宇宙をかけた恋:世情騒然

 三十階で宇宙船の話を聞いてから一週間ぐらいしてから、彗星出現のニュースが小さく報じられてた。扱いは天文トピックスぐらいかな。この時の世間の反応は乏しかったんだけど、一か月ぐらいしてから彗星が地球に接近しそうの続報が出た時には反応があった。

 二十六年前の第二次宇宙船騒ぎと結びつける動きがあったから。コースの類似性からもしかしての興味本位の感じかな。第二次宇宙船騒動の振り返り番組とかもあったんだけどNASAが、

    『あれは間違いなく彗星、地球にもさほど近づかない』

 こう発表して一過性のニュースでおさまりかけてたんだ。ところが今度はヨーロッパ天文局が、

    『地球に大接近する可能性あり』
 こう発表してから盛り上がり始めたんだよ。持ちだされたのは三十九年前に地球に激突したセラーノ彗星。アカネも記録映像を見たけど、九つの壮大な尾を引く昼間でもクッキリ見える大彗星なのよね。あれが再び見れるとなって、世間はあっと言う間に彗星ブームになっちゃった。

 彗星関連グッズが次々に売り出された。彗星パン、彗星ケーキ、彗星ソーダ、彗星饅頭、彗星煎餅、彗星ヌードル、彗星チップス、彗星ビール、彗星カレー・・・そんな商品が溢れすぎて彗星関連商品以外を買うのが難しいぐらい。ツバサ先生は、

    「セラーノ彗星の時がそうだった。歴史は繰り返すってホントだな」

 お堅いはずの柴田屋さんまで彗星渋茶を売り出してたもの。この辺まではまだ平和だったんだけど、ヨーロッパ天文局の次の発表が衝撃的だった。

    『あれは彗星ではなくエランの宇宙船である可能性が極めて高い』

 NASAは真っ向から反論して否定したんだけど、各国の天文台はヨーロッパ天文局の意見を次々に支持していったのよね。これもツバサ先生に言わせると、

    「第一次宇宙船団の時がそうだった。もうすぐNASAも認めるよ。そうしたら・・・」
    「どうなるのですか」
    「三十四年前の時は自粛ムードで大不況になり、オフィスも開店休業に追い込まれたよ」

 その日の朝もアカネは寝坊。コンビニで買い込んだ彗星サンドイッチ抱えて滑り込みセーフ。ただなんか、電車の中もコンビニの店内も変な感じやったの。なにか落ち着かないというか、そわそわしてるというか。これはオフィスでも同じ。いや、オフィス内は騒然って感じなのよ。

    「アカネ、NASAが発表したよ」
    「エランの宇宙船をですか」
    「そうだ」
 この日の報道だけでも凄かった。国会は臨時国会の開催を決めるわ、街頭では変な団体の宣伝活動が活発化するわ、レギュラー番組が根こそぎ吹っ飛んで、NHK教育とテレビ大阪以外は緊急特番で横並びだもの。そうだ、そうだサンテレビも阪神の中継やってた。その状態に油を注ぐ大ニュースが飛び込んで来たんだ。

 第二次宇宙船騒動の詳細は極秘事項として伏せられたんだよね。アカネが知っているのは、神戸空港に宇宙船が強行着陸したものの、乗組員は謎の病気で全員倒れていて保護されたって話になってたんだよ。ところが、

    『神戸の真相』
 こう題された特番では、宇宙船の乗組員は着陸時にも元気で勢い良く宇宙船から降り立って来たとしてた。さらに、その時の映像も放映されたんだ。映像ではその時に一人の若い女性が宇宙船に向かうと、エラン人たちは次々に硬直して動かなくなったと言うんだよ。映像でもそうなってた。

 その若い女性は船内にも入り込み、しばらくしてから出てきて、それから警官隊が逮捕に向かったとなってた。それだけでもビックリ・ニュースなんだけど、エラン人は武器を持って出て来てるって言うんだよ。特番は極秘情報の暴露として、

    『第二次宇宙船騒動のエラン人は地球侵略の意図があったと分析されている』
 ここからは世情が騒然となっちゃった。エラン文明が地球より格段に進んでいるのは、宇宙船を送り込んでるだけでもわかるじゃない。そんなエラン人が地球侵略を行ったら、大変な事になるのは誰だってわかるもの。

 株式市場は世界中で大暴落、海外では暴動のニュースも続々と出てた。緊急国際会議が開かれるとか、国連でも討議されてた。国会でもこの特番の真相を明かすように迫る議論が白熱化してる。

 日本はそれでもまだ平穏だけど、国によっては戒厳令が敷かれたり、政情不安からのクーデター騒ぎや、内戦にまで発展してるところも出てるみたい。まったくなにやってるんだと思ったけど、日本の国会でも、その情報の隠ぺい問題が焦点化して、野党は政権交代、与党は反主流派の倒閣運動で盛り上がってるから変わんないか。

 政府は野党や与党内の追及で、第二次宇宙船騒動の時に真相を小出しににしながら、なんとか宥めようとしてた。前回の宇宙船に侵略意図の可能性があったことも認めながらも、

    『携帯兵器のみで、二百人程度だったから、自衛隊でも制圧は可能だった』

 さらに武装はしていたが、本当に侵略意図があったかは不明と頑張ってた。逮捕されたエラン人を尋問したのはユッキーさんだけど、司令官的な人物が重度の記憶喪失であったために、真の意図は不明であったと答弁してる。世界の関心は次に来るエランの宇宙船が、

    『友好使節なのか侵略部隊なのか』
 これで果てしない論争に突入してる感じ。どっちも大問題で、友好使節であれば誰が地球側の代表として相応しいのか、誰が通訳をするのかで紛糾してるってところ。通訳となればユッキーさんが候補に挙がってくるというか、ユッキーさんしかいないのだけど、とにかく頼みにくい状態。

 第一次宇宙船騒動の時もクレイエール社長だったけど、今やエレギオンHD社長。ユッキーさんに頭ごなしに命令なんて、総理大臣はもちろんのこと、アメリカ大統領だって無理。

 今のアメリカ大統領はジョーカーって人でアメリカ有数の資産家で実業家。かなりエキセントリックな人なんだけど、ジョーカー財閥だってエレギオンHDを敵に回したりしたら大変。いや、アメリカ経済だって大変みたいで良さそう。


 侵略部隊としたら、どこに着陸するかで大論争。また神戸って見方もあるけど、神戸空港クラスなら着陸可能だし、さらに第一次宇宙船団騒ぎの時には砂漠にだって着陸してるから、世界中どこでも可能性があると言えばあるんだよ。

 それを迎え撃つとなれば、これまた大変。そりゃ、クーデターや内戦までやってる国があるから、どうするかで大モメ。ジョーカー大統領なんて、アメリカ本土防衛のために海外展開してるアメリカ軍の撤収するなんて言い出して、これはこれで混乱に輪をかけてる感じ。

 ジョーカー大統領の海外米軍撤退発言は日本も直撃。パールズだったか、ポールズだったかの反戦運動団体が勢いづいて、

    『米軍出て行け』

 この運動が盛り上がったんだ。マスコミも何故か支持してたけど、在日米軍が抜けた後の自衛隊強化にも大反対、これも定番の縮小廃絶の大合唱。でもさすがに宇宙船が確実に地球に来るし、前の二回は神戸。次も神戸だったらどうするかの質問に、

    『宇宙船が日本に来たら酒でも飲んで話をしたらわかりあえる・・・』

 こう答えたもので大顰蹙。さらに、代表になる気はあるかと追及されたら、

    『ボクはエラン語が話せないから・・・』
 まあまだ頑張ってるようだけど、あんまりマスコミにも出て来ない様になってる。もっとも自衛隊強化と言っても、これまた時間がないからやりようもなく、岡川首相もジョーカー大統領を宥めに回ってる様子。

 そうそう、着陸する前に宇宙船を撃ち落としてしまえの意見も出てたけど、これは友好使節の可能性が残る限り無理そう。ジョーカー大統領ぐらいならやりそうだけど、日本なら国会承認やってる間に着陸してしまうものね。もちろん野党は事前承認反対で頑張ってるし。

 まあまあ、毎日宇宙船問題で、ああでもない、こうでもないと、議論ばっかりやってるけど、アカネからしたらなんにもしていない様にしか見えないの。ツバサ先生にも聞いてみたんだけど、

    「あん、前の時もそうだったよ。騒ぐだけで、なにも出来る事がないからね」

 オフィス加納もどうするかの話があったんだけど、

    「宇宙船が神戸空港に着陸するなら休みにする」
 決まったのはこれだけ。後は来てみないとわからないからだって。