純情ラプソディ:第22話 忘年会

「毎度のことだけど早瀬の店を選ぶセンスは良いな」
「まあ、これだけはちょっとな」

 今夜は北野だ。なかなかオシャレで品が良いと思う。

「梅園先輩には上品すぎないか」
「しゃべらなければ、ピッタリなんだが・・・」

 それは言える。だがそこが梅園先輩の良いところだと思っている。さすがにやり過ぎの面はあるが、しゃべらずに真剣な顔をしている時の梅園先輩は美しすぎて近寄れないぐらいだものな。あのゲラの面があるから親しみやすい。

 それより早瀬の選ぶ店のセンスがどんどんグレードアップしてるのは気のせいだろうか。今日の店だって、ホントに予算内なのかは疑問だ。そこまで本気の証拠だろうが、

「席の配置は、これで良いか」
「好きにしろ」

 五人しかいないから配置もクソもないが、隣に座りたいのだろう。あの二人の交際だが、それなりに順調で良い気がする。早瀬もなんだかんだと言いながら初めての交際相手だろう。初心なところが微笑ましいよ。

「キスまで行ったか」
「何を言うんだ。そんな破廉恥なことが出来るわけがないだろう」
「手ぐらいは握っただろう」
「そんなものまだに決まってるだろう」

 恋人なら当然のステップだが、早瀬の気持ちは少しだけわかる。早瀬と付き合いだしてから倉科さんは輝くように綺麗になった気がする。そりゃ、恋する女は綺麗になると言われてるが、そんなレベルじゃない気がする。ボクですら眩しく見えて仕方がないぐらいだ。あんなに女って変わるものだろうか。


 それとりあえず置いといて、今年の振り返りだけどカルタ会は頑張ったと思う。まず全国職域学生かるた大会は夏にD級優勝。ここも梅園先輩が入ったころはC級だったそうだけど、二年連続欠場で落ちてたからな。これで来年はC級に昇格。この大会もD級は夏に行われるが、A・B・C級は春開催。春と言いながら三月だからB級も射程距離にとらえてると思う。

 全日本かるた大学選手権はブロック予選突破まで進めたのは悪くない。あの時は決勝トーナメントの初戦が慶応カルタ会Aだったのが不運だった。あの時は梅園先輩と倉科さんが勝ってくれたのに、ボクと雛野先輩が競り負けてしまった。あれはボクも悪かった。

 それでも関西王冠戦は優勝した。もっとも二部だが、この時が梅園先輩が一番喜んだ気がする。去年は初心者助っ人を三人も入れて大顰蹙を買った大会だ。今年も会場に入った時から白い目で見られたが、全勝でリベンジできた。来年は一部でも優勝して東西王冠決定戦に進んでみたい。

「わぉ、オシャレ」
「ホント、ムイムイ以外にはね」
「ヒナに言われたくないわ」

 女性軍団の登場。梅園先輩と雛野先輩は方向音痴のところがあって、前にも会場にたどり着けない騒ぎがあったから、倉科さんエスコートに付いてもらっている。今日は駅から距離があるし少し入り組んでからな。全員がそろって、

「今年の団体戦は・・・」

 梅園先輩の総括があって、

『カンパ~イ』

 スパークリングなのがシャレてるな。そうそう今日の店はイタリアン。テーブルを三つ寄せてもらってる。オープンキッチンが良く見えて、それだけで食欲がそそる感じだ。テーブルに花があって、いかにも女性受けしそうだ。

「早瀬君はこんな店でヒロコとデートしてるの」
「いいな、いいな、ここからなら北野のホテル街も近いじゃない」

 早瀬の奴、顔が真っ赤だぞ。

「そんなことをする訳ないじゃですか」
「ホントかな」
「愛しあう男女なら自然だよ」

 ここのところ定番になってるな。倉科さんまで真っ赤になってるのが可愛いよ。さて個人戦の成績だが、今年はクジ運と参加メンバーが悪かった気がする。後一歩のところでゴツイのに当たったからな。

 その中で光ったのはやはり倉科さん。B級に上がって三段が取れると、二か月後の大会でB級でも優勝し。今はA級四段の申請中。彼女はホントに強い。カルタは読みと反射神経、瞬発力が求められるけど、バランスが良いのが彼女の持ち味だ。

「ムイムイのクイーン戦も惜しかったね」
「あの連戦はきつかった」

 クイーン戦の挑戦者決定戦は十一月にあったが、梅園先輩は元準クイーンを大接戦の末にベスト十六で破ったものの、準々決勝は王座復活を狙う元クイーン。梅園先輩は後半に強く、前半に弱いのだけど、前半の取りこぼしが多すぎて、結局押し切られた。ありゃ、学祭準備で遊びすぎの影響の気がする。

「ヒナも来年には五段に上がれるよ」

 五段への昇格基準はいくつかあるが、三位入賞三回と、A級得点八点がある。雛野先輩は三位入賞は一回だが、四位入賞が三回ある。これでA級得点は五点だ。昇段への成績は二年度分になるから、準優勝一回でも三位と四位入賞が一回ずつでも到達することになる。

「しっかし、毎度毎度運命戦にもつれこむし、もつれ込んだら勝てないのはどうしてなのよ。これは祟りじゃ!」

 どうにも運命戦に魅入られたように引き込まれる上に相性が悪いらしく、ついに七連敗だとボヤく、ボヤく。年が明けたら風向きが変わってくれると期待している。それも港都大カルタ会は確実に力が付いている。A級が四人になったし、そのうち三人はまだまだ伸びる余地がありそうだ。

 問題は早瀬かもしれない。早瀬にはA級の壁が厚すぎる。最高で四位だからな。あれだって組み合わせにかなり恵まれてのものだ。団体戦の上位進出のために早瀬が安全牌になるのはシンドイな。


 カルタは置いといても早瀬の件で先輩たちにはお世話になった。早瀬はオレもプッシュはしたが、やはり躊躇っていた。高校の時の轟沈の経験も記憶に新しいだろうからな。あれはパフォーマンスの練習中だったが先輩たちに呼び出されたのだ。

『早瀬君はヒロコに夢中だね』

 どうしてわかったかと聞いたら、そんなもの見ればわかると言われたよ。女ならわかるのだろうな。ボクも早瀬の話を聞いた後はミエミエなのに笑いをこらえるのが大変な時があったからだ。

『ヒロコはイイ子だけど、どうしてムイムイじゃなかったかな』
『そうなのよ。ムイムイはともかく、ヒナだっているのに』
『ともかくってどういう意味よ』
『そう言う意味しかないわよ』

 二人のこの手の喧嘩は漫才の領域だから置いといて、先輩たちはボクに協力を頼んできた。元の企画は去年から練りに練ったものであったようだが、これをあえて変更して公開告白イベントにしたいと言うのだ。そんなことをすればこれまでの振り付けの変更が必要になると思ったが、

『それは考えてある。とにかくヒロコにバレたら意味がなくなる。早瀬君も協力してくれることになってる』

 聞いて驚いた。あの早瀬がその手を使うとは思いもよらなかったからだ。同時にそこまで本気なのに感心した。早瀬がそこまで踏み込むならボクが協力しない訳にはいかないだろう。

『これはカルタ会のためであるのよ』

 関係ないだろうと思ったが、一昨年からさんざん言い触らされ、陰口を叩かれまくったレズ疑惑への回答になるからと説明された。ボクと早瀬が入会したからかなり収まってくれたようだが、それでも執念深いようだ。

『二人が引っ付けば申し分ないし、カルタ会の中で男女の恋愛模様が公開の形で盛り上がるぐらいあるのを示したいの』

 倉科さんに隠すのは少し大変だったが、あのパフォーマンスは大成功として良い。突然告白された倉科さんには悪かったが、その中で精いっぱいの回答をしてくれたし、そういうカルタ会だの評判も広がってくれた。

 後で早瀬に聞いたのだが、協力を求められたレベルじゃなく、ほとんど脅迫だったと言っていた。でもそれで良かったと思う。今の早瀬では倉科さんへの突撃は難しかった気がする。あの二人がゴリ押ししてくれたから告白に至れたと思っている。

 前に先走って結婚まで考えてしまったが、それは置いとくとして二人はお似合いだ。早瀬なら倉科さんをきっと幸せにするはずだ。最後のあれさえなければ、完璧なのにな。だが、そこだけは早瀬の意見に賛成だ。そんなものをものを狙う相手は願い下げだ。二人が結ばれる運命であるなら、たいした障害ではないはずだ、

 カルタ会に入った時はこれで良いのかの思いもあったが、今は違う。たった五人だが素晴らしい先輩と仲間に恵まれたと感謝してる。そんなことを考えてたら梅園先輩が、

「ところでだけど、団体戦って五人でも出れるけど、八人まで登録できるじゃない。だからなんとか三人会員を増やしたい」
「また幽霊会員を登録するの?」
「違うよヒナ。大会でのサポート役がいても良いじゃない」

 なるほど。選手としての出場は無理としてもマネージャー役ぐらいの位置づけだろう。

「ねぇ、ヒロコ。誰か協力してくれそうな友達いないかな。ムイムイもヒナも、去年に友だちに頼みまくって、言いにくいのよ。片岡君や、早瀬君もあてはないかな」

 梅園先輩は酒が入ると普段よりさらにテンションが上がるから、ボロが出ないうちに二次会場のカラオケに移動。いつもの大暴走があり大盛り上がりした。最後にマイクを片手に大絶叫。

「ヒロコ、片岡、早瀬。一人ずつ引っ張ってこい。このムイムイ様の命令よ」

 う~ん。梅園先輩にレズッ気はないけど、サドッ気はどこかにありそうな。想像したら妙にツボに嵌って笑いをこらえるのが大変になった。