ツーリング日和11(第25話)薄幸の遊女

 ここは遊女たちが明日をも見えない日々を過ごした部屋。遊女たちは自分を買った男どもに組み伏せられ、血の涙を流しながら男の欲望を満たしていたところだ。遊女は男たちに弄ばれながら、幾度あの天井を見上げていたのだろう。どんな思いで男を受け入れたのだろう。

 この世に幸福な遊女などいない。逃れられない理由でこの遊廓に連れて来られ、苛烈な運命に翻弄され、悔し涙をどれほど流したことか。エルには見える。新たに遊廓に連れて来られた薄幸の遊女が・・・

 ・・・エルは貧しいながらも幸せだった。そんな日がずっと続いて行くと信じていた。そう、あの日まで。エルに告げられたのは親の借金。これが返せなくなったのでエルは売られた。そして連れて来られたのがこの遊廓。なにをさせられるかは道中で聞かされた。

『綺麗な服を着て、美味しいものを食べて、毎日遊んで暮らすだけ』

 世の中にそんな上手い話はないのは遊廓に来てすぐにわかった。エルは親が作った借金を背負わされていたけど、遊廓ではそこで暮らすだけで借金が増えるのも知った。綺麗な服代も、ご飯代もすべてエルが払わないといけない。無一文のエルは新たな借金を積み重ねるしかなかった。

 借金を減らすには、エルが稼がないとならない。エルがここで稼ぐ方法は唯一つ、エルを男に買ってもらうしかない。エルを買った代金がエルの服代、ご飯代になり、親が作った借金の返済になる。

『水揚げの客が付いた』

 ついにその日が来てしまった。エルはまだ男を知らない。そんなエルを女にするのが水揚げだ。今夜エルは男を教え込まれてしまう。遊女の売り物は体。エルの初めても当たり前のように売り物にされ買い取られてしまった。

 そう、これは遊女としての初仕事。見ず知らずの男にエルは弄ばれ女にされてしまう。そんなエルを買った男の説明を聞かされた。とにかく上客だから失礼があってはならないこと。多くの遊女の水揚げをしており、水揚げをするのが道楽みたいな男だそうだ。

『任せておけばなんの心配もない。立派に女にしてくれる』

 女にされしまうのがひたすら怖い。それさえ売り物にされるのが遊女だとわかっていても辛すぎる。逃げられるものなら逃げ出したい。でもエルのすべては証文で縛られている。どこに逃げても捕まり連れ戻されてしまう。

 ああこんな事なら、エルの初めてを丈太郎さんに捧げれば良かった。どうせ遊女になれば、毎晩毎晩男に開かなければならないこの体じゃない。せめて初めてぐらいは、大好きだった丈太郎さんに奪って欲しかった。

 着飾らされたエルは部屋で待つように言われた。ああ、あの引き戸が開けば今夜の男が入ってくる。エルの初めてを買った男だ。そんな男に女にされるためにエルは生まれて来たのじゃない。助けて、丈太郎さん、お願いだからエルを助けに来て。

「エル、エル、もしも~し」

 ついに男が部屋に入って来た。でっぷりと肥え太り、脂ぎり、歳の頃ならエルの父親ぐらいだ。こんな男にエルは女にされてしまう。悲しみしかないのに、エルはその男にお礼を言わなければならない。エルの初めてを買ってくれたお礼と、エルをこれから女にしてくれるお礼だ。

 それも感謝の念を込めろと言われている。どうして感謝しないとならないの。エルは泣くような思いで教えられた言葉を口にした。それをしないといけないのが遊女にされてしまったエルなんだ。

「エル、聞こえてるか。エル、エル・・・」

 男はエルの体を見たいと言った。買ってもらった男の言葉は絶対だと教えられている。男が見たいのは、服を着たエルじゃない。これから水揚げするまだ男を知らないエルの体のすべてを見たいという意味だ。

 あまりの恥ずかしさに帯を解く指が震える。最後の一枚に手をかける頃には足も体も震えが止まらなくなっていた。男は震えるエルをいやらしそうに見ている。エルは目を瞑って最後の一枚を脱いだ。

 もうエルには一糸たりとも身を隠すものがなくなった。乳房も下草も、エルの女もすべてだ。エルは男の言葉のままに、男の前に立った。これが女にされる前のエルの最後の姿。その最後の姿さえエルは買い取られている。

「エル、どないしたんや」

 ギラギラとした助平そうな目でエルのすべてを舐めるように見回した男は、エルを布団で寝るように命じた。男が服を脱ぐ気配がわかる。ついに、ついに、始まってしまう。仰向けにされたエルに男がのしかかってくる。

「エル、おかしいで」

 逃がれようもなく男の肌が触れる。エルが初めて知る男の肌。なんて疎ましいものなんだろう。エルの肌のすべてが穢されて行く。そうされてもエルに許されるのは耐える事だけ。隠す事も、ましてや逆らう事など出来ない。

 男の指が、唇が、舌が遠慮会釈なくエルのすべてを穢していく。なにをされるのも穢らわしさしかないが、抗う事は許されない。男の思うがままにすべてを許すのが遊女。男はエルの膝を大きく割り開いた。

 隠しようも防ぎようもないエルの女から、一番知られたくところを見つけ出されてしまった。そこは女が秘密の営みを行い、気を遣るところ。だがその営みも、ましてや気を遣った事は誰にも知られてはならないもの。

 エルはそこを剥き上げられ暴かれてしまった。男の指、男の唇、男の舌がもたらす責めは自分の指と比べ物にならない。こんな男に感じたくないのに体は無残にも反応している。終わって、お願いだからここで許して、こんなもの耐えられない。

 エルは逃げる事は出来ない。責めを妨げる事は許されない。出来るのは男の責めを体ですべて受け止めることだけ。男の執拗な責めに歯はとっくに食い縛れなくなり、ひたすら声を挙げ、身を悶えさせるしか出来ない。そんなもので男の責めを凌げるはずもなく、自分の体が裏切って行くのがわかった。

 エルはなす術もなく追いつめられ行く。それも気を遣るにだ。あれだけは何があっても他人、ましてやこんな男に見せてはいけない。でも、もう、つま先立ちで辛うじて凌いでいるだけ。少しでもエルが気を抜くとすぐに気を遣らされてしまう。

 あぁ、もう、どうしたら。エルはついに気を遣るに達してしまっている。うぅぅ、最後の力を振り絞って小さく気を遣らせるに止めたが、男の責めは止む気配もない。次かその次で完全に気を遣ってしまう。

 男に弄ばれるってこういう事なの。気を遣る様子も、気を遣ってしまった惨めな姿も男の目に晒すのが遊女なの。遊女となれば、こうならないといけないの。エルに出来るのは悔し涙を流す事だけ。

『見事に花が咲いたな。散ってもらおうか』

 気を遣る寸前だったエルは、男からの責めが止んだことだけは安堵した。一方で男の言葉には恐れ慄くしかなかった。散らされるために買われ、それなりの覚悟を決め水揚げに臨んではいるが、これが怖くない女がいるだろうか。

 男はエルの女を二本の指で開き、醜悪な凶器を当てがったのがわかる。そう、エルを女にさせてしまう凶器だ。エルは反射的に女に力を込めたが、男は腰を使って突き込んでくる。くぅ、凶器でエルの初めてが少しずつ押し開かれしまう。辛い、これが女にされるってことなの。

 男は飽くこともなく凶器を突き込みエルの女を抉って行く。抉られる度に押し開かれ、押し開かれた分だけ凶器はエルに侵入してくる。こんなもの入るわけがない、入れられたらエルの女が壊されてしまう。

 突然エルの女に鋭い痛みが走り、小さな悲鳴を挙げさせられた。これは鋭い痛みに対してのものでもあったが、その痛みに引き続いて起こった感触にエルは動転した。悲鳴に引き続いて大きな呻き声を挙げさせられ、体はこれ以上はないほど大きく仰け反らせるしかなかった。

 鋭い痛みに引き続いて凶器は、エルの女の奥に一挙に深く侵入して来た。ここまでと思うほど奥深くにだ。これは入れられてしまっただけではない。エルの女は凶器によって貫かれてしまった。

 エルの女が告げている。あの鋭い痛みの瞬間にエルの初花は散らされ、その奥に凶器の侵入を許した事で女にされてしまったのだと。それもあんな男にだ。そんなエルの頭に浮かんだのは丈太郎さん。無駄だとわかっていても、救いを呼ばずにいられない。

「丈太郎さん」
「なんや」

 ああ夢なの奇跡なの。エルを女にさせてくれたのは丈太郎さんだ。丈太郎さんはエルの初めてを買ってくれたんだ。丈太郎さんはさらに深々とエルを貫き、もう余すところもなく女にさせてくれた。後は丈太郎さんをエルの女で喜ばせ、エルを女にしてもらうだけ。

 丈太郎さんに身を委ねていたエルにさらなる事が起こってしまった。エルの女の芯が熱い。これは女の秘密の営みに似てるけど別物だ、だって起こしているのはエルの指ではなく、丈太郎さんの男がエルの女の奥で起こしているもの。

 何かが来る、エルに何かが来る。女の秘密の営みで気を遣るのとはまったく違うものが。あっと思った瞬間にエルの女の芯は爆ぜ、背筋から脳天までそれは突き抜けた。これは気を遣るどころじゃないほど強烈だ。

 もしかしてこれは男に与えられる果てるかも。丈太郎さんはそれも教えてくれたんだ。それは打ち寄せる波のように何度も何度もエルを押し上げ、エルに男から与えられる女の果てるを刻み込んで行った。ずっとこうしていたい、そして今夜のうちにエルのすべてを女にして。でも終りは必ず来る。

 エルは水揚げ前に聞かされた。男に貫かれただけではまだ女にされただけ、男の迸りを受け止めた時に女になれると。丈太郎さんにもその時が来たのがわかる。今までと動きが明らかに変わっている。丈太郎さんもエルを女にする時が来たと感じてくれているはず。

 エルは男に与えられる果てるの中で女になりたいと願った。この果てるは今夜丈太郎さんに初めて教えてもらったものでエルの宝物みたいなもの。その宝物に抱かれながら女にして欲しい。

 丈太郎さんが最後を目指している。エルもそれに合わせて果てるための階段を登って行った。でも初めてのエルには、その瞬間がわからない。もうすぐなのはわかっても、それがいつ来るのかわからない。

 気が付くと果てるための階段は登り詰めてしまっている。それだけじゃない、エルには来ている。もう来る、来てしまえばエルは一たまりもなく果ててしまう。丈太郎さんはまだなの。もうすぐのはず、もうちょっとのはずなのに。

 今までにないほど丈太郎さんが深々とエルを貫いた。同時にエルに大波のようなものが来た。何も考えられなくなったエルは果て、エルの中を強烈に突き抜けるものを感じながら必死に丈太郎さんにしがみついた。

 その瞬間にエルが待ちわびていたものが訪れたのを感じた。これだ、これに間違いない。エルを女にしてくれる丈太郎さんの熱い迸りだ。その迸りはエルの女の奥底まですべて満たしていくのがわかる。

 布団がエルが女になった証の落花に染められている。エルは女になってしまったんだ。見ているとなぜか涙が止まらなくなり、ひたすらすすり泣いた。もう昨日までのエルじゃない、二度と戻れない体になってしまった。


 エルは遊女として許される最高の贅沢をさせてもらった。エルの初めてを愛しの丈太郎さんに捧げられたから。エルの女には丈太郎さんの熱い迸りがしっかりある。今のエルの女は丈太郎さんで満たされている。

 でもそれも今夜だけ。女になったエルは今度は本物の遊女にさせられる。いかにして男を喜ばせ、満足させ、媚を売り、エルを買う気にさせる遊女の技を身に着けさせられる辛い日々が始まる。エルが本物の遊女になってしまうのは一か月後だろうか、それとも二か月後だろうか。

 先のことを考えるのはやめよう。どうせ逃れられない運命だ。今夜だけは愛しの丈太郎さんに女にしてもらった時間を過ごせる。この束の間こそ遊女として許されるエルの幸せ・・・


 ・・・遊女の世界は時に華やかに描かれる。だがそれは、売り物としての女の価値を高めるために行われたもの。いかに着飾ろうと、いかに豪華な部屋を用意されようが、男の欲望を自分の女で満足させるのがすべて。

 今夜もまた薄幸の遊女が一人この部屋で女にされてしまった。この遊女も幾度この部屋で男に弄ばれてしまうのだろう。こここそ女の苦界、二度とあってはならない場所。エルには女の悲しみが伝わってくる。