怪鳥騒動記:怪鳥、西へ

 ついに怪鳥が動いたんだ。多くの者が予想した通り西だった。もうニュージーランド政府も、オーストラリア政府も抵抗はしなかった。ひたすら鳥が食べのを傍観してる感じ。

    「羊とオージー・ビーフのはしごやな」
    「それにしても家畜とか、農場の農産物関係しか襲いませんね」
    「そういう戦略兵器ってのが、ようわかるわ」
 もちろん畜産物や、農産物だけでなく、倉庫や関連工場も襲われたから被害は大きくなってるよ。ただ戦いはあった。ニュージーランド政府も、オーストラリア政府も何も準備をしていなかったわけじゃなくて、鉱山を利用して食糧を備蓄してたんだ。

 鳥が食べ尽くした後も国民が最低限飢えないようにの計画だったみたいで、軍隊もそこに集中配備されてた。でも鳥はキッチリ襲ってた。守備隊を一蹴した後に、鉱山の入口を崩しまくってた。

    「そんな能力まであるんや。あのデカさじゃ鉱山に入られへんやんか。そやから、入れんようにしたんやろ」

 それも崩せるところまで崩して、食べれるところまで食べて、残りは瓦礫の山で埋めたって感じ。それを見た他の国は落胆し切ってた。鉱山やトンネルなどを利用した食糧備蓄は日本でさえ進めてたから、ガッカリって感じかな。

    「次はどうするんやろ」
    「現在予想されてるのは、タイですが」
    「コメ食うんやろな」

 しばらくオーストラリアとニュージーランドを往復しながらオージー・ビーフと羊をたっぷり食べ、小麦畑を刈り取りように食い尽くしてる様子。

    「コトリ、来るかもよ」
    「中国も核もってるで」
    「インドだってパキスタンだって持ってるよ」

 来て欲しくないけど、

    「神戸に来たらやるわ」
    「そりゃ、危険すぎる」
    「コトリなら少しぐらいは出来るでしょ」

 なんの話、

    「やってみんとわからん」
    「せめて十メートルぐらいに近づかないと犬死になる」
    「だから、ムチャやて。未知数なんてもんやないで。クソエロ魔王の使者の時にあんだけ止めたやないか」
    「あの時とは違う」

 なにを話しているのかと思えば、

    「アンズー鳥に一撃を浴びせる」
    「そんな無茶な! 通用するはずないじゃありませんか」
    「そうでもないわ。一撃には不思議な効果があるのよ。人や物に当たれば衝撃波みたいなものだし、わたしの一撃だって、あの鳥には通用しないと思う」
    「だったら」
    「これが神相手になると違うのよ。宿主を通り抜けて神に当たるのよ。あの鳥は神。それであれば、一撃で鳥の中の神を殺せるはず」

 そうだった。あの鳥は卵の時に意識分離を行われたんだ。

    「でもあの頑丈な羽毛ですよ」
    「そうやで。たしかに神が宿ってる時には一撃は、宿主への影響は失神する程度やけど、それでも宿主を完全に通り抜けるわけやあらへん。あの図体やで、神に届く前に消えてなくなってまうで」

 一撃の性質はユッキー社長の言う通りかもしれないけど、一方でコトリ先輩が指摘する点もあるのよね。というか、これもまた良くわかっていない部分が多いのよね。とにかく使用経験が少ないし。

    「一撃の性質に距離による減衰があるのも確かだわ。コトリのが一番落ちそうで、シノブちゃんの方がマシだけど、コントロールが悪い。そうなればわたしがやるしかないじゃない。でもわたしでも距離で落ちるから、五メートルぐらいには近づきたい」

 ここでコトリ先輩がなにか考えてる。目がキラッと光った気がする。

    「あの鳥は神になる事によって知能を上げてるのは間違いあらへん」
    「そのはずよ。だから神なら一撃は効くはずよ」
    「その前に組めるんちゃうやろか」

 えっ、あのバカでかい怪物と組むって、

    「直接組んだら話にならへんけど、神やったら離れて組めるはずや。鳥の持つパワーは人じゃ相手にならんけど『神 VS 神』やったらこっちの方が強いはず」
    「それって・・・」
    「エランの怪鳥退治やけど、あれからディスカルに頑張って周辺情報を掘り出してもらってるけど、改造品種の味を鳥が嫌ったのは間違いない」

 だから飢え死にした。

    「いや、あれは巨大化防止にしかなってないと見れそうなんや」
    「どういうこと」
    「腹減ったら不味くても我慢して食べとったと見て良さそうなんや」

 それじゃ、飢え死にしない。

    「そうや。アラはエランの最後の方に出現した鳥が神であるのを知った可能性がある」
    「まさか、アラが組んで倒した」
    「アラには神を見る能力はないけど、神を見る探査装置があるんよ。これはある程度神の力を計れるのも間違いない。アラが組めたのなら、コトリでもユッキーでも余裕で組めるはず」

 アラはエランの独裁者。ケツアルコアトル一味のアンズー鳥の卵に対する意識分離も知っていたのは間違いない。

    「でも神を倒しても鳥は死にませんが」
    「問題はそこやねん。おそらくやけど、エランの怪鳥退治は二つの幸運があったと見てエエと思う。
    • アラは鳥が神であることに気づいて組んで鳥の中の神を倒した
    • 神がいなくなった鳥は、今度こそ不味い改造品種を食べられなくなった
    地球では二つ目の条件がやっぱりないんよ」

 そうなると知能こそ低下するものの、あの鳥が食い荒らすのを防ぎようがないなじゃない。

    「いやチャンスはある。神がいなくなれば、鳥の弱点を狙ってのハンティングが可能になるはずや」
    「それって例の詩の解読?」
    「あれは無理や」

 じゃあ、どうやって見つけるの。

    「地球だって無駄に時間を過ごしていたんじゃないんやで。マモル経由で政府情報が入りやすくなっているから、これまでの対鳥戦の戦闘結果を分析してるんや」
    「なにかわかったのですか」
    「とにかく背後に回られるのを嫌がる」

 それは別に鳥じゃなくても戦う時の基本では、

    「これは自衛隊の分析もそうで、米軍もそう見てるでエエやろ。ディスカルも同じ意見やった。ペンタゴン襲撃の時も、帰路を米軍機が追撃した時に、背後に回られ始めたら海中に逃げたぐらいや」

 たしかに背後に弱点はありそうだけど、背後のどこでもイイってわけじゃないだろうし。

    「鳥に弱点があるのはかつてエランでハンティングが行われとったんでわかる。鳥の行動からそれが背後にあるのはわかる」
    「背後のどこですか」
    「わかるはずがあらへんやろ」

 そりゃ、そうだけど、

    「それにもし鳥の神を退治できても、もともとの本能で背後の弱点は守るんじゃないでしょうか。あのサイズと素早さですから、背後への攻撃と言っても」
    「チャンスは一度だけある」

 えっ、いつ。

    「鳥の神を倒した瞬間に鳥の動きは止まるはずや。その時にあるだけの戦力で背後を叩く。運が良ければどれかが当たる」

 無茶だ。あまりにも仮定が多すぎるよ。だって、

  • 鳥が神であること
  • 鳥の神を離れて組んで倒せること
  • 鳥の神が倒れた時に動きが止まること
  • 背後の弱点にラッキー・パンチがヒットすること

 全部だよ、全部が仮定の期待ばっかりで、それが全部成功しないといけないじゃない。それに、

    「組むのは離れてても正面からですよね」
    「背後には回らせてくれんやろ」
    「距離は?」
    「遠くても五メートルぐらいまでかな」
    「神が倒れた瞬間に大砲とか、ミサイルの一斉攻撃があるのですよね」
    「ゆっくり待っとれへんし」
    「鳥の正面にいるユッキー社長なり、コトリ先輩が巻き添え喰らうリスクは」
    「十分にある」

 博打もイイとこじゃないの。

    「対鳥戦は遊びやないで、戦争や。戦争で勝つにはいかに相手の情報を集めるのが勝負のカギや。これを少しでも怠ったら負ける」
    「でも、こんな曖昧な情報じゃ」
    「もう一つ戦争に勝つのに重要なことがある。それは果断や。情報、情報言うても相手の持ち駒が全部わかるわけやあらへん。不確実な情報でも乗る時は乗らなあかんねん。待つことによって余計に不利になることがある」

 それにしても曖昧すぎる。

    「これ以上待っても、鳥に関する情報が増えると思われへん。一方でや、鳥が暴れるほど地球側の戦力は落ちるんや。食糧不足が深刻になって来れば戦力の集中も出来んようになる。今はこれだけの情報で動く時や」

 そしたらユッキー社長が、

    「それしかなさそうね。組めなかったら一撃で最後の勝負」
    「そういうことになるやろ。そやからユッキー頼むは」
    「わかった」
 こんな無謀な作戦、ホントにやるの。