ツーリング日和10(第22話)祝勝会

「ウィナー、アオイ・シノハラ」

 六花が勝った。それにしても面白いものを見せてくれた。まさに白熱の好勝負だった。たった二台だけど六花がウィナーズ・ランをやってるよ。

「行くで、表彰式や」

 表彰って、表彰状でも渡すとか。

「ああクレイエール杯や」

 なんだそれ。ありゃ、いつの間に表彰台をセッティングしてたんだ。杉田さんのスタッフも集まってきてコトリの挨拶だ。

「勝ったのは六花や。杉田さん文句あらへんな」
「完敗です。敗者の条件を受け入れます」

 これで杉田さんと六花のコンビで鈴鹿四耐を走る事になるけど、

「二人が鈴鹿を走るのには条件がある」
「そんな話は聞いてない」

 異論を挟もうとする杉田さんをコトリは睨みつけて黙らせ、

「クレイエールがスポンサーとして全面サポートする。文句は言わせん」

 そこまで手を回していたのか。

「ホテルで六花の祝勝会やるで」

 十勝サーキットから十分ほどのところにあるホテル・アルコ。どうでも良いけどナウマン温泉ってなによ。

「近くにナウマン象記念館があるからやないか」

 二十一室の小さなホテルだけど思いの外に立派だな。あれっ、ここも借り切りにしたの。

「ついでや」

 お風呂はジェットバスやバイブラバス、サウナや露天風呂も備えたモダンな温泉。部屋に戻って、ありゃ衣装まで、

「TPOや」

 このツーリングでイブニング・ドレスになるとは思わなかったな。でもさぁ、スポンサーはやり過ぎじゃないの。

「商売や。元は取る」

 そういうことか。クレイエールでもライディング用品を扱ってるのよ。このツーリングで着ているのもそう。でも後発も良いところだから少々苦戦中。どうしてもブランドが弱いのよね。

 巻き返すには宣伝が必要なんだけど、クレイエール全体からすると片隅の部分だからもう一つ力が入ってないのはある。クレイエールの判断としてはそれもありなんだけど、杉田さんの利用は面白いと思う。

 宣伝は売りたい人、買ってくれる人に焦点を当ててするのがもっとも効率的なんだけど、マスメディアではどうしても拡散しがちになるし、費用もバカにならないのよね。コスパが割りに合わないことが多々あるもの。

 そこを考えるとモトブロガーである杉田さんの番組を見る人は、宣伝相手として最適なんだよ。そりゃバイク好き、バイクを乗ってる人の比率が高いもの。それだけじゃない、そういう宣伝とのコラボはしないのでも杉田さんは有名なんだ。

 ユーチューバーも様々で商品広告を請け負うようなところも多いし、なんとか請け負うと必死なところもいくらでもある。それが出来て一人前なんて評価もあるぐらい。でもあれは、ステマではないけどユーチューバーとして卑屈に見られることも現実としてあるんだよ。

「そこまで考えてたの」
「当たり前やろ。杉田さんの番組は、こうでもせんと宣伝に使わせてくれへん」

 杉田さんの番組でも、四耐企画はかなり注目されてるのはシノブちゃんも調べてくれてる。そりゃ、人気モトブロガーがガチで挑戦するんだもの。

「だからこそ六花は絶対外せんやんか」

 六花は美人ライダーとして有名だものね。美人なだけでなく実力もあるからこそプリンセスとも呼ばれてるぐらいだもの。二人が組んで四耐に出れば話題性も、ビジュアル性も言うことなしの宣伝効果になる。

 そのスポンサーとしてクレイエールがなり、スーツとかを着てもらえれば売り上げは間違いなしだ。知名度だって、ブランド力だって上がらないわけがない。

「杉田さんも頑固やからな」

 四耐企画の予算も最初はかなり少ない見積もりでスタートしたのは加藤さんにも聞いた。だけど六花の出現で杉田さんは本格的なんてものじゃない体制を敷いちゃったんだよね。あんなもの本気になればなるほど青天井みたいなもの。

「杉田さんの番組やんか。いくらでもスポンサーすると言うのが出て来たけど、自力にトコトンこだわって全部お断りにしとってんや」

 加藤さんがボヤいてたものね。番組収益なんて完全に度外視していて、協力してる加藤さんの方がハラハラしっぱなしだって言ってたもの。その四耐企画でさえ、篠原アオイが実は佐野六花だとわかった瞬間から空中分解しそうになり、そうさせないために加藤さんは懸命に走り回っていたんだよ。

「シノブちゃんにも調べてもうたけど・・・」

 あの杉田さんが荒れに荒れて、一時は手の付けようもなかったとか。それをなんとか宥めすかして、北海道ツーリングまで連れ出すところまで漕ぎつけてるんだよ。それでもどうしても六花を許せない杉田さんに途方に暮れて、わたしたちに頭を下げたのが糠平温泉になる。

「加藤さんも漢やで。番組も、実際に会って話しても愉快で軽そうな人に感じてしまうとこがあるけど、ここまでやってくれるのはまずおらんと思うで」

 加藤さんは四耐企画にコラボしてるから、潰れたら困るって言ってた。それも理由だろうけど、あくまでも表向きで杉田さんの事を本気で心配してたんだもの。そうこうしてるうちにパーティの時間になり会場へ。コトリが再び挨拶に立ち、

「クレイエールが全面サポートするからには完走は当たり前、優勝を目指してもらわんと困る。それとスタッフのユニフォームも、マシンのカラーリングもスポンサーに従ってもらうからな」

 会場から不安そうな声で、

「チーム名もですか?」
「アホ言え。Team Sugi-sanを名乗れるのは日本中探しても杉田さんのチームだけや。この名前があるからクレイエールもサポートするんや」

 杉田さんと六花は横並びに座ってるけど、杉田さんの表情は固いな。あれをなんとかしないといけないけど、

「四耐まで日が迫っとる。明日には松山に帰ってもうて最終準備にかかってもらう。杉田さん、それでエエな」
「異論は御座いません」

 やっぱり固いよ。杉田さんが六花を受け入れなかったら、またチームに不協和音が生じちゃうよ。

「杉田さん。あんたも男やろ。思うとこがあるのは知っとるが、そんな根性でチームを引っ張れるか!」

 そうは言ってもさぁ、

「女々しすぎるで。ちゃんと自分の足で立ってるやないか。誰に恥じるとこがあるねん」

 あれっ、なんの話なの。

「自分が思うてるより杉田さんの存在は大きいんや。そやから、これだけのスタッフが集まっとるし、誰一人見捨ててへんやんか。そこんとこ考えんかい、見えへんのか! 答えはレースで見せてもらうからな」

 今日のコトリは月夜野うさぎだ。わたしも如月かすみをやれってサインかな。しかたないか、

「わたしからも一言。サポートするのは遊びや慈善事業ではありません。四耐で注目される事による宣伝効果です。これはビジネスであり、求められるのは結果と知りなさい。それがエレギオン・グループと取引です」

 その後は歓談。テーブルはコトリと杉田さん、六花だけど、

「あのレースでようわかったわ。杉田さんがファクトリーに不合格やったんが」

 でも紙一重だったじゃない。

「差はな。そやけど鋼鉄のような紙一重や。杉田さんならわかるやろ。それ突き破らんと四耐でも勝てんで。四耐だけやない、トップ・モトブロガーの地位かって危ないわ。コトリに出来るのはここまでや。後は自分でなんとかせんとしゃ~ないで」