フェレンツェでの撮影は妙なことばかり起ったのよ。フェレンツェではイタリア人女優の写真を撮る予定だったんけど、これが変な奴。ことごとくツバサ先生の仕事にケチ付けるのよ。撮影場所だって、
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「ここじゃ、私の魅力が発揮できない」
そのクソ女優が行ったのは変なところばっかり。わざわざ観光名所を外してる感じ。フェレンツェ自体は治安が比較的良くて、安全な街なんだけど、どんな街だって夜になれば危なくなる。
でもクソ女優は夜も撮影を要求するんだ。アカネもヤバいと思ってたら、見るからに胡散臭そうな連中が出てきて絡んできたんだ。男性スタッフが対応しようとしたら、突き飛ばされて迫って来た時にはオシッコちびりそうになったもの。そしたらツバサ先生は、
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「どきやがれ、テメーら邪魔だ」
これは後で知ったんだけど、昼間は市民の憩いの場でもあるそうだけど、夜になると麻薬の密売人も出没するヤバイところらしいのよ。そしたらここにも変なのがいた。訳が分からんこと言いながら・・・もともとアカネはイタリア語がわかんないから訳わかんないんだけど、あれは襲ってきたでイイとおもう。そしたらツバサ先生はまたまた、
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「どきやがれ、テメーら邪魔だ」
その連中もヘタヘタと座り込んで動かなくなっちゃったのよ。なにがどうなってるのかわかんなかった。次の日はさらに散々だった。クソ女優の気まぐれは続いて、
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「ツバサ先生、これでイイのですか」
「女優って、あんなものだから」
歩いて移動してたんだけど突然ワゴン車が止まり、人相の悪そうな男どもがワラワラと。なんだコイツらと思っていたら、クソ女優とツバサ先生に向ってまっしぐら、これって誘拐と思ったらツバサ先生はこれまた、
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「どきやがれ、テメーら邪魔だ」
男どもはツバサ先生に触れるだけでヘナヘナと座り込んで動かなくなり、さらにツバサ先生はクソ女優を連れ去ろうとする連中に手をかけると、男どもは
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「うっ」
翌日は朝から大変で、撮影が不十分だとか、襲われたのはこっちの責任だとか大騒ぎ。クソ女優なんか完全にヒステリー状態で、ついにツバサ先生に殴りかかったんだよ。いや、クソ女優だけでなく、クソ女優のマネージャーとか、付き人みたいな連中も一斉にだよ。
なにがどうなってるのかわかんないアカネだったけど。不思議な光景をまたも見せられる事になった。襲い掛かった連中はツバサ先生に触れるだけで次々にぶっ倒れるんだ。比較的がんばったのはクソ女優だったけど、
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「うぎゃぁぁ」
こう絶叫して倒れちゃった。またもや警察騒ぎ。白昼堂々、衆人環視の下の事件だったから、ツバサ先生は間もなく無罪放免で帰って来た。
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「あ~あ、これじゃギャラは取れそうにないよ」
そしたらまたもや大事件発生。記者会見中にレスラーみたいな大男が突然乱入してきたんだよ。記者会見場にはガードマンもいたけど、それこそ一捻りって感じでツバサ先生めがけて突っ込んできた。記者会見場は大混乱。
でもツバサ先生は座ったまま。アカネとサキ先輩は、ツバサ先生が腰でも抜かして茫然自失状態と思いこんで駆け寄り、
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「先生、逃げましょう」
こう言って手を取って逃げようとしたんだけど、
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「たぶんあれがラスボス。ここで騒ぎは終らせる」
なんとだよ、ツバサ先生は大男が襲ってきたのをガッシと組みとめたんだ。途端に記者会見場の照明が次々に爆発。後から聞いたらホテル中どころか、近所一帯がそうだったみたい。二人は組みあいながらなにか言い合ってたけど、あれは何語だったんだろう。アカネは床にしゃがみこんでたんだけど、目を上げるとツバサ先生が一人立ってて、
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「また警察か。昨日から三度目だよ。もう、うんざり」
大男はぶっ倒れてた。もうこんな街にはいたくなかったんだけど、ツバサ先生が警察から帰って来たのは夜。
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「ははは、取り調べの警官が三回とも一緒だってさ、またお越しですかって言われたよ」
「冗談じゃありませんよ、なんなんですか昨日からの騒ぎは」
「なんだろうね。海外に出ると色々起るもんだねぇ」
「そういうレベルじゃないでしょ。アカネなんて何年寿命が縮んだことか」
「わたしに怒っても仕方ないだろ。喉乾いたから、お茶淹れてくれない。渋くないやつでね」
普通の濃さの紅茶を入れたんだけど。
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「おっ、紅茶でもこれだけ渋くなるのか」
「今日のは渋くありません」
「いや、アカネが淹れるだけで化学変化が起るんだよ」
それしてものツバサ先生のクソ度胸。怖くなかったのかなぁ、
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「記者会見場でラスボスとか言ってましたが・・・」
ツバサ先生は、
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「フェレンツェの騒ぎでローマの仕事もキャンセルになっちゃたんだ。もちろんドタキャンだからキャンセル料は全額しっかりもらうけど。ところでローマで友だちとメシ食う約束してるんだけど、一人連れてってもイイと言ってくれてる。アカネ、サキ、行きたいか」
「御馳走ですか」
「期待してイイと思うよ」