ツーリング日和10(第34話)勝者は・・・

 これがレースが動くって意味か。レースに転倒やコースアウトは付き物だけど、その時間帯を上手く活用できるかどうかも駆け引きのうちなんだ。その後もバタバタとライダー交代があり、しばらくすると、

「六花は八位に上がっとるで」

 周回遅れも増えてきて、誰が何位かよくわからないよ。さっき転倒事故もあったけど、コースアウトしてストローバリヤに突っ込んだり、マシントラブルなのかピットに入ったまま動かなくなるマシンも出て来てる。まさにサバイバル戦だ。そういえば先頭集団と六花の差は、

「五秒言うとこかな」

 開かなくなったな。

「前半のツケが出始めたんかもしれん」

 先頭集団の四台は速いけど、そこはSTクラスだから圧倒的に速いわけじゃない。第二集団に較べて相対的に少し速い程度だと思う。

「先頭集団二台が抜け出したみたいや」

 でも六花との差が変らないと言うことは、

「二台は先頭争いから脱落したみたいや」

 なにかトラブルがあったのかも。間もなく脱落した二台が第二集団に吸収されたけど、第二集団からも脱落が相次いで今は五台だ、

「こんな展開も珍しいな。もうこの時点やったら、だいぶ勝負が見えてるはずなんやが・・・」

 一周ぐらい先頭と差が付いている展開も多いらしい。そうなっていないのは、

「荒れとるな」

 あれからもイエローフラッグが出たし、救急車も来てたものね。イエローフラッグが出るとペースは落ちるから、誰かがぶっちぎりの展開になれないのかもしれない。そうだね、まるでマラソンみたいな展開だ。そんな時に六花がピット入り、杉田さんが出てきてまたもや第二集団を形成だけど。

「また一つ落ちたな。これで六位や」

 六花もそうだけど杉田さんも第二集団の中にキッチリいるのよね。先頭の二台はまたピッチが上がったんじゃない。

「頭取った方に優勝が見えるから・・・」

 先頭争いをする二台と第二集団との差がまた開いてきた。あれっ、わかりにくいけど、

「第二集団も三台になってもた」

 これで杉田さんは五位だけど、おそらくピッチが上がった先頭の二台を追いかけたからじゃないかな。

「こういう展開になるとホンマの消耗戦や。どれだけ余力を残し取るかが勝負の分かれ目になりそうや」

 おそらく最初に先頭集団を形成していた四台は先行逃げ切りを狙っていたはず。そのために序盤から飛ばしていたんだろうけど、三度のイエローフラッグで減速を余儀なくされたから、思ったような逃げ切り体制に入れなかったんだ。

 第二集団は入れ替わりや脱落も多かったけど、六花や杉田さんは無理に先頭集団を追おうとせず、集団の中でスリップストリームを存分に利用し、ペースメイクもしてもらって力を温存してたのかもしれない。

「その作戦もリスクが高いけど、今日は結果的に当たってるな」

 耐久レースとは言え離され過ぎると挽回は難しくなる。あのまま先頭集団の誰かが突っ走っていたら周回遅れにされててもおかしくないものね。でもレース展開でこうなってしまうと、

「先頭の二台のタイヤはもうヤバいんちゃうか」

 コトリだってレーサーやった事ないから聞いた話と推測だけど、先行逃げ切り作戦の狙いはタイヤの状態が良いうちにリードを広げる点にあるで良さそう。後続のマシンはいくら力を温存すると言ってもレースやってるだけで消耗するのがポイントみたい。

「ペース上げて追いかける言うても、その時にタイヤも消耗するやんか。差が開きすぎると追いつけへんあきらめも出るぐらいちゃうか」

 そもそも四時間をワンセットのタイヤで走り切るだけで目いっぱいみたいなところがあるのが四耐。終盤戦になると多かれ少なかれダマし、ダマしの走りになるから、その状態になるまでに大きな差を持っておこうぐらいの作戦で良いはずよね。

「競馬みたいに追い込み馬がポピュラーなわけやない。むしろ逆や」

 追い込み型のレースをするにも、先頭との差をある程度までにしておかないと、さぁと言ってもタイヤが既に許されなくなってるぐらいで良さそう。

「もちろん先行逃げ切りもリスクがある。前半にタイヤを使い過ぎると、完走さえ出来んようになる」

 タイヤマネージメントが勝負を大きく左右するのがわかるよね。強豪チームは常套戦術として先行逃げ切りを採ることが多いそうだけど、その他のマシンとの差の兼ね合いを常に計算しておかないとならないみたい。

 残り三十分を切ったところで六花だ。六花のペースが上がってる。第二集団を抜け出して先頭の二台を追いかけてるよ。

「いや先頭は集団やない。一つ遅れてもた」

 ホントだ。後は六花が追いつくかどうか。先頭はホンダのチームだよね。

「ああ、カルカッタ・ホンダや」

 六花が追いかけてるのは二位になった、

「ジャカルタ・スズキや。もう三周ぐらいで追いつきそうや」

 そんな感じがする。こうなると時間との勝負になりそう。六花のラップタイムはカルカッタ・ホンダより速いから、

「そやな、残り三周ぐらいで追いつくかもしれん」

 ついにジャカルタ・スズキの後ろに迫って来てる。この周回が帰ってくる頃には・・・行けぇ、六花ぶっちぎれ!

「抜いたでこれで二位や」

 六花は確実にカルカッタ・ホンダに迫ってるけど、時間は、時間は、

「残り五分やから三周やな」

 四耐は先頭が周回中に四時間を走り、そこからゴールするまでになる。たとえば残り一分でゴールラインを通過すれば、その周回が終わってゴールラインを越えた時が優勝になるんだよ。

 残り五分あれば二周は回れるから三周目がファイナルラップになるはず。この差だったっら勝負はファイナル・ラップになるかも。六花、ここまで来たんだ、カルカッタ・ホンダを抜いちまえ。行けぇ、行けぇ、死ぬ気でぶっ飛ばせ。

「あぁ・・・」