小説の登場人物はオリジナルの時もありますが、モデルがいる時もあります。フォトグラファーであるシオリのモデルは私の旧友です。実際にフォトグラファーですし、小学校から高校までの同級生です。ただし恋愛関係になったことは遺憾ながら一度もありません。この辺は学生時代のある恋人の思い出をさらに被せさせています。
処女作の恋する歴女の序盤のエピソードも旧友とのものです。卒後17年目の中学のクラス会で旧友と高校卒業以来の再会を果たしたのですが、延々と三次会になっても彼女が誰であるかを思い出せず、散々話をした最後に、
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「ところで誰だっけ?」
彼女は中学ぐらいからアートが志望だったようです。ですから中学も高校も美術部だったはずです。問題は高校卒業後の進路で、彼女はデザイン系の専門学校を考えていたそうですが、担任教師が神戸大教育学部の美術科に押し込んでしまったようです。彼女曰く、
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「失敗やった!」
たしかスーパーのチラシの写真を撮っていたなんて話を聞いたことがあります。このエピソードもオフィス加納のエピソードに使わせて頂いています。
その後が誰も良く知らない時代になるのですが、どうも会社は辞めて独立したぐらいでよさそうです。彼女の事務所の名前だけは覚えていますが、
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sugar cube
開業準備とアートは関係なさそうですが、院内デザインの一つに大きな壁画を描こうの案が出て来たのです。とはいえアート系の知人がいるわけでもなく、思いあぐねた末に彼女を思い出したのです。
そこで紹介してもらったアーティストに描いてもらっています。ちなみに彼女は尻込みして逃げています。まあデカイは、製作費は安いわ、製作期間は短いわの悪条件もあったからもしれません。
開業してから一年ぐらいしてから、これも作っては見たものの、そこの穴埋めに四苦八苦していた、玄関脇のディスプレイ製作を依頼しています。
年に五回程度の模様替えでしたが、四年ぐらい続いたはずです。当時の彼女の仕事として聞いたのは、
- 非常勤の美術教師
- 梅田のヨドバシカメラの売り子
- 名古屋の大学の助手
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音のアート
彼女に転機が訪れたのは高校の同窓会。私は欠席しましたが、彼女は悩んだ末に出席。その時に仕事の話が舞い込み、この仕事によりフォトグラファーとしてブレークすることになります。
ここも知っておられる人がどれほどおられるかわからないのですが、彼女はカメラが一番得意だったそうです。しかしカメラはとにかく競争相手が多くて、カメラで食うのは難しいと言っていました。彼女曰く、
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「カメラなんてシャッターを押せば、そこそこ綺麗に撮れるから・・・」
本当に忙しくなったようで、一年もしなういちに、うちの仕事なんかやってられなくなり、海外での仕事も頻繁にあったようです。会えなくなったのは寂しかったですが、それこそ苦節三十年ぐらいですから、素直に祝福させて頂きました。
そして今年も中学のクラス会がありましたが彼女は欠席。誰もが忙しいからだろうと思い込んでいました。そりゃ、案内のハガキをデザインしたのは彼女だったからです。しかし既に彼女はクラス会に出席できるような状態ではなかったのでした。
七月になり突然舞い込んだのが訃報。そりゃ、もう、驚いた、驚いた。クラス会の直後ということもあり、再び集まったクラスメイトは早すぎる死に涙しました。やっと、これから花を咲かせる時代にやっとなったのにの思いです。
モデルの彼女は亡くなりましたが、作中のシオリは加納志織から麻吹つばさになっても健在です。せめて自分の作中で活躍させてやるのも供養の一つじゃないかと勝手に思っています。そうそう、シオリが大写真家になっている設定は作中の必要性もありましたが、彼女にそうなって欲しいの思いも少しは込められています。
とにかくブレークしてからは殆ど会っていません。小説を書き始め、フォトグラファーの世界を描き始めた時に、一度ぐらい取材をしておけば良かったと後悔しています。
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年年歳歳花相似たり、歳歳年年人同じからず
そうですね、もう十年もしたら、それなりに集まって来るかもしれません。二十年もすればかなり盛会になり、三十年もすれば、こっちに残ってる方が・・・
わたしもまだ「すぐ」には行きたくありませんが、そのうち追いかけます。気を長くしてお待ちください。