ツバル神話

 小説のストックはまだ半年分ぐらいはあるのですが、今取り組んでいるのが南洋冒険物。これも舞台をどこにするかで二転三転しましたが、選んだのはツバルです。

 ツバルと言っても知っておられる人は少ないでしょうし、知っていても地球温暖化による海面水位の上昇により沈没の危機があるとか、「.tv」のドメインを売って国家財政の足しにしたぐらいかと思います。私もそんなものです。

 それぐらい知られていないので舞台にするのに便利だろうと思ったぐらいです。ここで話に膨らみと奥行きを持たすためにツバルの神話を探したのですが、あははは、さすがのネットでも殆どありませんでした。わずかに研究者の論文に神話の断片を見つけたぐらいです。

 でも妙に興味を引きました。神話の始まりは建国神話みたいなものになりますが、ツバル(正確にはツバルの中のナヌメア環礁の神話です)に英雄テホロハが上陸し、バイとバウの二人の精霊を追い払い国が始まるぐらいで良さそうです。

 これは神武東征の話を彷彿とさせます。テホロハは初代の首長になるのですが、テホロハの子孫が首長を世襲するとなっています。実はこれが今でも続いています。この辺は万世一系というよりも、ナヌメアの人口が今でも500人(ツバル全体でも1万人)ぐらいですから、姻戚関係が重なり過ぎて、住民全員が英雄テホロハの子孫と意識しているからで良さそうです。

 ツバルもイギリス統治時代があり、その時に首長制は衰え、一時は消滅していたようです。独立後に復活しているのですが、首長は品行方正であることが求められ、島の会議でも主宰はしても政治的な発言は慎むとなっています。

 これもなんとなく今の天皇を想起させるあり方です。今と言うか戦前の方がやや近い感じで、会議が紛糾した時に意見を発すれば、それは決定になるとなっているからです。

 もう一つ興味深いのは、首長の他に監督者と呼ばれる役職があることです。監督者の権限は強く、首長への即位の承認権を持っているだけでなく、首長がその地位に相応しくないと判断すれば退位させることも出来るとしています。

 この監督者が出現したのがロゴタウ神話のようです。ロゴタウはギルバート人の襲撃を撃退した英雄とされますが、ギルバート人を撃退した後に首長位を譲り監督者になったとしています。

 ロゴタウ神話から思い浮かんだのは家康です。家康は秀忠に征夷大将軍を譲った後に駿府で大御所となって政治の実権を握ります。ロゴタウが家康、秀忠が首長の関係と見るとすんなり理解できる気がします。日本では家康の死後に大御所家的なものは残りませんでしたが、ツバルでは残ったぐらいでしょうか。

 もう少しツバル神話の材料が欲しかったのですが、さすがに無理そうなので、これだけの話を膨らませて創作させて頂きました。

 それと、これだけの類似性で決めるのは無理がありますが、日本人のルーツの一つに南方系があり、どこかでこんな話が神武東征神話につながってるのじゃないかと楽しんだ次第です。