ツーリング日和14(第31話)味噌鍋

 泊った宿はなんと温泉だ。

「京都市内では珍しいよ」
「ラドン温泉やったらあるやろうけどな」

 ラドン温泉もたまに見かけるけど、あれって普通の温泉とどこが違うんだ、

「あれはお湯の中にラドンガスを送り込んだものよ。だから人工の温泉で、天然のものはラジウム温泉って言うのよ」

 さすがは温泉小娘で即答だ。へぇ、温泉だけど民宿なんだ。妙に立派と言うか、風格を感じるけど部屋は民宿だな。いっつも思うけどホントにあのエレギオンHDの社長と副社長かと思う選択センスだよ。

「風呂だ、風呂だ、温泉だ」

 浴場は銭湯風かな。洗い場がずらっとあって奥に浴槽だけど。

「ここから出られるね」

 なるほど庭に出られて露天風呂か。

「これやな」
「おもしろ~い」

 少し上がったところにあるのは、これって五右衛門風呂とか。さすがに四人で入るには狭いから順番に。これは気持ちイイな。ツーリングの後の風呂は最高だし、それが温泉なら文句なしだ。亜美さんと二人だから、今日の話はわかったかと聞いてみたんだけど、

「なにか歴史を見る目が変った気がします」

 だろうね。金ヶ崎の退き口はそれなりに有名な出来事だけど、歴史の授業的には敦賀に攻め込んだものの、浅井氏が裏切って京都に退却したぐらいを知っていれば必要にして十分だものね。

 それが若狭の国内事情と朝倉氏の介入、そこに信長の上洛戦に、さらに義昭の陰謀なんて話も絡んで来るドラマとして聞けちゃうもの。信長の撤退作戦も大胆かつ緻密な物だって思っちゃうぐらい。

 そういうのはコウもコトリさんに叩きこまれたみたいだし、一緒に楽しみたいからユリなりに勉強してるけど、コトリさんから聞くとまた一味も、二味も違うって感じかな。でもさぁ、高校生に聞かせるにはどうかと感じたんだけど、

「教えてもらったことを全部活かせるとは思えませんけど、ユラの尻啖え孫市は叩き潰してやります」

 ならいっか。部屋に戻ったら、

「メシ行こか」

 食事は大広間みたいなところだな。

「ここは京地鶏の味噌鍋が名物やねんて。」
「味噌は自家製らしいよ」

 味噌へのこだわりがあるみたいで、広間の一角に何種類かの味噌が自由に取れるようになってる。

「こっちはおばんざいだね」
「美味そうやんか」

 鍋は自分で作るみたいだけど、どうやるのかな。

「まずこうやってあるだけの具材を鍋に放り込むやろ」

 ふむふむ、

「目いっぱい入れたら蓋を閉じてや」

 なるほど、

「大五郎、十分間待つのだぞ」
「ちゃん」

 なにかのギャグみたいだけど、古すぎるのが出てくるのが欠点だよな。それとだけど作り方が大雑把すぎると言うより雑な気が、

「味噌鍋はな、じっくり煮込んだ方が美味しいんや」
「しゃぶしゃぶじゃないからね」

 ところで味噌を適当に取って来たけど、これってどうやって食べるのだろう。味噌鍋にでも足すのかな。

「そうやってもエエんやろうけど」
「ご飯につけて食べるのよ」

 へぇ、京都ではそうやって食べるのか。

「ちゃうちゃう。本来はそうやって食べるんや」
「焼いたらもっと美味しいかな」

 信長軍の兵糧輸送の話もあったけど、少し疑問に思っていたのは、米は良いとしておかずはどうするのだろうもあったのよね。

「おかずは現地調達が基本やったぐらいで思たらエエ」
「基本を言うのだったら、味噌をおかずにご飯を食べてたの。だから味噌と塩は兵糧として運んでたの」

 そうだったのか。味噌をおかずにするバリエーションの一つに、

「そう考えてもエエかもしれんわ。具材が手に入ったら味噌鍋や」

 時代劇でもそんなシーンがあったような。おばんさいも美味しいけど、普通のおかずとは違うんだろうな。

「いや普通のおかずや」
「死語になっていたのが復活したぐらいよ」

 昭和の頃に京都の家庭料理を紹介する連載新聞コラムがあって、そこから広まったみたい。

「あえていうたら東京で惣菜と言うのに近いとこもあるらしいけど」
「要は家庭料理ってこと。そうだね、観光客用に出すのだったら京野菜とか使ってるんじゃない」

 たちまちビールを飲みほして、

「京都やったら玉乃光やな」
「これも昔は良く飲んでたね」

 でたあ、一升瓶だ。