怪鳥騒動記:鳥はどこから

 情報が乏し過ぎて、ユッキー社長もコトリ先輩も半分ぐらいサジを投げてる感じ。

    「サジなんか投げてないで。情報が集まるのを待ってるんや」
    「そうよ、無から有は生まれないの」

 そりゃそうだ、

    「ところでアンズー鳥がどうして地球に?」

 そしたらコトリ先輩はノンビリと、

    「まずやけど、エラン人以外には持って来れん」

 たしかに、

    「最初の一万五千年前の植民者はまず可能性がない」
    「どうしてですか」
    「あの頃にもアンズー鳥はおったかもしれんけど、その頃のアンズー鳥はここまで巨大化せえへんやろ」

 なるほど。あそこまで巨大化するようになったのはアラ時代の反政府組織の改造とか放射能汚染地域への適合のためだものね。

    「それとアラ以降の五回も可能性はあらへん」

 これは前に聞いた。メキシコ行ってないものね。

    「持ってきたとしたらアラ時代の地球遠征しかないやろ」

 消去法でそうなるけど三回と見て良さそう。

  • 一回目は浦島が連れて行かれた四八〇年頃
  • 二回目は浦島が里帰りした六八〇年頃
  • 三回目は乙姫が来た時。二回目の五年ぐらい後と考えられてる
    「二回目はともかく三回目にちょっと謎が残る」
    「どういうことですか」

 二回目の時も一回目と似た動きになったとコトリ先輩は見てる。元地球人の里帰りをさせる一方で、地球の動植物の採取を各地で行ったんだろうって。

    「だったら三回目は要らんやろ」
    「それは浦島が夫婦喧嘩のために逃げたからじゃ」
    「いや、それやったらアラなら放置する」

 とにかく神は厄介。それを良く知っているのがアラ。地球に居残りたいなら歓迎だろうって。

    「そやのに三回目やってるやんか」
    「それは乙姫の要請では」
    「かもしれんけど、地球遠征やで」

 コトリ先輩は浦島回収のために、たとえ乙姫の要請があったとしても三回目の地球遠征をやった点が引っかかってるみたい。

    「浦島以外にもおったと見る方がエエと思う」
    「誰ですか?」
    「ケツアルコアトル」

 コトリ先輩が気になってるのはやはり生贄禁止の方針。

    「あの当時の人間が、そんなことを考えるのが突飛すぎる気がするんや」
    「言われてみれば。当時の宗教観では必要不可欠の常識みたいなもんですよね」

 あれを実行できたのはエランで生まれ育ったからではないかって。とにかくエランでは極端なぐらい死刑が禁止されてるところらしいから、絶対に許せなかったんじゃないかって。

    「仮にケツアルコアトルが元地球人で里帰りしとったら、あまりに時間が短すぎる気がするんや。たぶんやけど、宇宙船が地球に来てエランに帰るまで長くて一年ぐらいやと思うねん。もっと短かくて半年ぐらいやと考えてる」

 これは同意。地球に恒久的な基地を作る気はなさそうだものね。

    「それとケツアルコアトルの最後が気になってるんや」
    「最後って蛇の筏に乗って東の海に消えて行ったって話ですか」
    「そうや、テスカトリポカと争ったんだけは間違いないやろ」

 神話の脚色とか、五つの太陽神話とまぜこぜになってわかりにくいけど、図式的にはコトリ先輩はこう見てるのね、

  • ケツアルコアトルは生贄禁止政策を推進した
  • テスカトリポカは反対派の急先鋒だった
    「でもチチメカ族の侵入はもっと後のはず」
    「だから関係ない話やったんちゃうかな」

 もっとトルテカ王国の創設期の話じゃないかとコトリ先輩は見てるのよね。

    「ケツアルコルトルの親父の名前はミシュコアトルやけど、この意味は雲の蛇やねんよ。天の川って意味にもなるけど、これって惑星軌道から降りてきた様子の描写やと考えてる」
    「つまりケツアルコアトルは天から降りてきて神としていきなり君臨した」

 そういう時に父の名前を言うのは古代の習慣だから、ミシュコアトルって言ったのか、伝承としてどこかで取り違えてたかは不明よね。

    「神の命令として生贄禁止令を出したけど、反対者も多くて、その代表格がテスカトリポカだったと」

 とにかく一年やそこらでトルメカ王になるのは無理がありすぎるだろうって。

    「ケツアルコアトルも取り残されたとか」
    「ここがわからんねんけど、ケツアルコアトルは何らかの理由で二回目の遠征の時に宇宙船に戻らず地球に居残ったんやと考えてる」
    「二人も居残り者がいたからアラは救助船を出したですか」

 コトリ先輩はしばらく考え込んでから、

    「そやけど、その時ぐらいしかアンズー鳥の卵をメキシコに持ち込むチャンスがないやんか」
    「それが隠された財宝とか」
    「なら話が合う部分がある」

 ケツアルコアトルはテスカポリトカとの争いに敗れた時に財宝を隠したとなってるのよね。

    「ちょっと待って下さいよ。では『一の葦の年』ってアンズー鳥の孵化を予言したとか」
    「復讐やろな。ケツアルコアトルはなんらかの手段でアンズー鳥の卵を手に入れとってんやろ」
    「でも鑑別は難しかったと」
    「でも不可能とは言うてない」

 どういうこと、

    「しょせんは神ってことだよ。エランに連れ去られた地球人は保護運動でアラがやむなく神にしてるんや。アラやアダブに聞いた限りでは、神になった地球人は穏やかやったみたいやけど、基本は一緒や」
 コトリ先輩の見方がわかってきた。地球に里帰りしたケツアルコアトルは、むくむくと覇権欲が湧き、神としてトルテカ王として君臨したんだ。その要の事業の一つの生贄禁止が時間切れで達成できなかったぐらいかもしれない。

 そこで悔しさのあまりアンズー鳥の卵を置き土産にし、孵化される五十年後に災厄をもたらそうとしたんだ。

    「ケツアルコアトルの伝承の一つに肌は白かったとなってるんよ。これは他の者が白くなかったとの裏返しでエエやろ」

 そこか。エラン人に直接会ってるのはディスカルだけだけど、テレビとかで見たエラン人は地球で言えば白人に近いんだよ。

    「でもケツアルコアトルは帰れて、浦島夫妻はどうして帰れなかったのでしょう」
    「その頃に既に小型宇宙船建造技術がエランでも落ちとったんやと思うんよ。次のアラ以降の時は持っても来てへんし」

 それもそうだった。

    「そうやなくとも、何遍も母船と往復せなあかんやんか。そやからケツアルコアトルは回収できても浦島の頃にはアカンようになっとった気がするで」
    「でも置き去りは可哀想ですよ」

 コトリ先輩の目が細くなって。

    「小型宇宙船の故障がこの時代の宇宙旅行の終焉になったでエエと思う」
    「どういうことですか」
    「小型宇宙船がなかったら、母船が直接着陸せんとアカンやんか」

 なるほど。母船に緊急着陸機能はあっても、やれば船体がかなり痛むんだ。

    「救出用の母船を作るのをアラはあきらめたんやろ」
    「それで見殺し」
    「そういうこっちゃ。浦島夫妻も神やから厄介払いの判断もあったんやと思うで」

 コトリ先輩のケツアルコアトルが地球にアンズー鳥の卵を持ちこんだとするのは、他に該当者がない点で一理あるけど、ちょっと無理あるかなぁ。いくら復讐のためとはいえ災いの鳥を使うのはどうかと思うもの。

    「シノブちゃん、今は事実としてメキシコにアンズー鳥の卵が持ちこまれたで納得せんとしゃ~ないわ」
 たしかに。