日暮れへのツーリング(第25話)グンゼの故郷

 コーヘーも忙しいみたいで、もうGWも終わって五月も末になってようやくマスツーだ。古法華寺にお花見ツーリングをした時は肌寒かったけど、もう初夏と言うより梅雨も近くなってしまってる。

「今日は初夏の爽やかさやで」

 バイクってとにかく剥き出しで乗るから、ツーリングの良い時期って本当に短いのよね。春と秋になるけど、

「春は梅雨が来てまうし、秋は台風もあるけんど長雨もあるもんな」

 硬派のバイク乗りは、そんなものを物ともせずに、

「やっぱり暑いし、寒いって愚痴ってるけどな」

 そりゃそうだろ。いくら見栄張っても現実はシビアだもの。今日は六甲山トンネル越えにしたな。こっちのコースは三田までは早いけど、

「料金所が三か所もあるのが、かなわんわ」

 だったらやめとけって言いたいけど、時間も大事だものね。フラワータウンを相野駅まで抜けて、古市からデカンショ街道に。

「うどん屋に入った道にするで」

 福住をショートカットするルートだな。国道一七三号に入ればひたすら北上するのだけど、けっこう走ってるな。

「空いてるし、信号は少ないからバイク乗りなら走りたいやろ」

 ついでに言えばワインディングもある。ヘアピンがグネグネじゃないけど、モンキーならちょっと気合が入るぐらい。もっとも今日も走った六甲山トンネルだとか、峰山高原から砥峰高原の道に較べたらマイルドだけどね。

「そのクラスになると天は我に試練を与え給うやもんな」

 そこに連れ出したのはコーヘーだろうが。レディをなんだと思ってやがる。

「高校の同級生の渚やけど」

 妙なボケをかますな。ところでさ、綾部ってあんまりイメージないんだけど、

「オレもそうや。この辺をツーリングしても通過点やもんな」

 そうなるもの。この道は綾部に通じるけど、ツーリングをするなら綾部を越えて舞鶴に行ったり、

「天橋立を目指すのもありやもんな」

 だってさ、ここまで来たら日本海を見たいじゃない。ついでに言えば綾部から福知山にも走ったことがない。

「なんか余計な寄り道の感じになってまう」

 福知山の東隣が綾部なんだけど、福知山から東に走るとなれば国道九号になるじゃない。

「そうなるわ。国道九号って綾部を南に迂回するねん」

 歴史的には綾部にもお殿様がいたんだけど、これは知らなかったな。綾部の殿様って九鬼さんなんだ。九鬼氏と言えば水軍で有名だけど、

「江戸幕府は水軍が好きやないから海の無いとこに移したんやろ」

 九鬼氏にお家騒動もあったみたいで三男の家が綾部で、五男の家が三田になったんだって。どっちが本家なの?

「五男の家の方が大きいさかい三田ちゃうか」

 三田が三万六千石で、綾部が二万石だったのか。九鬼氏って鳥羽の大名だけど、鳥羽の頃は海からの収益が大きかったんだろうな。その綾部の九鬼さんだけど天災に次々に見舞われて大変だったらしい。

「それでも明治まで続いてるで」

 やっとこさ峠を下って川を渡り、

「由良川やな。左に行くで」

 国道二十七号に入った。西舞鶴に行くのなら直進だけど今日は綾部市内に入る。由良川をまた渡ったけど、なんかバイパスっぽい道だな。

「あそこを左ってなっとる」

 そこから進んで今度は左に曲がると、

「この辺のはずやけど」

 そのはずだよ、さっきの道路案内には五百メートルってなってたもの。でもそれらしい建物は無いし、道路案内も見当たらないな。ロードサイド店の駐車場に入らせてもらってナビを確認。

「あの交差点を右みたいや」

 行ってみるとあった、あった。バス停のところから駐車場に入るみたいだ。訪れたのはあやべグンゼスクエアなんだ。なかなか立派そうなところじゃない。これも初めて知ったのだけどグンゼって綾部が発祥の地だったのよ。

「今でも登記上の本社は綾部らしいで」

 その工場跡を博物館とか公園にしてるみたいなんだ。ここの太っ腹のところは駐車場どころか入場料も無料なんだよ。さすがはグンゼだ。

「広告費で落としてるんやろな」

 博物苑ってなってるけど、そこを見て回りながら覚えたのだけどグンゼって漢字では郡是だったらしいのよ。これって、

「あれやろな、国是って言い方があるやん。国是は国のあり方みたいなものやけんど、この郡は田舎つうか、ここの街のやり方はこうやぐらいの意気込みの気がするわ」

 綾部というか丹波や丹後は渡来人がもたらしたとされる養蚕がさかんで、さらに取り出した糸から絹織物も作られていたみたいなんだ。その始まりって・・・これってホントなの?

「日本書紀やと思うけど・・・」

 雄略天皇の頃には絹織物の大増産命令が出てるぐらい。シンプルには大宮人たちの着物を作ってたし、

「江戸時代やったら西陣織の絹糸の供給地やってんやろな」

 そして明治維新を迎えるのだけど、当時の日本の主要輸出品が生糸だ。だけど綾部は近代紡績の時代の波に乗り遅れたみたいなんだ。そんな綾部を救ったのがグンゼになるみたいだけど、生糸と言えば女工哀史が綾部でも起こったとか。

「起こらんかったとなってるやん」

 グンゼの創業者はある種の変人で、

「素直に偉人と言うたれ」

 偉人と言うより聖人かもしれないな。だってさ、

『工女は養蚕農家から預かっている大切な娘であり、株主から預かった大切な娘である。預かった以上は一同を立派に育てあげなければならぬ』

 社員教育に力を入れまくり、

『表から見ると工場、裏から見ると学校』

 ここまで言われるようになったとか。それでグンゼの経営を軌道に乗せ、今だって男物のパンツと言えばグンゼがトップブランドだ。このスクエアには道の駅みたいな物産品館もあるけど、

「綾部ってお茶も有名みたいやな」

 緑茶カフェもあるもんね。ところでさ、あんだけしか走ってないから言うには早いかもしれないけど、綾部ってなんとなく活気がありそうな気がしたんだ。だってさ、こういう地方都市ってほとんどのところが衰え行く街って状態になってるじゃない。

「オレもそんな気がしたけど、あれだけじゃわからんわ」