宇宙をかけた恋:浦島伝説

 自衛隊も動けば迅速かつ強力。レンジャー部隊はヘリから降下し、あっと言う間に教団本部を制圧。まあ、相手は丸腰ですからね。ただ二人の確保には、かなり手間取ったようです。

    「自衛隊でも確保できるんですね」
    「まあ、二年ぐらいだから」

 コトリ副社長が、

    「前にアラは最後のカギは無重力って言ってたけど、あれはカプセルで無重力の意味でエエんちゃうやろか」
    「わたしもそう思う。アラは十年って言ってたけど、地球の神は五十年だから」
    「二度とこんな強力な神は現われへんと思てエエやろ」

 つうかあなた方のことなのですが、

    「さてと御対面といこうか」

 ECOの部屋に二人は来て頂いています。もっとも自衛隊がビッシリ警護してますけど。

    「こんにちは、わたしはECO代表の小山です。わざわざ御足労頂いて感謝しております」

 二人の格好は、男はスーツ姿ですが、女は羽衣を付けた唐風のものです。

    「あれを御足労と言うのか。誘拐拉致監禁ではないか」
    「素直に御招待に応じて頂いておれば、ここまで手間はかけませんでしたのに」
    「覚悟しておけ、訴えてやる」
    「どうぞ、ご自由に」

 ユッキー社長は涼しい顔をしています。

    「ところでなんとお呼びしましょうか。乙姫、それとも亀比売ですか」
    「乙姫にしてもらおう」
    「そちらの方は浦島さん、それとも水江さん」
    「浦島でけっこう」

 へぇ、この二人が浦島伝説の主人公なんだ。

    「小山代表、いや小山社長。あの時にわらわの企画を潰された恨みは忘れんぞ」
    「あら、あの程度で済ませてあげたのに。感謝されると思ってましたわ」
    「ここで会ったからには、わらわの力を思い知らせてやる」
    「無駄です。乙姫様とわたしでは大人と子ども以上の力の差があります」
    「うげぇ」

 社長も乱暴な。

    「わかりましたか。大人しく話を聞いてもらいます。今回のエランは地球カップルのエランへの同行を求めています」
    「なに、エランにか・・・」

 顔にあからさま動揺が浮かんでいます。

    「イエスですか、ノーですか」
    「もう少し話を聞かせてくれ」

 ユッキー社長は包み隠さずエランの事情を話しました。あそこまで話してイイのかな。

    「そうかアラルガルはもういないのか。それも地球に亡命して客死とは・・・ジュシュル船長と話し合って決めるにしたいが」
    「お呼びしてあります。通訳は必要ですか」
    「いや、なんとかなると思う」

 ジュシュル船長とは二時間以上話し込んだ末、

    「わらわはエランに帰る。この機会を逃せば二度とエランに戻る事は不可能だ」
    「必要なものはECOが手配します。霜鳥、任せたぞ」

 この後に浦島夫妻に話を聞いたのですが、そりゃ、大変だったようです。

    「宇宙船が故障しエランに帰れなくなった時もショックだったが、まだエランからの救助船が来る希望はあったのだ。それが待てど暮らせど来ず、ついに意識移動装置が稼働しなくなった時の絶望感は言い尽くせない」
    「どうやって」
    「ひたすら念じたのだ。ただひたすらにな。あの時に奇跡が起こったとしか思えん」
 ミサキにはわかった気がします。一度肉体から分離された意識は、その意思だけで自力で宿主を移動することが出来るのだと。それは一種の技術のようなもので、自得するには極限状態の絶望経験が必要なのじゃないのかと。

 一万五千年前のエランからの流刑囚が置かれた環境がそうで、まさにその状態だから自得し、自得した者のみが生き残ったんだ。

 エランでは装置で移動ができるが故に、アラでさえ自得する必要がなく、宿主移動が自力で出来るとは夢にも思わなかったぐらいで良さそう。出来ない、もしくは出来るはずがないの先入観があれば得ることなんて到底不可能ぐらい。

    「永遠の生を得たようなものだったが、これもまた地獄のようなものだと知ることになる。エランからの救助船の期待も千年もすれば薄れ切ってしまった。そうなれば、地球からエランに向かう宇宙船を作ることになるが、そこまで文明が進歩するまでの待ち時間の長さには絶望しかなかった」

 だろうね。浦島夫妻が地球に来たのが奈良時代の初めぐらいだけど、千年しても戦国時代だもの。そこから五百年ぐらいしてやっと月着陸だし。これが時空トンネルを見つけ、それを利用してエランまで行ける宇宙船が作れるようになるまでは、現在からでも千年単位で必要だもの。

    「三十四年前に来た宇宙船がエランのものだとわかった時は狂喜した。問題はどうやって乗せてもらうかだったが・・・」

 エラン人が地球人にコンタクトを取る時の壁が言葉。乙姫はどこからか、エランの技術でも自動翻訳がプアだったことを知ったようです。

    「だから、あのアピールを」
    「そうじゃ、話せることのアピールであった。次が来た時には通訳になり、事情を話して便乗させてもらおうと考えていた。しかし・・・」

 二十六年前の宇宙船は一日でコトリ副社長が制圧してしまい、再び待つことになったみたい。

    「我々の前に常に立ち塞がったのは小山社長だ。三十四年前も小山社長さえいなければ、通訳の話が出て来たはずなのに・・・」

 対立が決定的になったのは、十六年前の浦島事件。あの時は加納さん絡みでユッキー社長は浦島夫妻の策謀を粉砕しています。

    「リスクはお聞きになりましたか」
    「聞いた。三割もないそうだな」
    「最悪、神戸からの離陸の際に空中分解の可能性さえあるらしいです」

 浦島夫妻は、

    「でもゼロじゃない。千七百年待ってたのだぞ。これを逃せばまた千七百年待ってもチャンスはないかもしれない」
    「帰っても今のエランは・・・」
    「それもジュシュルから聞いた。それでも故郷に帰りたいのだ」
 千七百年も待ちわびたチャンスだものね。
    「向こうでの役割もお聞きしましたか?」
    「モルモットでもなんでもなる。まあ、そこまでじゃなさそうだが」
 無事を祈る事しかミサキには出来ませんでした。