宇宙をかけた恋:女神の招集

    『コ~ン』

 今日は女神の集まる日。なぜか女神じゃないアカネも顔を出してるけど、逃げたくともマルチーズの刑が待ってるから出席。あれっ、今日は新しいお客様みたいだ。

    「アカネさん、いらっしゃい。紹介しとくね。こっちが霜鳥梢さん。常務をやってもらうわ」
    「じょ、常務ですか?」
    「そうよ、見てもわかんないかな。ミサキちゃんだよ」
    「こ、香坂常務ですか」

 三座の女神だ。

    「こちらが夢前遥さん。専務になってもらうの」
    「もしかして結崎専務」
    「ピンポ~ン、当りよ。シノブちゃんだよ」

 四座の女神だ。これでエレギオンの五女神のそろい踏みだ。

    「二人ともしばらく休学にしてもらってる。さすがにエラン相手に社長業の片手間に対応するのは大変だからね。それと休学中はここに住んでもらうわ。もちろん事件が片付けば花の女子大生に戻ってもらう」

 エレギオンHDもついに臨戦態勢に入るってことみたい。しっかしなんて呼べばイイんだろ。

    「えっと、えっと、香坂常務じゃなかった、霜鳥常務」
    「アカネさんも三十階仮眠室のメンバーになられたそうですから、ミサキとお呼びください」
    「私もよ、シノブって呼んでね」

 なってない、三十階のメンバーなんかになってない。来ないとマルチーズにされるから来てるだけなのに。もう抜けられないんだろうか。そうこうしてるちに、

    『カンパ~イ』

 さすがに五人そろって食べ出すと壮観。料理がみるみるなくなっていく。そしたらユッキーさんは嬉しそうに、

    「ほら、鶏の丸焼きよ」
    「北京ダック焼いてみた」
    「子羊のローストよ」

 次から次へとテンコモリ。そしてガブガブとビールにワインにシャンパン。

    「・・・ミサキちゃんも、シノブちゃんもホントにゴメンね。こんなことはしたくなかったんだけど」
    「とんでもありません。宇宙船の報道があってから、いつ呼ばれるかと待ってました。女神の秘書無しで対応しようなんて思い上がりです」
    「そうですよ、呼ぶのが遅すぎるぐらいじゃないですか」

 そしたらユッキーさんがこれ以上嬉しそうな顔が出来ないぐらいの表情になって、

    「ありがとう。コトリもやったけど、最初はちょっと大変みたい。でも、すぐに慣れるわ。なんとか早く仕事を済ませるつもりだから、そこまでよろしくね」
    「もちろんです。このまま復帰しても構いません」
    「私も」

 そしたら、

    「それは許さない。必ず大学に戻ってもらう」

 そこからコトリさんが二人にこれまでやって来たことと、当面の役割分担の説明に入ったので、

    「ユッキーさん、エランはどうなってるのですか」
    「わかんない部分が多すぎるんだけど・・・」
 ユッキーさんの話も半分以上、訳わかめの世界だったけど、地球も含めて神の発生は、エランの意識分離技術が始まりだって。これも長距離宇宙飛行のために開発されたそうなんだけど、意識を分離して戻すだけで人の能力は飛躍的にアップするんだって。これがいわゆる神。

 ただ神は覇権欲と猜疑心が非常に強くて、そのうえ覇権欲が満たされると享楽欲が出るんだって。アラルガルが亡命を余儀なくされたのもそこみたいで、人を信じることが出来なくなり、享楽欲を押さえることが出来なくなった結果だとしてた。

 アラルガルが戦った千年戦争は覇権欲に燃える神々の抗争だったで良いみたい。千年の戦争の結果、アラルガルは他のすべての神を打倒し、覇権を握り、意識分離技術を封じ込んだぐらいかな。

    「でもね、エランでは大変な兵器が使われてしまったらしいのよ」
    「なんですか」
    「人類滅亡兵器」

 原爆とか、水爆の類かと思ったら、そうじゃなくて、もっと穏やかで、確実なものでイイみたい。世代を経るごとに女性人口が減り、さらに妊娠出産できる女性が減っていくらいしいの。

    「この兵器が使われたことを知ったエラン人たちは、地球への移民計画を立てたのよ」

 計画は二段だったらしく、まずは意識分離装置のために必要なシリコンを地球から持って帰ること。エランでは地球と違ってシリコンが乏しいらしいのよね。そうやって持って帰ったシリコンで意識を分離させ、地球に運び込むのが二段目の計画。

    「意識だけ運んできて、どうするつもりだったのですか?」
    「地球人を宿主にすれば、人類滅亡兵器の影響から逃れられるってところかな」
    「宿主にされた地球人は?」
    「記憶も人格も失いエラン人になる」

 ひぇぇぇ。でもそうならなかったでイイみたい。問題は人を神にする点で、神同士はすぐに覇権争いを始めちゃうんだって。ユッキーさんの予想では、アラ追放戦争、その後の神々の抗争でエランはさらに荒廃し、地球まで宇宙船を送る余力は無くなるだろうと見てたみたい。

    「でも、来ちゃったのよ。アラが言ってたけど、エランを以てしても、あれだけの宇宙船を地球に送るには莫大なエネルギーと、資源が必要で、物見遊山で送り出せるものじゃないって」
    「やはり地球になにかを要求するため」
    「他に考えられないわ」
    「でも一隻でしょ」

 ユッキーさんはお代わりの缶ビールを取ってきて、

    「可能性は二つよ。後続船団があるかもしれない」

 まだ来るのかよ。

    「一隻でも十分積める可能性」

 ツバサ先生が言ってたやつだ。

    「たとえば?」
    「若い女。エランでは子どもを産める健康な女性が貴重品扱いになってるらしいの」

 いやだ、そんな星に連行されて、エラン人相手に初体験して、エラン人の子どもを産むなんて堪忍の世界じゃない。アカネは地球人がイイ。

    「もっとも女だって、せいぜい二百人ぐらいしか積めないと思うから、違う可能性が高いと思ってる」
    「他は?」
    「地球移住のための領土要求はあるかも」

 ジョーカー大統領なら沸騰しそう。

    「ところで通訳の話は来てるのですか」
    「来てるけど断ってる。受けるのは神戸に来た時に全権代表になる時のみよ」
    「神戸に来なかったら」
    「来てもらうさ」
    「全権代表は?」
    「呑んでもらうさ」

 そこから悪戯っぽく笑って、

    「でもねアカネちゃん、別にエランに行ってもイイかなって思ってる。だって、五千年生きてて宇宙旅行やったことないし、異星人とアレやったことないんだもの」

 そういう問題じゃないと思うけど、やってきたコトリさんまで、

    「ユッキーは行ったらアカンで。行くならコトリが行く」

 そしたらミサキさんとシノブさんが血相を変えて、

    「冗談でも口にしないで下さい」
    「そうですよ、私たちとエレギオンHDを見捨てる気ですか」
 なるほど五人そろう必要があるんだ。