宇宙をかけた恋:兆候

 今日も女神の集まる日。アカネもなぜか顔を出してる。ただいつもに較べて緊張感が高いような。

    「・・・コトリ、その情報は確かなの」
    「NASAが認めるのはだいぶ後やろけど、まず間違いない」

 なんの話かと思えば彗星の話。

    「また同じところ」
    「発見位置と言い、コースと言い、他のものを考える方が不自然や」

 ユッキーさんは少しだけ考え込んで、

    「コトリ、準備に取りかかって」
    「もう始めてる」

 ツバサ先生も、

    「到着予想は」
    「三十九年前は一年かかってるけど、三十四年前と二十六年前は半年程やねん。トンネルの太陽系側出口と、地球の公転位置の関係になるけど、今回は半年になると思う」
    「だろうな。三十九年前は地球の公転位置なんか考えるヒマはなかったろうから、今回は最短距離で来るだろうし」

 二十六年前でもアカネが生まれてない時の話になるけど、そんな話が現代社会にあったような。

    「ツバサ先生、もしかして宇宙船?」
    「アカネ、なんてことを。困るじゃないか、明日はロケ撮影なんだよ。天気予報は絶対晴れだったのに、これで雨確実だ。どうしてくれるんだよ。責任取りやがれ」
    「宇宙船が雨でも降らせるんですか」
    「宇宙船は降らせんが、アカネの言ってる事が合ってるからだ」

 ギャフン。そこまで言うか。

    「でも三回っておかしいでしょ。宇宙船騒動は二回のはず」
    「いや、過去に三回で、これで四度目だ」

 三十九年前のものは彗星騒ぎとして記録されてるみたい。そう言えば、お父さんに聞いたことがある。

    「地球が滅亡するとかで大騒ぎになったってセラーノ彗星の事ですか」
    「あれは彗星なんかではない、宇宙船だった」

 ここからの話が三十階のぶっ飛び世界そのもの。彗星はオーストラリアに墜落したんだけど、乗組員は脱出に成功した上で、エレギオンHDに勤務していたってなんなのよ。そしたらコトリさんが、

    「コトリの恋人でもあってんで」
    「恋人って、ま、ま、まさか宇宙人とアレやったのですか」
    「もち。でも相手は地球人やった」
    「はぁ?」

 乗組員の名前はアラって言うのだけど、

    「佃煮じゃないで、公式にはアラルガル。エランの神」

 なるほど神だから地球に来て地球人を宿主にしたわけか。

    「そうやねんよ、宇宙人言うても意識だけで体はタダの地球人。惜しかった」

 そんな問題じゃないような。

    「宇宙飛行士ですよね」
    「そうや、同時に千年戦争の覇者でもあり、エランに九千年の平和をもたらした英雄やねん。アラ・ル・ガルって読むのが正しいんやけど、ル・ガルは現代エラン語でも王であるけど、おそらくエランでは、
    『偉大なるアラ』
    こう呼ばれていたはずや」

 それだけの英雄だったけど、さすがに九千年は長すぎて、民衆の反乱が起って地球に亡命してきたぐらい。あれ、コトリさんの目が赤い。

    「アラはエラン史上でも最高の英雄、いやもう二度と出現せえへんぐらいの英雄。だからコトリの、いや次座の女神の男として認めたんや。アラには次座の女神の男である資格、至高の勇気の証を立てたんや」

 これは『愛と悲しみの女神』に書いてあった。

    「それって、首座の女神の男には勇敢さ、次座の女神の男には勇気、三座の女神の男には信念、四座の女神の男には意気ってやつですか」
    「そうやで。アラほど相応しい男はセカぐらいしかおらへんかったと思う。セカはユッキーがさらっていったけど、アラはコトリのもの」

 五千年、男を見てきたコトリさんがそこまで言うのなら、どれだけ素晴らしい男だったかが何となくわかる気がする。

    「そこまで強い神だったのですか」
    「強さ? そんなん関係あらへん。魂や、ハートがそうなんや。まあ、強さで言えばエランではダントツで最強やったでエエよ」
    「コトリさんでも敵わないぐらい?」
    「そうやな、三秒もあれば余裕で片付けられるけど」

 どんだけ次座の女神って強いんだよ。そう言えばツバサ先生に宿る主女神は、フェレンツェで戦った時には、コトリさんの五倍以上は強くなってたって話だけど、アカネには想像もつかないよ。まさに化物ワールド。

    「アラは生きてるのですか」

 コトリさんの目から涙が、

    「アラはエランから追放されても、最後の瞬間までエランのことを考えてたんや」
    「最後ってことは・・・」
    「二十六年前に神としても亡くなってる」

 ここもわかりにくかったんだけど、エランの神は自力で宿主を移動することが出来ず、装置がないと出来なかったんだって。ユッキーさんならアラを次の宿主に移すことも出来たそうだけど、アラは断って死を選んだそうなんだ。

    「コトリ、来たと言うことは」
    「ユッキーもそう思うか。予想としては二度と来ないと考えてたけど、来たからには覚悟せんとアカンやろ」
    「エラン相手じゃ戦力不足ね」
    「色んな可能性があるけど、とりあえずそこやな」

 ユッキーさんとコトリさんから、もうすぐ大変な騒ぎが起ると言われちゃった。ツバサ先生も、

    「ユッキー悪いけど・・・」
    「もちろんイイよ。オフィス加納もエレギオンの一部だからね」

 ツバサ先生によると三十四年前の時は世界的な大不況になり、オフィス加納も仕事が無くなり倒産も覚悟しないといけないぐらいなったみたい。その時と較べても今のオフィス加納の経営の余裕は乏しいから、そうなった時の支援を頼んだみたい。

    「コトリ、いつ頃になる」
    「まだ不安定やから三ヶ月は待ちたい」
    「時期が悪いね」
    「そうやけど、コトリがいる」

 こりゃ、本気の女神の仕事が見れるかもしれない。普段はニコニコ微笑むだけのコトリさんが、あの知恵の女神とまで呼ばれた次座の女神にしか見えないもの。同じ微笑みでもこれだけ違うんだ。これでユッキーさんが首座の女神の本領を発揮したら、

    「ユッキーさんも怖い顔になっちゃうんですか?」
    「そのうちなるかもね。首座の女神の本当の怖い顔をお楽しみに」
 やだぁ、あんな怖い顔は二度と見たくない。思い出しただけでもオシッコちびりそう。