川を渡るねん」
国道一七五号とまた巡り合うってことか。国道一七五号ってイナゴとも呼ぶけど故郷なら誰でも知ってる国道なのよ。故郷のイメージとしては明石に行く道だけど、北の方にもドンドン延びてて日本海まで通じてるんだ。
「オレも知らんかったわ。もっともこの辺の人のイナゴのイメージはちゃうやろうけどな」
たぶんね。最後は明石が終点と言われてもピンと来ないかも。
「今日は国道一七五号の北の終点まで行くで」
それはそれで面白そうだ。国道一七五号の始まりと終わりをモンキーで走った女は少ないんじゃないかな。