宇宙をかけた恋:小銭稼ぎ

 ECOは星際事業であり、星と星の外交関係を結ぶ要の機関になります。見ようによっては地球を代表する機関であり、地球政府代表にもなります。ECOの権限については、

    『対異星外交について失態がないように』
 このスローガンで異様なほど大きくなっています。実質はともかく、建前上は地球上のどの政府、どの機関にも事業協力を命じることができます。この辺はエランの宇宙船が帰るまでの臨時機関的な位置づけもあり、各国の了解を得ています。そのためにユッキー社長は地球大統領的な地位にもいると言えます。

 本来こういう機関ではスポンサーにあたる国々の口出しが大きくなるのですが、ECOでは各国への資金協力を求めていません。エレギオンHDが運転資金も人員も丸抱えでやっています。資金分担がないことを歓迎されましたが、その代りユッキー社長の自在に腕を揮えます。

 エレギオン・グループの負担は大きいのですが、そこは世界不況の時に大儲けした分があり経営的には支障はありません。天文学的に儲かった分の還元ぐらいに位置づけています。慈善事業みたいなものでしょうか。

 主事業の血液事業は、世界的なエラン・ブームのお蔭で順調です。いや、順調すぎて宇宙船に積み込めないほどのものになっています。エラン側の計画では船内の施設で製品化する予定だったそうですが、短期間でこれだけの量になると間に合わなくなっています。

 そこでコトリ副社長はエラン技術担当のアタブと相談のうえ、工場設置にとりかかっています。工場もイチから作ると間に合わないので、倉庫を改築して突貫工事で作り上げています。地球の技術では製品化までは無理なのですが、半製品ぐらいまでは出来る目途がついたからです。

    「ユッキー社長、これも狙っていたのですか」
    「そうよ、あれだけ投資してるんだから、回収もセットじゃないとね」
 狙いはエランの先進技術の取得です。もちろんテクノロジーの差があり過ぎますから、そのままでは使えないのですが、ほんの一部を応用できただけでも莫大なメリットが期待できます。

 エラン技術は他の国も喉から手が出るほど欲しいはずですが、ECOに資金協力していないために口出しが難しく、さらにエラン語が話せるのが世界でたった三人では手の出しようがないというところかもしれません。

    「社長、こういう事態も見通して、あれだけ睨みを利かせていたとか」
    「他に理由がないじゃない」

 国内でもECOの権限は強く、政府でさえ下請け状態です。ECOの要求は、

    『天の声』

 とまで呼ばれています。

    「どうしてエランの商標権を握らなかったのですか」
    「小銭はいらなかったのと、ブームが大きくなって欲しかったから」
 ブームを大きくする狙いはユッキー社長の言う通りだと思いますが、小銭稼ぎには精を出されています。とにかく宇宙船に関する許認可はECOに一元化されており、商標権こそ手を出しませんでしたが、他の事業ではしっかり稼いでいます。

 宇宙船見学ツアーは神戸観光、いや日本観光の巨大な目玉になっていますが、これの主導権を握っているのがエレギオン・グループです。二時間待ち、三時間待ちがザラの展望塔もエレギオン・グループですし、その時間待ちの間の周辺施設の飲食店、土産物屋もエレギオン・グループが殆ど占めています。宇宙船見学ツアーも、

    『特別コース』

 これも作られています。ECOは空港管理も管轄内のため、人数限定で空港内に入れるようにしたのです。空港内はエラン人との会見場所もそのままに残されており、屋上から間近で宇宙船を見ることが出来るだけでなく、船外で活動するエラン人も見えます。料金はビックリするほど高いのですが、もう予約でビッシリ、抽選状態になっています。

    「やはり狙いは」
    「そうよ、これだけ熱烈歓迎の姿勢を見せれば変な気は起しにくいでしょ」
 さらに空港内限定のエラン関連グッズが売り出され、これがプレミアを呼んで高額で取引されたりもしています。このコースの設定は空港内の飲食店からも大歓迎されています。どこも潰れそうでしたからね、

 マスコミはエラン人を引っ張り出したくて仕方がないのですが、これもECOの管轄内です。エラン人への取材自体は無料なのですが、通訳代が目の玉が飛び出るほど高くなっています。

 そりゃ通訳と言っても、エレギオンHDのトップ・スリーであり同時にECOのトップ・スリーです。多忙な業務の間への通訳依頼ですから、

    『それでも割安』
 こう受け取られています。取材依頼は殺到しているのですが、さすがに業務優先で週に一度程度が精いっぱいです。


 これはさすがに一般観光客には無理ですが、船内見学にも出かけました。ミサキは宇宙船の船内に入るのは初めてでワクワクしましたが、

    「コトリ、一緒だね」
    「ホンマに丸きり同じや」

 コトリ副社長は二十六年前に乗り込んでいますし、ユッキー社長も鹵獲した宇宙船の見学をしているのです。

    「アラの言う通り、宇宙技術に進歩はないようね」
    「そんなんより、人類滅亡兵器対策で手いっぱいやってんやろ」

 話に聞くエラン統一食も御馳走になったのですが、

    「これは・・・」
    「食えるって程度だね」
    「これしかないんやったら、エランには行きたないなぁ」

 食べられない事はありませんが、これ以外になにもないのは辛すぎます。

    「でもこれは使えるで」
    「そうね、アタブと相談しといて」
    「よっしゃ、任せとき」

 なんの事かと思えば、この統一食を売り出そうって魂胆のようです。よくまぁ、思いつくものですが、

    「このままじゃ、さすがにだね」
    「その辺はどうせホンモノを食べる機会なんかないから、だいじょうぶ」
 こりゃ、詐欺だ。でも、売り出したら飛ぶように売れてました。まあ、集めた小銭がECOの運転資金にもなってるから、ま、いっか。前に試算したらトントンからやや黒字になりそうです。