純情ラプソディ:第57話 快進撃

 今年は港都大カルタ会の快進撃の年として良いと思うよ。札幌杯でも優勝したけど、西日本王冠戦も一部優勝。一月の末には東西王冠戦に出場するんだもの。これに勝てば、

「ビール一年分がまたもらえる」

 札幌杯と合わせて二年分になるから闘志が湧いてくる。団体戦躍進のキッカケになったのが片岡君の復活。これがとにかく大きかった。梅園先輩なんて、

「片岡大明神の復活だ!」

 団体戦は五人の内で三人勝てば良いのだけど、当たり前だけど五人に強弱はある。この強弱なんだけど、カルタの場合は段位が違えば絶対ぐらいの差になり、ビギナーズ・ラックは起こらない程のものになるんだよね。

 とくに大学カルタではそう。みんな現役バリバリだから、一段差ならまだ番狂わせの可能性があっても二段差を覆すのはまず不可能ぐらいとして良い。これも補足しておくけど社会人になると話は別。

 カルタは級位も段位も下がらないけど、社会人では年齢と練習量の差が大きくなり、A級選手がB級や下手するとC級にも負ける事は珍しくないのよね。職域学生大会も去年はD級だったけど、B級の達也でもA級五段に勝っちゃったぐらい。もっとも相手はかなりのお爺さんだったけど。


 梅園先輩は団体戦を勝ち上がるにはポイント・ゲッターが三枚は必要と言ってた。ポイント・ゲッターも梅園先輩の言い方だけど普段は、

『PG』

 こう呼んでる。普通にポイント・ゲッターて呼べば良い気もするけど、

「なに言ってるのよ。卵かけご飯はTKGでしょうが」

 それはともかく、PGとはA級五段以上と見たら良いと思うよ。A級五段であれば、A級四段に高確率で勝つし、B級三段以下なら余裕で蹴散らしてしまうもの。

 PG三枚の意味はシンプルで、三枚で三勝したら団体戦は勝つってこと。下位相手だったらこれで必勝チームを作れるんだよ。そりゃ、PG五枚そろえれば強力だろうけど、実際のところ三枚そろえるのも容易じゃない。どこも苦労してるもの。

 ただ上位進出となると相手もPGが三枚いると言うか、三枚いるチームが勝ち上がって来てるんだよね。そこで起こるのがPG同士の星の潰し合い。ここも、

 ・PG同士が一試合
 ・PG同士が二試合
 ・PG同士が三試合

 こうなるのだけど、たとえばPG同士が三試合で一勝二敗なら、残りのその他同士の二試合で二勝すれば勝てる可能性が残るはずだけど、うちはこの時点でジ・エンド。必ず負けるその他が一枚いるんだよね。

「誰だそいつ」
「お前だ!」

 これはうちの全自動一勝献上機から見た方がわかりやすいかもしれない。

「ボクじゃないよな」
「お前しかいない!」

 PGに勝てないのは織り込み済みだし捨て試合と勘定するから影響ないのだけど、その他にも絶対勝てない影響はかなり深刻。たとえば席割で、

 ・全自動一勝献上機 VS 相手のその他戦

 これがあるとここで確実に一敗。残るのはPG三枚とその他一枚。これは相手も同じ。残る組み合わせは、PG三試合の時はもう説明したから、

 ・PG同士二試合
 ・PG VS その他二試合

 ここもPGにその他は勝てないから互いに一勝一敗になり計一勝二敗。そうなるとPG同士戦を絶対に負けられなくなるし、これが席割を見た瞬間にわかる事になる。この辺が札幌杯のリーグ戦で苦戦した原因の一つ。

「そうだったよね」

 この辺の組み合わせをすべて説明すると煩雑になるから省略するけど、とにかく全自動一勝献上機戦以外の結果が二勝二敗なら、その瞬間にジ・エンド。それはいかなる相手でも同じ。だから席割は非常に重要だったし、見た瞬間に絶望感に浸ったこともあるもの。

「そんなところに片岡大明神が復活してくれたからPG四枚の超強力体制になったんだよね」

 札幌杯の決勝がそうだった。京大は片岡君をその他の安全牌と見てたようだけど、突然PGになっただけではなく、京大のPGである朝比奈さんや波多野さんを撃破したものだから、

「そうだったよね。第三戦なんか玲香が早瀬君になっちゃって・・・」

 誰でも勝てる達也に城ケ崎クイーンだったものだから、

「誰でもって言い過ぎでしょう」
「うん、C級以下なら勝てる」

 片岡君が海老原君、雛野先輩が小山田君。この二人が負ける事は達也が勝つぐらいありえなくて、梅園先輩に波多野さんが勝てないのもほぼ間違いなかったから、

「さすがの玲香も席割を見てあきらめてたよ」

 ヒロコも朝比奈さんに勝ったから四勝一敗で優勝を決めちゃったものね。片岡君はその後も快進撃を続けて、向かうところ敵無し状態。四枚のPGがそろえば西日本王冠戦も全勝優勝だったものね。

「敵無しは言い過ぎで、城ケ崎クイーンには歯が立ちませんでした」
「そりゃ、片岡じゃクイーンに勝てるわけないからな」
「ほう、だったらクイーンに何枚取れたか言ってみろ」
「さ、三枚」
「そしてもらった送り札が十五枚。終わった時には三十七枚の札が自陣にビッシリ並んでいただろうが」

 城ケ崎クイーンは別格、まさに怪物。赤星名人でも勝てないぐらいだもの。ちょうど達也の裏返し見たいな絶対的な存在。

「裏返しって、いくらなんでもだろ」
「これ以上適切な表現は世界中探してもない」

 城ケ崎クイーン・クラスになるとPGを超えたエースになる。エースの存在は大きくて、

「エースを複数そろえるとPGをその他に変えてしまうほどの破壊力となる」

 東大がそうだった。赤星名人と今岡君の破壊力は半端なかったもの。あの時も席割次第でどっちが勝ってもおかしくなかったものね。それはともかく、うちにもエースがいる。言うまでもなく梅園先輩。

 札幌杯でもリーグ戦からプレイオフ、さらに決勝に至るまで全勝だったもの。関西王冠戦でも同様。まさに当たるところ敵なしぐらいの絶対のエース。そこに準エースと呼べる雛野先輩と片岡君がいるんだよ。

「ヒロコも準エースだよ」

 準エースは妙な言い方だけど、並みのPGなら高確率で勝ってしまうような存在で良いと思う。西日本王冠戦のヤマは立命館戦で、さすがに強かったけど、

「あそこは穴が無かったけどエースがいなかったものね」

 立命館はA級五段を五枚並べる強力チームだったけど、エース一枚に準エース三枚のうちに勝つのは難しかったってこと。とにかくエース級が入るとチーム構成はさらに変わり、うちなら、

 エース >> 準エース > ポイント・ゲッター > 数合わせ

 こんな感じになって、

「大学カルタに数合わせはないから、その他だろう」
「うちには不動のレギュラーとして居座ってる」

 いちいちウルサイ、黙っとれ。立命館はPG五枚と言えなくないけど、梅園先輩、雛野先輩、片岡君、さらにヒロコも加わった四枚から三勝を挙げるのは容易じゃなかったぐらいかな。ヒロコが負けたのはちょっと悔しかったけど。

「王冠決定戦の相手は慶応だね」

 札幌杯リーグ戦では負けてるのよね。

「あの時は片岡君は不調だったけど、今は違うよ。それに慶応も玲香のところに負けてるからね」

 慶応も立命館に似たチームかな。穴がない代わりに絶対的な切り札がいないものね。うちはブラックホールこそいるけど、

「ボクがブラックホールか」
「自覚があればよろしい」

 残りの四枚が強力だから十分に勝機があるはず。いや絶対に勝ってビール一年分持って帰ってやる。

「如月さんには驚いた」

 新星学園は絶対のエースと信じ込んでいたジャイアント斎藤が、赤子の様に捻らたものね、

「ムイムイもヒロコも新星学園の三羽烏に勝ったけど、あそこまで完勝とは驚いたもの」

 カスミンが出場したのは大学選手権の二試合だけだったけど、一枚も取られてないのは今でも信じられないぐらい。

「これにもしカスミンが加われば」
「史上最強かもしれない」

 カスミンは司法試験予備試験を合格しちゃったんだよね。それもだよブッチギリのトップだって。教授も驚くのを通り越して呆れてた。来年は九分九厘どころか余裕で司法試験も合格するものね。

「だったら如月さんをレギュラーにしたら」

 すねるな達也。すかさず梅園先輩は、

「大学選手権の時のような突発事態が起こらない限り、何があっても早瀬君は不動のレギュラーよ」
「やはりボクを頼りにしてたのですね」
「そらそうよ。いくら全自動一勝献上機でも、いなけりゃ団体戦は不戦敗になっちゃうじゃない」

 みんな達也と一緒に戦いたいし、それをカバーするために精進した結果が今だもの。達也がいなければ、今の港都大カルタ会はなかったのは誰もが認めてるんだから。

「そうだ早瀬君。今年の忘年会の手配は」
「もちろんバッチリです」
「期待してる。誰にだって取り柄があるものよ」

 思いっきり達也が凹んだから、後で慰めてやらなくっちゃ。