女神の休日:謁見の間

 延々と控室で待たされ続けましたが、

    『コンコン』

 男が入ってきて、

    「ご案内します」

 そこからまた迷路のような館内を案内されて、やたらと重厚な扉の前に、

    「エレギオンHDの小山社長をご案内しました」

 扉が音もなく開き中に。なんだ、なんだ、この部屋は。部屋の飾りつけはひたすら金と赤。入った瞬間の印象はキンキラキン。一段高いところにやたらゴテゴテと飾りつけた椅子があり、これまたお世辞にも良い趣味とはいえない、やたらと飾り付けた女が座っています。ミサキたちが入って来たと言うのに座ったままで、案内してきた男が、

    「こちらが共益同盟代表のアレクサンドラ様でございます。頭が高い」

 ありゃ、すっかり女王様気取りみたい。社長も副社長も知らんぷりしています。にしても代表ってなに、トップは騎士団長のナルメルだったはずなんだけど。さて自分の声を無視された格好の男はさらに言葉を重ねて、

    「頭が高いと言っておるであろう」

 そんなことを聞いちゃいないお二人は、

    「ユッキー、こういう趣味は合わんな」
    「コトリもそうよね。いかにも成金趣味で品が悪いわ。あの安っぽい金メッキって、三昔ぐらい前のラブホテルで流行ってなかった」
    「流行ってた、流行ってた。天井が鏡張りでさぁ」
    「ベッドが回る奴」

 いつの時代の話やら。そんな悪趣味なのが流行ったのはバブル前のはず。ミサキだって、回転ベッドなんて見たことないもの。

    「ところでユッキー、プール付きの行ったことはある?」
    「あった、あった。でもあれ怖かった」
    「どんなんやったん」
    「えっとね、メゾネットになってて、上にお風呂があるんだけど、風呂がビーナスの誕生みたいになってて」
    「そんな風呂もあったよね」
    「そこから流れ出たお湯が滑り台に流れ込んでるの」
    「へえぇ、じゃそこを滑り降りるんだ」
    「それがね、ムチャクチャ急な上に途中で九十度に曲がるのよ」
    「そりゃ、怖いわ」

 あのぉ、なんの話に急に熱中し始めるのやら、

    「えっへん、聞こえないのかな。頭が高いと言っておるであろう」

 お二人は完全に無視して、

    「変わったところやったら、ディスコ付もあったで」
    「へぇ、どんなの?」
    「けっこう広いホールがあってさ、ミラーボールがグルグル」
    「でも、二人でしょ」
    「そうなんよ、素っ裸の二人が踊ってもサマにならへんし」
    「でしょうね。チンチンが上下左右に揺れるのは変な感じだろうし」

 男が裸で踊ったらチンチンは大きいほど邪魔よね。それにしてもディスコ・ブームっていつぐらいだったっけ。マハラジャとか、ジュリアナなんてなくなっちゃったものね。

    「コトリならSMルームも行ったでしょ」
    「行った、行った、鉄格子付きの風呂とかさ、磔台とか。あれは今でもあるで」

 ここまでも暴走だけど、そこまではちょっとでしょう。ここでお二人は共益同盟代表のアレクサンドラの方に向き直って、

    「あんたも行ったことある?」
    「フランスにもそんなホテルあるの?」

 フランスにそんなホテルはないような気が・・・それともあるのかな? そうしたらアレクサンドラは、

    「もう良い、本題に入ろう」

 あんな声なんだ、

    「今日来てもらったのは共益同盟への加盟をしてもらうためだ」

 やっと本題か。ユッキー社長が答えて、

    「なんのお話でしょうか」
    「聞いてないとは言わせない」
    「では約款をお見せ下さい。加盟なり契約には必要でしょう。それとも白紙契約をせよとか」

 ここでアレクサンドラが男に目くばせすると、革表装の分厚い本みたいなものを取り出し、

    「私が要約を説明させて頂きます」
    「時間がもったいないから、読みますわ」
    「これはラテン語で書かれてますが」
    「それがなにか問題とでも」

 社長の読み方。例の猛烈なスピードでページを繰るって奴、

    「はい、コトリ」

 コトリ副社長も出来るんだ。

    「はい、ミサキちゃん」

 そんなスピードでミサキは読めませんが、ミサキが読んでるうちに社長は、

    「わかりました。お断りします」
    「この契約に拒否は無い」
    「御冗談を、無理やり押さえつけて契約させる気ですか」
    「いや、自発的にサインしてもらう」

 ここでユッキー社長は高らかに笑い、

    「それ本気で仰られてますか?」
    「共益同盟の力を知ってもらうのも重要だからな」
    「そんなことを仰ってた方が、ザルツブルグにもいらっしゃいましたが」
    「なに」

 コトリ副社長が、

    「ユッキー、やはり見かけ倒しの雑魚やな」
    「そうね、コトリ任したわよ」

 殺気を感じたのかアレクサンドラは隣の部屋に逃げ込もうとしましたが、ドアノブに手がかかった時点で、

    『うっ』

 一声発してぶっ倒れちゃいました。

    「行くわよ」

 隣の部屋に入ると、えらい殺風景な部屋でしたが、ここにも男がおり、

    「ここは通さん」

 この男は、ミサキでも何か強烈な気配を感じましたが、ユッキー社長は、

    「まともなあんたなら勝てるかどうかわからないけど、今じゃ雑魚。消えなさい」

 あっと思う間もなくぶっ倒れました。ユッキー社長はさらにドアを開き次の間に、

    「コトリ、いよいよ本番よ」
    「よっしゃ」

 その部屋も変わっていて、どう言えば良いのでしょうか、独立した階段室みたいになっています。

    「この階段は?」
    「ナルメルの部屋への秘密の階段よ。やっと御対面できるってこと。手間取らせやがって」

 上からのぞくとラセン状で、かなり下まで続いている様子です。ミサキも一緒になって下って行きましたが、言い知れぬ不安が強くなっています。まるで地獄の底に向ってる不気味さがします。ミサキに何が出来るのか。社長の言い方なら、ミサキの出番はない方が良さそうだけど。