ウィーン国際空港にほぼ予定通り到着。ルッツが手配してくれた送迎車でホテルへ。ホテルではルッツ自らが出迎えてくれて、ディナーはホテルのレストラン・アンナ・ザッハーで。ミサキはそろそろ日本食が恋しくてならないのですが、お二人はパクパクと。
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「日本食なんて帰ったら毎日食べれるやんか」
「そうよそうよ」
ここでもオーナーのルッツが出てきてしばし歓談があったりしたのですが、やがて部屋に戻り、
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「ワインもイイけどやっぱりビールよね」
「どうしてもエレギオン人はビールになるさかいな。ほいでもってオーストリアと言えばゲッサーのメルツェン」
一ヶ月半ぶりぐらいに地面の上で寝られるのはちょっとした感動です。それはともかく、
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「やはり気になったのですか」
「どうしてもね。共益同盟の騎士団長は名前がナルメルってところまでシノブちゃんが調べてくれたけど、そこから先は難航してるみたい」
シノブ専務でもそこまでぐらいしかわからないんだ。
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「ユダとナルメルの関係は」
「これまた不明なの」
「ユダ黒幕説は」
「無いやろ。エレギオンHDを敵に回すのはコトリとユッキーと対決するのと同じ。ユダはそこまでアホやない」
「でもユダの持つとされてるデイオルタス級のカードを駆使してるとか。それでユダと組んで・・・」
コトリ社長はビールを次々と空けながら、
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「ユダのカードは最低限ユダの指示に従うけど、カード同士は仲悪いんよ。それにちょっとでも操作をミスるとクソエロ魔王のように勝手すると見てもエエと思てる」
みたいだものね。
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「ところでやけど、ユッキーとアラッタの主女神のこと考えとってん」
「今さらですか」
「そう今さら、と言うか、こんだけ突っ込んだ話が出来たのは初めてかもしれへん。古代エレギオン時代も、シチリア時代も主女神の話になるとユッキーはまともに話してくれへんかったし」
「そうなんですか!」
「とにかくユッキーは祭祀となると鬼みたいやったし、主女神はコチコチの絶対やったから」
首座の女神時代の社長がどれほど祭祀に熱心であったかは、コトリ副社長からボヤキを含めて何度も聞かされています。
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「コトリもユッキーもアラッタからしか知らないんやけど、主女神も突然湧いて出た訳やないやんか。当然やけど、アラッタ時代の前からおったわけやん。つまり誰やってお話」
社長や副社長の記憶の始まった時期は神々がある程度淘汰され、シュメールやエラムに割拠し覇権を争っていた時代ぐらいの理解で良いと思います。当時の神である王はなるべく他の神に姿を見せないようにしていたとされ、社長や副社長でさえエンメルカルすら見てはいないのです。
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「主女神はいつアラッタに現れたのですか?」
「やっとユッキーが話してくれた」
大神官家に残されていた伝承では、お二人の記憶の始まった二世代か三世代ぐらい前ではないかとされていました。アラッタに突然現れた主女神は王を追放し、アラッタの支配権を握ってしまったとの事です。
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「かなりエゲツなかったらしくて、反抗するものは神の力で血祭りに挙げていったみたいやねん。当時のアラッタ王も神だったみたいだけど神は瞬殺され、宿主の人は犬に変えられ、神殿の番犬にされちゃったって」
「アラッタの主女神とはキャラがかなり違うような」
ここでユッキー社長が、
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「そうでもないのよ。わたしやコトリが知ってるアラッタの主女神は慈悲の塊みたいだったわよ。でも、そこから千年付き合ったけど慈悲深く、恵み深い面と、貪欲で暴虐な面がコロコロ変わって大変だったんだから。まるでジキルとハイドみたいだったの」
ここでコトリ副社長は電話でルームサービスに、
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「ビール頼むわ、二ダース持ってきて」
コトリ副社長が話を引き継いで、
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「あれだけ強大で、二面性が強烈に出るのは一人しかおらへんとなったのよ」
「誰ですか?」
「イナンナ」
シュメールの主要な神は男神が多く、女神は少ないのですが、その中で格別に有名で序列が高いのがイナンナ。日本ではアッカド語のイシュタルの方が有名かもしれない。
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「イナンナは豊饒の女神でもあるのだけど、同時に戦いの女神であり、愛の女神でもあるの。慈悲深い面もあるけど貪欲で、自ら欲するものを手に入れるのに容赦しない面もあるわ」
ルームサービスから届いたビールをラッパ飲みしながらコトリ副社長が、
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「愛の女神と言うより愛欲の女神やろな。旦那以外にも百二十人の愛人がいて、毎日燃えてたってなってるわ。羨ましい話やで。ほいでも愛情が醒めたら、酷い扱いされてたってなってる」
「なんか凄いですね」
「戦いの女神の方も強大で、イナンナに勝る戦士はいなかったとする歌まであったんや」
そんなイナンナから分身したお二人が強いのは当然かもしれません。
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「これはユダの話やけど、アラッタの主女神のエラン時代は革命の女神とまで呼ばれた戦士でありリーダーやったそうや。イナンナのキャラと似てる気がするねん」
もうコトリ副社長は次のビールに手がかかっています。
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「とにかく古い話やけど、とりあえずアラッタの主女神はイナンナでエエと思うねん」
「あっ、そっか、イナンナならウルクにいたことになりますね」
「そういうこと。だからエンメルカルを知っていた」
「でも神同士の共存は無理じゃないですか」
「神同士が結婚した話を聞いたのはアラッタの主女神からだけやねんよ」
それってもしかして、
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「イナンナとエンメルカルは夫婦か愛人関係やってんやろ」
「じゃあ、アラッタに来たのは夫婦喧嘩か愛人関係のもつれで逃げて来たとか」
「わからへんけど、エンメルカルはよりを戻そうとしたのかもしれへん」
コトリ副社長はビールをガンガン飲みながら、
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「イナンナはどうしてエンメルカルから逃げたのでしょうか」
「あの時の主女神は慈悲の塊みたいなもんやったからな」
「もし戦いの女神であったら」
「やってみんとわからんけど、主女神が瞬殺して猫にでも変えたかもしれへん」
ここでユッキー社長が、
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「これもチラッとだけ聞いたのだけど。大洪水の前は平和な時代があったって」
「神々が平和に共存していたのですか?」
「とにかく圧倒的な力を持つアンが神さえ支配したって」
「アンって天の神であり、神々の創始者みたいなものですよね」
「そう、あまりに強大過ぎて他の神は争う気にさえならなかったみたい。争ったのもいたらしいけど、まさに秒殺で、神にさえ怖れられたって感じかな。そのアンがアクシデントで亡くなって大洪水が起ったらしいよ」
天の神とまでいわれ畏怖されてたアンが亡くなってしまい、シュメールに覇権争奪時代が来たってことなのかも。
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「大洪水後はエンリルとエンキが台頭したみたいだけど、これと並び称されたのがイナンナになるの」
ちなみにエンリルとは『エン』が主または主人、『リル』が風とか嵐の意味になり、合せて大気の神とも言われてます。エンキは『キ』が大地なんだけど、知恵の神・水神ともされてます。これはエンキが地下の淡水の海の主とされたからです。
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「エンリルとエンキはどうなったのですか」
「わからないけど、わたしの時代には既にいなかったで良さそう。単に形而上の神として祀られていただけ」
だったら今ならイナンナがダントツで最強とか、
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「エンリルやエンキの行方も含めて、他に知っている可能性があるのはイスカリオテのユダのみ」
「だからわざわざ」
「そういうこと」