ツーリング日和11(第28話)ピロートーク

「はぁ、はぁ・・・」

 強烈だった。これ以上はないってぐらい喜ばされた。さすがにグッタリ。昨夜だって最高としか思えなかったけど、今夜はもっと最高。コスプレでも処女ってこんなに効果があるのかな。

 丈太郎さんなんて感動までしてくれたし、エルだってなんか妙な気分になって燃えまくったもの。ようやく一息付けて、

「エル、相談があるねんけど」

 なんでも聞くよ。

「このツーリングが終わったらやけど・・・」

 ツーリングが終わる? あ、そうだよね。永遠にツーリングなんか出来ないから終わりが来るのか。ツーリングが終われば、丈太郎さんは愛媛に帰ってしまうんだ。離れるなんて嫌だよ。まさか、まさか、丈太郎さんはエルをこの遊廓に売り飛ばして去っていくとか。

「もう遊女コスプレは終わりや。そうやなくて、愛媛に来てくれへんか」

 そういう相談か。エルは大阪、丈太郎さんは愛媛の東温だったっけ。普通に帰れば離れ離れになってしまう。そりゃ、大阪と愛媛だから二度と会えないような距離じゃないけど、今さら遠距離恋愛はしたくないな。

 一緒にいるには、どちらかが引っ越ししないとけないけど、するならエルしかない。これは丈太郎さんの仕事の根拠地が愛媛なのもあるけど、それ以前にエルは現在プータロー。だから再就職も考えてた。

 そろそろ働かないとね。それでも現時点ではプータローなのはそうだから、動くのならエルだ。愛媛で仕事を見つければ良いはず。愛媛だってエルが働けるところはあるはずだもの。

「その仕事やねんけど」

 まさか松山で遊女に売られる。

「もうエエっちゅうねん。わては女衒やないねんから」

 実家は現代版の似たような稼業。

「だから実家とはとっくに縁が切れとる。なんでエルを売らなあかんねん」

 そんなものカネのために決まってるじゃない。自分の女にしておいて、夜の商売だとか、もっと際どい風俗とか、さらにはモロにソープとかで働かせるのはヤクザのイロハみたいなもの。

「あのな、そんなヤクザは普通やけど、わてはヤクザやのうて健全なモトブロガーや」

 それは表の顔。家に帰ればエルは殴り倒されて、泣く泣くソープで男に奉仕させられる。

「なんでそんな話になるねん」

 信じてるよ。たとえそうなっても後悔しない。丈太郎さんのためだったら怪しいデリバリーヘルスでも生本番のソープだって、

「誰がさせるか。半径1キロ以内にも近づかせんへんわ」

 たったの1キロ?

「え~い、千キロじゃ」

 そんなのしたら日本に住むとこなくなっちゃうよ。エルがソープで働くのはともかく、

「ともかくやない。お日さんが西から上がってもあるか」

 ふむふむ、丈太郎さんのモトブロガーの仕事のお手伝いか。

「事務仕事もあるねんけど、会計は信頼できる人間にしか任せられへんやんか」

 そこで借金を背負わせて、

「エエ加減怒るで。持ち逃げされるリスクや」

 丈太郎さんの仕事を手伝いながら同棲か。悪くない話だ。騙されて売り飛ばされないなら、

「誰がエルを売ったりするか。売っとったら買うてくるわ」

 どうしてもトラウマがあるのよね。

「それとやけど、この際やから・・・」

 そりゃ、寄り道できるけど、さすがに早いのじゃない。まだ二夜目だよ。そりゃ、もう他なんか考えたくもないけどさぁ。

「愛媛で同棲になるけど、本気の同棲って伝えときたいねん。それがケジメやろ」

 丈太郎さんはもうそこまで、

「エルはちゃうんか。わいはエルを誰にも渡しとうない。一日も早く加藤エルになって欲しいんや。明日にも籍入れてまいたいぐらいや」

 わかった。さすがに明日に籍を入れるのは置いとくけど、ちゃんとステップを踏みたいのなら賛成よ。

「言うとくけど身請けちゃうからな」

 あらエルをこの遊廓から身請けして助け出してくれないの。だから、そんなに怒らないの。エルだってそれしか考えていないのだから。でも、そのまま愛媛は無理だよ。引っ越しの手配もあるし。

「それはわかっとる。こっちかって新居を手配しとかなアカンし」

 今のところに転がり込んだらダメなの。わかった、女がいるんだ。それも一人や二人じゃなく、何人もの女を監禁していて弄んだ末に売り飛ばしてる。それが実は本業とか。

「なんでそっちばっかり行くんや。あそこは仕事場にもしとるから、エルがおるとこがあらへん」

 なるほど、番組の動画編集とか、番組作りの資料だとか、へぇ、あの番組のスタジオにも使っているのか。

「モノとモノの間に寝てる状態やから、エルがおれるとこがあらへんねん」

 ふむふむ、スタジオにベッドを置いて裏ビデオの撮影に使っているのか。

「そうやないのは見に来たらわかるわい!」

 丈太郎さんの本気が嬉しいな。エルだってアラサーまでカウントダウン中の女じゃない。そんな女と同棲するのに誰の許可がいるものか。好き合えば同棲するだけじゃない。それも必ずしも結婚まで考える必要さえない。

 同棲から結婚は一つのルートだけど、結婚を必ずしも前提としない同棲だっていくらでもある。まあお試し期間ぐらいは言えるけど、クーリングオフはいつでも出来るのが同棲だもの。されど同棲、たかが同棲かな。

 だけど丈太郎さんはそうでなく、親の許可を取っての結婚を前提にしての同棲にしたいって言ってくれてる。こんな許可なんて不要だけど、わざわざそうしたいって言ってくれてるのよ。同棲して嫌になったらどうするつもり。

「あり得るはずがないやろが。自分を誰やと思うてるねん。死んだって離すもんか」

 エルにもないけどね。さて引き合わさせるのは姓こそ違うけど父親だけだ。逆に姓が同じ母親やカンナは赤の他人だ。丈太郎さんの方は、お母さんは幼い時に亡くなってるし、お父さんの家には近づくだけで命の危険があるから挨拶なんて無理だものね。

 なんか結婚のキーワードが出てきたら燃えてきた。古風と言われようが、エルはそういう女なの。花嫁とか、新妻に憧れがバリバリあるんだから。もう無理かと思ってたけど、その座が見えてきたら興奮するしかないじゃない。

 問題は丈太郎さんだよね。だって二回戦やっちゃったもの。丈太郎さんは馬じゃなく人だから、さすがにキツイものね。女は受け身だから無理やりでも出来るけど、男は立たないと無理ぐらいは知っている。

 だってだよ女は男に輪姦されるじゃない。だけど男が女に輪姦されるなんて聞いたことないもの。あれはやろうと思っても、それに男が応じられないからのはず。いくらどんな女にも発情するのが男だとしても、そこまでの人数相手に応じられないはずだもの。

 元カレは馬だったけど、一晩に六回戦ぐらいが最高だったもの。それって六人ぐらいしか女の相手を出来ないってことになるじゃない。女が輪姦される時って六人ぐらいで終わるはずないものね。ましてや丈太郎さんは馬でなく人だ。

「エル、悪いけどわてもそんな気分なんや」

 やったぁ、OKなんだ。さすがエルが惚れた男だ。その言葉を聞いただけでエルの体はスタンバイ状態になっちゃった。でもエルはどうなちゃうんだろ。二回戦でも二回ぐらい気を失いかけたけど、三回戦はもっと強烈になるのは間違いない。

 でもなっても良いというより、エルはなりたいの。夫婦同然の間でなんの遠慮がいるものか。そうやって丈太郎さんをすべて受け止めるってエルは決めたんだから。

「エル・・・」

 またあの狂乱の時間が始まる。うわぁ、いきなり来たぁ・・・入って来ただけでエルは飛んで行った。二回戦とも比べ物にならないスタートだぁ。