ツーリング日和(第21話)白熱のレース

 練習走行に杉田さんも六花も入ってるけど、走りながらセッティングとかするのよね。

「チイとはするやろ。あのYZFは鈴鹿スペシャルみたいなセッティングやろうからな」

 加えて、たぶんだけどあの二人は十勝を走った事はないはずなんだ。いくらレーサーでもコースを知らないと走りにくいはず。コースを知るには周回を重ねるしかないし、

「そやけどセッティングを細かくやるにも時間が足りんやろ」

 せいぜいサスの硬さを変えるぐらいじゃないかとコトリは見てる。時間的にはそんなものかな。練習走行が終わったみたいだけど、コイントスやってるのは、

「予選があらへんからグリッド決めや」

 二台しか走らないからどっちもフロントローだけど、内か外を決めるのか。ラップタイムはどれぐらいかな。

「今日はグランプリコースでやるんやけど、十勝でグランプリレースを使ったレースは二十世紀の終りが最後やねん。その時の四時間耐久のコースレコードで二分二十秒ぐらいやけど・・・」

 ちなみに鈴鹿の八耐優勝の平均ラップタイムは二分十五秒ぐらいらしい。

「二人の実力が見れるで」

 シグナルが赤から青に変わってスタート。猛然と加速して1コーナーに突っ込んで行ったけど六花が先行したよ。

「まずは相手の出方を見るやろ」

 レースにも戦術はあるそう。シンプルには先行逃げ切りが追い込みかだよね。

「追い込み言うても、ある程度の距離に付いていかんと話にならん」

 サーキットでレースを見るのは初めてだけど、迫力あるよ。ホームストレートなんて一瞬だもの。もの凄いスピードで走り抜けて、1コーナーを鮮やかにクリアするもの。あんなにバイクを倒すのにも感心する。

 二人とも速いのだけど、ずっと見ているとスタイルが違うのよね。あえて例えると六花はカミソリで切り裂く感じだけど、

「杉田さんは鉈でぶった切る感じやな」

 それとスタートから六花が先行してるのだけど、杉田さんは後ろにピッタリ付けてるのよ。1メートルも離れてないんじゃないのかな。あれだけ接近してるのだから抜けそうなものだけど。

「杉田さんもガチの勝負に出てるわ。ありゃ、六花がたまらんで」

 どういう事かと聞いたら、

「勝負はゴールラインを最後に先に走り抜けたもんが勝つねん」

 当たり前じゃない。

「六花は杉田さんが見られへんねん」

 そりゃそうだけど、

「後ろに付くと言うのはな・・・」

 まずマシンの性能は互角だ。技量もほぼ互角と見ても良さそう。そうなると勝負を分けるのは、

「マシンとタイヤのヘバリかたの差になってくる」

 コトリに言わせるとスタート時点のマシンが最良の状態と見るのだって。レースを続けるとエンジンもタイヤもヘバって来るのか。

「ST600やからエンジンのヘバリかたは小さいと思うけど、あれだけやられたら差になると思うで」

 杉田さんが六花の後ろにピタッと付くとスリップストリームが生じるそう。そうなると杉田さんのエンジンの負担も軽くなるのか。

「それだけやないで」

 ライダーにもクセがあるそう。得意のコーナーとか、逆に苦手なコーナーとか。後ろに付くとそれが全部見れるのか。十分に観察して最後に抜く戦術で良いのかな。

「六花も知ってるから必死やんか」

 そうなのよ。真後ろに付かれないようにしきりにラインを変えてるもの。そんな事をすれば速度は落ちるけど、

「それでも抜かへんのが杉田さんの作戦やろ」

 レースは後半戦に突入。うん、ラップタイムが、

「六花は勝負に出たみたいや」

 振り切る気か。互角のマシンで振り切れるのかな。

「この辺は聞いただけの話やねんけど・・・」

 レース中はどのマシンも全力で走っているように見えるけど、あれもノーマルペースと勝負ペースがあるんだって。勝負ペースで走るのは集中力と体力も必要だけど、

「マシンの消耗も早めることになる」

 ノーマルペースだってマシンの限界に近いとこで走っているようなものだけど、勝負ペースになると限界を超えたとこの理解で良いかもしれない。六花が勝負に出たのは、今のペースのままで終盤を迎えると勝てないとの判断なのか。

「杉田さんは付いていく気やな」

 ここも付いて行かない戦術もあるそう。六花は早めに勝負をかけているから、少々離されても、勝負ペースの反動が必ず来るから、それをあえて待つんだとか。

「一時間勝負やから離されると不利と見たんやろ」

 ラップタイムはどんどん上がってるじゃない。そのせいかジリジリと六花が引き離している様にも見える。でもこれだけペースが上がると、

「それが勝負の分かれ目になりそうや」

 六花は勝負ペースのさらに上のペースに足を踏み入れてると見るのか。そこまでペースを上げると転倒のリスクが高まるよね。

「そういうこっちゃ。そやけど、今の六花のペースのままやったら、杉田さんでも抜くのは容易やない」

 時間が刻々と過ぎていく。残り十五分から十分、五分、二分・・・

「これで最終ラップになる」

 一時は離されかけた杉田さんだけど、またテール・ツー・ノーズまで迫ってる。最終ラップで抜けるのか、それとも六花が逃げ切れるのか。

「勝負は最終コーナーになりそうや」

 杉田さんは六花のアウト側から仕掛けてきた。もう殆ど横並び、ホームストレートの加速勝負だ。ゴールラインを二台が駆け抜け、チェッカーフラッグが振られたけど勝ったのはどちらだ。