ツーリング日和11(第23話)佐渡島ツーリング

 初めて迎えた二人の朝。朝日がこんなに眩しいのを初めて知ったかな。そこから恥しかったけど貸し切り露天風呂に行ったんだ。露天風呂は加納湖に向かって開けていて、まるで二人を祝福するような晴天で綺麗だ。

「エルほど完璧なスタイルはおらへんな」

 恥しいって。そりゃ、昨夜はすべてを見せたし、エルのすべてを知られちゃったけど、日の光の中ではさすがにね。そうだ背中流してあげる。

「エエって。こ、こら」

 丈太郎さんはエルの世界一大切な人だから、これぐらいは当たり前じゃない。これが二人の初風呂よ。お風呂を上がったら朝食。やっぱりあいつらがいやがった。

「エエ顔しとる」
「こうなってこその男と女よ」

 今朝は素直に受け取れる。昨夜にエルは変わった。昨日までのエルじゃない。丈太郎さんのエルなんだ。もちろん丈太郎さんもエルのもの。誰にも渡すもんか。

「ところであれはやったの」

 やったけど。

「そうじゃなくて」
「立つんだ、立つんだジョーや」

 なんだそれ。そんなことしなくとも、丈太郎さんは立派に立ってたけど、

「そやなくて、何度も何度も倒されても不死鳥のように立つこっちゃ」

 やったのは一発だけだけど、

「最終ラウンドが終わり、コーナーに戻ったジョーは血まみれになったグローブを外すんや」

 処女じゃないから出血はなかったけど、

「リングサイドに駆け寄った葉子に渡すのよね」

 なんの話をしてるのよ。その葉子って誰なのよ。まさか丈太郎さんの元カノとか。

「その前のシーンを覚えてるか」
「もちろんよ」

 はぁ、

「ボロボロになったジョーに団平がタオルを投げようとするのよね」
「それを奪い取った葉子は、戦えって叫ぶんだよね」

 だから最終ラウンドのトリプル・カウンターってなんの話なのよ。

「そして真っ白になって燃え尽きる」

 そうなったけど。ま、いっか。ところで今日の予定は、

「佐渡島と言えば」

 黄金の島は聞いた。

「そやのうて、この宿の名前と一緒や」

 朱鷺だ! 佐渡島まで来て朱鷺を見なかったらウソだ、

「ほんじゃ、八時半出発ね」

 宿からトキの森公園まで十分もかからないぐらい。朱鷺はどこだ、

「トキはカサンドラにいるのよ」

 なんだよそれ。へぇ、飼育ゲージなんだろうけど、こりゃ、大きいよ。うわぁ、朱鷺がいる。

「あれ見てコトリ、飛んでるよ」
「こんな目の間でエサ食べてるで」

 朱鷺が連なって止まってるじゃない。わあわあ言いながら見て回り、

「ここがカサンドラか」
「鬼の哭く街よ」

 違うでしょ、トキふれあいプラザだよ。それにしてもウイグルとか北斗有情拳てなんの話だ。朱鷺は鳥じゃない。朱鷺を堪能したら、

「大佐渡スカイラインや」

 名前からして峠道みたいだけど、

「佐渡の天上の道よ。これを走らないとバイク乗りの名折れだよ」

 別に名折れじゃないと思うけど、バイク乗りは峠道が好きだものね。これもトキの森公園から十分もしないうちに入り口に到着。高さは、

「八百五十メートルぐらいでっせ」

 なんだ千メートルないのか・・・じゃない、六甲山ぐらいあるじゃない。けど走ってみるとそんなに険しいって感じはないな。視界は広がってるし、カーブも襲い来るヘアピン地獄って感じじゃないもの。

 それに空いてるな。クルマの後ろを付いて走るのはどうしてもだものね。だけどそうなると、あの二人のスピードは毎度のことながら何なのよ。

「白雲台で待ち合わせでっから」

 三十分ほどで白雲台とやらに到着。これは景色がイイ。昨日まで山の中を走って行たようなものだから、海が見えるとまた格別だ! あっちが昨日泊った宿の方か。あの二人は、

「土産物をあさってまっさ」

 海が見えて、山が見えて、峠道にも関わらず気分は最高って感じで下りだ。登ったら下るのが峠道だけど、下りも怖いんだよね。だいぶ下ったところで、ずいぶんクルマや観光バスが停まってるな。

「佐渡の金山や」

 へぇ、ここなのか。だから大佐渡スカイラインを走ったのかも。資料館見たり、坑道巡りをしながら、どれだけ金は採れたのかな。

「江戸時代で四十一トンぐらいとなってるわ」

 さすが歴女のコトリさん。じゃ明治になってからは、

「三十三トンや」

 なんか実感ないな。年間産出量は、

「江戸時代の最盛期で五百キロぐらいかな」

 五百キロ。えっと、一日にしたら二キロもないのか。

「まあ金やからな。そやけど、グラムにしたら五千円ぐらいはするやろ」

 えっと、えっと、

「キロにしたら五百万円ぐらいや」

 なんか微妙だ。

「ほんじゃ、ちょっと計算換えよか。慶長小判って聞いたことがあるか?」

 いわゆる小判だよね。あれが一枚十八グラムだったそう。純金じゃないから金だけなら十五グラムぐらいらしくて、

「一キロで六十六両ぐらい作れるわ。五百キロあったら三千両以上や」

 千両箱が三つか。

「あははは、鼠小僧の三回分の仕事やな」

 余計に価値がわかんないじゃない。コトリさんは今の貨幣価値と較べるとおかしくなるってしてた。

「十五グラムいうたら今やったら七万五千円ぐらいやけど、江戸後期の一両で二十万円ぐらいの価値はあったとの試算もあるねん。江戸後期いうたら、何回も金銀改鋳やって小判の質は落ちとるから、慶長小判やったら五倍ぐらい価値があったかもしれん」

 ダメだ。さっぱりわからないけど、金のネックレスは欲しい。

「加藤さんに買ってもらい」

 そうする・・・ダメ、絶対ダメ、そんなことしたら股開いてブランド品を買い漁ったカンナと同じになっちゃうよ。相川の街まで下って来てお昼だ。

「ここがお勧めなの」
「景色が良うおまっせ」

 古民家をリフォームしたカフェみたいな店だけど、なかなかオシャレだ。店の中は、なるほど海に面してるんだ。

「島黒豚ハンバーグプレート」
「佐渡の魚介ペペロンチーノ」
「カレリタン」

 カレリタンってなにかと聞いたら、ナポリタンにカレーのあいがけだって。お昼が終わると、

「シーサイド・ツーリング」
「レッツ・ゴー」

 その前に復元された佐渡奉行所を見て、浮遊選鉱城跡、五十メートルショックナーを見て佐渡一周線に。これはまさしくシーサイドコースだ。なんか変わった形の岩が次から次に出て来るぞ。

「ここ行くで」

 尖閣湾揚島遊園ってなってるけど、えつ、えっ、遊覧船に乗るの。わくわく。ドキドキ、この遊覧船って、グラスボートになっていて海の中が見れるんだ。

「コトリ、あれ美味しそうじゃない」
「こっちの方が美味そうや」

 あのねぇ、そういう目で見たら台無しじゃない。ここの景色も、

「ああ北欧ノルウェーのハルダンゲル峡湾に負けんとなっとるけど」

 それってどこだ、

「コトリも行ったことあらへんから知らん」

 そこからは時々休憩を挟みながら、シーサイドロードをひたすら北上。やってきたのは、

「弾崎灯台や」

 佐渡島の北端の灯台らしいけど、ありゃなんの銅像だ、

「♪おいら岬のとうだいもりは・・・」

 映画の舞台にもなったことがある灯台だって。歌詞からして東大の森さんって人が主人公だろうな。こんな寂しいところにいたんだから、何か秘密の研究をするマッドサイエンティストぐらいの設定に違いない。

 そうだな見た目は灯台だけど、その地下には秘密の研究所があるぐらいの設定だろう。やっている研究は世界征服を企む悪の秘密結社のための兵器の研究。これ一つで世界を征服できるぐらいの研究だ。

 それを阻止すべく派遣されてきたのが腕扱きのエージェント。ついに秘密研究所のありかを掴んだエージェントは単身に乗り込んで行くのだけど・・・

「それって007だよ」
「喜びも悲しみも幾年月って書いてあるやんか」

 なんだそれ。そんな映画見たことないぞ。それはともかく灯台だけあって日本海が一望だ! 弾崎灯台からは一転して海岸線を南下。あれ、ここは両津じゃない、

「佐渡島も広いけどやっぱり島だねぇ」
「そやな。南半分はまたの機会にやな」

 今から南半分を回るには時刻が遅いものね。両津で行ったのは、道の駅あいぽーと佐渡。そこでまたお買い物。どれだけ買い込むかと思うほど。あ、そっか、社長だから、

「そうや社員へのお土産や」
「と言っても約二名用だけどね」
「宿行こか」

 二人ってどれだけお土産物を買い込むんだよ。そんなことはともかく、今日は山あり海ありで最高のツーリングだった。

「なに言うてんねん」
「そうよ、そうよ、夜もあるでしょ」

 もちろんだよ。二回目の夜は絶対よ。ツーリング中だって、ずっと今夜を楽しみにしてたんだから。