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「コトリ、だったらイナンナの冥界下りの真相は・・・」
「七つに砕いたアンを冥界に送り込むためやったかもしれん」
「じゃあ、ミサキちゃんが見た七つの門は、アンの残骸を封じた場所」
ミサキちゃんの話によると、冥界の最奥部でナルメルを倒し帰る時には七つの門は廃虚と化していたとなってる。これはアンを封じていた最後の力が失われたって事を意味するでイイと思う。
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「ユダがエンキドゥの秘法の痕跡を見つけたって言ってたけど」
「あれは、誰も見たことがなく、やれる者もいないよ。おそらく冥界から脱出するアンの痕跡やと思うで」
「じゃあ、あの時の最後の縦穴の崩壊が」
「その方が話に合う」
知らなかったとはいえ、取り返しの付かないことをやってしまってたんだ。
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「ユッキー、なに心配そうな顔してるんや」
「だって・・・」
コトリはニッコリ笑って、
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「初代主女神が死ぬ前に遺した言葉を覚えてるやろ」
「もちろんよ、神々の時代は要らないって」
「あれは神が人に対して、どれだけの事をしてたかの意味やないか」
その地球人だって混血率はわかんないけど、エラム基地の末裔である意味エラン人。後から来たエラン人が先に住んでいたエラン人を支配してたと見ることも出来るものね。
アンは天の神としてシュメールに君臨してたのは間違いない。巨大すぎるアンの力は神々、すなわち流刑囚組のエラン人の平和をもたらしたけど、先住していたエラン人にとっては刃向う事の出来ない疫病神だったんだわ。
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「ユダの言葉を信じれば、イナンナはエランでは革命の女神とまで呼ばれてたそうや」
イナンナはその矛盾に気づき革命家の血が騒いだで良さそう。革命家ってある種の理想主義者だから、エラン人がエラン人を支配し搾取する世界をぶち壊そうと考え、絶対支配者であったアンに立ち向かったぐらいだよ、きっと。アンが倒された後にエンリルやエンキが台頭するのも同様に許せなかったから倒したんだわ。
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「でも、どうしてあれだけ扱いにくかったの」
「当り前やんか。革命家ってのは動乱の時代でこそ光るけど、平時には役立たずどころか、むしろ邪魔になるもんに決まってる。倒す相手がいてこそ光るのが革命家ってこと」
エンメルカルから逃げた本当の理由はわからないけど、おおらくシュメールやエラムの地では自分の理想が実現しないと考えたと見て良さそう。イナンナの理想もわからないけど、ひょっとしたら原始共産主義的なものだったのかもしれない。
そう考えるとキボン川流域の豊かな地を選ばず、ビソン川流域の不毛の地にエレギオンを建国したのもわかる気がする。イナンナは富こそ不公平をもたらし、理想を妨げると考えていたのかもしれない。だから、イナンナに取ってエレギオン建国時の苦労は楽しかったのかもしれないわ。
イナンナが記憶の継承を封じた理由もよくわからないけど、後も合わせて考えるとエレギオンの栄えが見えてしまったのかもしれない。それを見たくがないために、あえて封じたぐらいかも。でもこの辺は、もうわからないな。
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「コトリ、イナンナはシオリで復活するの」
「そうやろ」
「だいじょうぶ?」
「だいじょうぶって書いてあるやん」
そうだけど。
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「アンって強いのよね」
「そうなってる」
「シオリで勝てるの」
コトリちゃんはビールをグイッと飲み干して、
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「あの時に主女神は、その力の半分をコトリとユッキーに分けたになってるけど、あれは神の言葉でイイと思う。主女神はもっと強大な力があり、それを封じてるんや」
「そんなもの見えたことないよ」
「そりゃ、見えへんよ。力の差はそれほど違うってことや」
どんだけ! いや、だからアンにも勝ったのかもしれない。
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「シオリちゃんがフォトグラファーなのは、ちょうどイイ気がする」
「どういうこと」
「あれも芸術の一つやんか。芸術ってゴールのない理想を追い続けるようなものやから、革命家にピッタリっておもわへん」
「なるほどね、既存の美を乗り越えて革命を起こし続けるのが芸術とも言えるからね」
わたしもビールをお代わりして、
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「シオリちゃんはいつ来るの」
「明日ぐらいのはずだけど」