宇宙をかけた恋:混乱続く

 緊急国際会議が開かれたんだけど、今の世界の首脳はアクの強いのばっかりで、大混乱だったみたい。アメリカのジョーカー大統領も相当なんだけど、中国の劉主席、ロシアのメンデルスキー大統領も負けず劣らずらしくて、

    「私こそが地球の代表だ!」
 これで一歩も譲らなかったみたいなんだ。これは国連の安全保障理事会で前哨戦をやっていたから予想はされてたみたいだけど、首脳同士が面と向かって言い争う状況は修羅場だとなってた。

 だからEUのブラゼル代表が出していた地球防衛軍構想も同じ展開になってしまい、誰が総司令官になるかで、

    「私以外に適任者はいない」

 ブラゼル代表は、地球代表と防衛軍総司令官分離案で収拾を図ろうとしたそうだけど、ここで中国とロシアが突然手を組み、中国地球代表、ロシア総司令官案で押し切ろうとしたからジョーカー大統領が激怒、

    「アメリカはアメリカを守る」

 こう宣言して帰っちゃったんだ。ジョーカー大統領が抜けて中国・ロシア案でまとまるかと思ったら、今度はアメリカが抜けたもので第二ラウンドのゴングが鳴り、劉主席も、メンデルスキー大統領も、

    「私が代表も総司令官もやる」

 これも、もめまくった末に、この二人も帰っちゃったんだよ。まったく、子どもの喧嘩じゃないと思うけど、困ったもんだ。米中露が抜けたら今度はインドのシン大統領が、

    「それなら私だ!」

 そしたら、今まで周旋役に回っていたブラゼル代表が、

    「いや私だ!」

 第三ラウンドで大モメ。みんなくたびれ切ったところで岡川首相の、

    「宇宙船が着陸した国が地球代表となり、地球防衛軍構想は無しにする。代表国から要請があれば援軍を送る」

 この提案が結論になり会議は終了。これじゃ、会議をやった意味ないじゃんと思ったけど、ツバサ先生は、

    「結束するのが無理とわかったのが成果」
 もちろんそれで済むはずがなく、ジョーカー大統領は世界各地に展開していた米軍を続々と撤収させちゃったんだ。在日米軍もいなくなっちゃった。そうしたら中国もロシアも撤収させちゃって、自分の国だけを守る姿勢を鮮明にさせちゃった。

 強国の軍事支配がなくなると世界各地の紛争が激化すると懸念されたけど、どうもどの国も軍事支援だけじゃなくて資金援助もやめちゃったみたいで、紛争こそ起ったけど、スケールがグンとダウン。それだけじゃなく、世界各国が自国防衛のために兵器購入に走ったから相場が高騰。ゲリラじゃ買えなくなったんじゃないかとされてた。

 日本国内はそれでも平穏なんだけど、日々せまりくる宇宙船への緊張から、とにかく自粛ムード。アカネが楽しみにしていたお祭りも中止になっちゃったし、バラエティー番組も無くなっちゃった。

 そうなちゃったとしか言いようがないんだけど、とにかく楽しいとか、おもしろいとか、派手は目の仇にされて、叩かれまくられる感じ。ひたすら真面目で、お固くて、地味じゃなきゃならないの空気でパンパン。

    「ツバサ先生、仕事が・・・」
    「予想してたけど早かったな」
 こうなるとフォトグラファーも用無しの仕事の一つになっちゃうんだ。派手めの仕事はキャンセルに次ぐキャンセル。新規の仕事も、まあ、これ以上は無いほど地味な仕事で、なおかつ地味に撮らないといけないから、どうにも盛り上がらない。

 街行く人の服装も実用性重視ばかりで、うっかり軽口も叩けない感じ。これだって関西は随分マシみたいで、東京ぐらいになると笑顔一つするのも気を使うみたい。別に陽気にやろうが、陰気にやろうが結果は変わらないと思うけど、今はどうしようもない感じ。

    「ツバサ先生、これも後一か月ぐらいですよね」
    「違う、そこからが始まりだ」

 前々回の宇宙船団の時には三ヶ月ぐらい地球周回軌道にいたんだものね。地球の戦力じゃ、そこにいる限り手が出せないのよ。今回もそうなる予想は多そうだもの。それから一番理想的な展開は友好使節として下りてきて、トットと帰ってもらうだけど、

    「手ぶらで帰らんだろうな」
    「お土産にケーキぐらいを欲しがるとか」

 ツバサ先生が聞いたところでは、エランの状態は良くないそうなんだ。例のアラルガルが地球に亡命した後に内戦状態になってるはずだって。いかにエランでも地球まで、タダの挨拶目的で宇宙船を送らないだろうって。

    「おカネが欲しいとか」
    「地球の通貨じゃ意味ないよ」

 宇宙船は大きいけど、星単位で考えると、なにを持って帰っても、宇宙旅行代をペイするのは難しいだろうって。それでもやって来るからには、なんらかも目的があるはずだって。

    「ユッキーの予想では、まず交渉で勝ち取ろうとし、それがまとまらなければ武力行使の可能性があるとしてた」
    「でも、武器こそ強力ですが、そんなに兵士は乗れないだろうし」
    「そう考えたいところだが、それだけの兵士と戦力で奪い取れるものと見てるよ」

 なるほど、そう考えるのか。

    「地球側が手軽に渡せるものなら話は簡単だ」
    「第一次宇宙船騒ぎの時のシリコンみたいなものですね」
    「そうだ。でも、今回は一隻だから予測が難しいとしてた。とにかく、こっちにはエランの情報がまったく入って来ないからな」
 柴田屋の極渋茶じゃ無理だろうな。