三本の尾を曳いた宇宙船は昼間でもクッキリ見えるようになりました。今のところ尾はそれ以上増える様子はありません。コースは今までと同じ、真っ直ぐに地球に向ってきます。途中微調整もあったようですが、それが出来ると言うことは、エラン船が生きている証拠と言えます。
今日も四人で夕食を摂っていましたが、突然ユッキー社長のスマホが鳴ります。かけてきた相手を確認した時のユッキー社長の表情が微かに動きました。
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「そうだ・・・今回もわたしが全権代表になってる・・・わかった。出来るだけの手配を進めておく・・・えっ、聞こえにくいぞ・・・・わかった」
「ユッキー社長、今の電話は!」
「ついにだよ。予定では来週になるそうだ。歓迎式典の準備を始めよう」
生きてる。
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「ミサキちゃん、ディスカルだったよ」
「ユッキー、アダブは?」
「まだ遠いせいか、通信が不安定でね。でもディスカルが電話に出たということは、ジュシュルは一緒じゃない可能性が高いわね」
「ユッキー社長、まだ決まってませんよ。ジュシュルも一緒かもしれません」
ECOも神戸に出張本部を設けたのですが、今回はさすがにクレイエール・ビルを提供する訳に行かず、クレイエール・記念ホールに設置しました。各国代表団との国際会議でユッキー社長は、
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「エラン問題の全権はECOに委ねられております。宜しくご協力お願いします」
言葉だけならこれだけですが、あれほど威厳に満ちたユッキー社長を初めて見る気がします。別に怖い顔も睨みも使っていないのですが、会場は完全に静まり返り。物音一つ立てるのも憚られる感じです。なんの異論もなく、やがて万雷の拍手で賛意を示されたユッキー社長は、
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「今回は不時着状態になる危険性もあり、エラン船着陸時にはポートアイランドから住民は退避とします。中田首相宜しいですね」
前回の時の岡川首相から中田首相に交代しています。ちなみにロシアのメンデルスキー大統領、中国の劉主席は健在ですが、アメリカのジョーカー大統領は再選できずにシェパード大統領になっています。
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「かしこまりました。市街への墜落の可能性は」
「そこまでエランの技術は落ちていません。そういう事態に陥れば海に向かいます」
今回は政府も強権を発動してポートアイランド住民の退避を命じました。これは神戸空港に着陸できたとしても、爆発炎上の可能性が危惧されたためです。着陸予定日前日にはすべての住民は退避し、各国要人も神戸市内や大阪などのホテルに移ります。ポートアイランドに残るのは政府関係者と警察、救助にあたる自衛隊になります。
エレギオンHDも、これまた最近の定番ですが既にシノブ専務は東京支社に動いています。もっとも、
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「留守を任せて頂くのは光栄ですが、イイ男に巡り合うチャンスも潰されるのはちょっと困ります」
「悪い、悪い、次の時はミサキちゃんに留守番頼むわ」
シノブ専務も出番が減ってるものね。さて、
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「ユッキー社長、明日はどこで待ちます」
そしたら不思議そうな顔をされて、
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「空港に来るんだから空港でお出迎えする以外はないじゃない」
「そうや、それが礼儀ってもんや。今回はコトリも行くで」
二人とも、さも当然としてます。もちろん、ミサキもその気です。もし二人が行かないと言っても行く気でした。
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「さて、何着て行こうかしら」
「思い切って、ウエディング・ドレスにするか」
「それ、イイかもね。三人の花嫁が出迎えるって絵になるものね」
あちゃ、考えてる事は一緒か。でもさすがにね、
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「誰かが来てなかったら、ちょっと」
「じゃあ、ミサキちゃんだけにする?」
そう、ディスカルは乗ってる事だけは確実だけど、
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「やってもエエけど、雅の天使モデルやったら白無垢やで」
それもそうだ、
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「かなりの修羅場もあり得るから、スーツにしとこ。動きにくいと不測の事態への対応が遅れてまうし」
「そうだね、ウェディング・ドレスはやっぱり本番で着るものだし」
そう、一世一代の晴れ姿。
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「ご飯はどうする」
「ここでのあり合わせでも喜んでくれるよ」
「あははは、あの三人もエランで辛かったんじゃない。統一食以外の味を覚えてもたし」
明日は生死をかけるぐらいの出来事が待っているというのに、話題はなんとも平和な。いや、この余裕が持てるから、この二人は五千年生き抜いて来れたんだ。ミサキもちょっとは近づけたかな。
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「明日は必要とあらば、女神の全能力を使うよ」
「コトリとユッキーが力を合わせて無理やったら、世界中の誰が頑張っても無駄やで」
そしてお二人はミサキに振り向き、
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「全力を尽くすわ。ディスカルは助けてみせる。そして、ウェディングよ」
「祝辞考えとかないと」
「新居もな。ここで新婚さんが同居じゃ、ミサキちゃんが燃えられへんし」
「そうなのよね、毎晩燃えられたら、こっちがたまんないし」
そんなに燃えません。でも、定番の展開になりました。
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「ミサキちゃんは、こんなお淑やかそうな顔をして激しいからね」
「そりゃ、三十階に響き渡るぐらい」
それぐらい燃えるのは否定しませんが、
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「いえお二人には遠く及びません」