女神の休日:ウィーンへ

 いよいよサザンプトンまで二日となった時に、

    「ミサキちゃん悪いけど、ちょっと予定を変更するわ」
    「エジンバラ城でもあきらめたのですか?」
    「そうよ、ストーンヘンジもカージフ城も、カーナボン城もあきらめた。ウィーンに向かうことにする」

 そうなると空路だけどサザンプトン空港からはザルツブルグ行きしかないから、ヒースロー空港からウィーン国際空港に飛ぶのがイイはず。

    「急ぎますか」
    「夜にはウィーンに着くようにお願い」

 とりあえずスーツケース五十個と山のようなお土産。あんなもの持って動けませんから、

    「ウィーンにはスーツケース一個と手荷物程度に絞って下さい」
    「他の荷物は支社ね」
    「空港までも頼んでおきます」

 クレイエール・ロンドン支社に要請して、荷物の引き取りと日本発送、ヒースロー空港までの送迎及び航空チケットの手配を行わせます。

    「飛行機は」
    「サザンプトンからヒースロー空港までが二時間半、余裕を見て三時間とすると、下船時刻が九時予定ですから、空港には一二時頃到着になります」
    「そうなると一三時ぐらいの飛行機だね」
    「ブリティシュ・エアウェイズの一二時四〇分もあるのですが、無理せず一四時二〇分にします」
    「それでイイわ、ランチは機内食でだね。ウィーン到着は」
    「一七時三五分到着予定ですからルッツに頼んでおきます。当日の予定は」
    「ご飯食べて寝るわ」

 いつものようにマリーがいるのですがポカンと眺めています。

    「ミサキさん、何が起ったのですか」
    「うん、イギリス観光の中止と、パリ行きが、ウィーン行に変わっただけのことよ」
    「でもこんな急に・・・」
    「あ、それ。今回は観光旅行だけど、ビジネス旅行の時はよくあるよ。ちょっと手配するからね」

 ミサキはクレイエール・ロンドン支社に荷物の件と航空チケットの手配を頼み、ルッツに電話を。

    「じゃあルッツ、空港に一七時三五分着だから送迎よろしく。そう三人よ、社長と副社長とミサキで。レストランは一九時だろうね。部屋は、えっ、いいよ、いいよ、エキゼクティブじゃなくたって、急だから。レストランも、うん、それでイイ」
    「ミサキさん、どこにかけられてたのですか」
    「ウィーンのルッツのところ。あそこは無理聞いてくれるから」
    「ルッツさんて誰ですか?」

 ルッツとはルッツ・ギュルトラーのことでザッハ・ホテルのオーナーです。宇宙船団騒ぎの時の長期不況の時に経営不振に陥り、買収するかと思っていたら、なぜか巨額の融資で救済してます。その時以来、エレギオン・グループに入ってはいませんが、経営危機を救ってくれた恩人としてあれこれ融通を利かせてくれます。

    「マリー、これも昔は大変で、たとえばサザンプトンからヒースローに行くとすればサザンプトン・セントラル駅から電車を乗り継ぐか、バスの手配が必要だったの。もちろん航空チケットもミサキが手配しないといけなかったんだけど、会社が大きくなって海外支社を利用できるようになってラクチンよ」

 新入社員の頃に当時のコトリ部長やシノブ部長と行ったイタリア視察旅行は大変だったもの。その後は三人で荷物と格闘。出す時よりも大変でした。最後の夜はやはりクイーンズ・グリルで。その後にお別れパーティとかもあったけど、予定通り九時に下船。マリーの父のマイケルまで迎えに来ていましたがコトリ副社長は、

    「マイケル、プライベート・レッスン代は高いわよ。でも今日は急ぐから挨拶はこれぐらいで」

 マリーにも、

    「エレギオンに来る日を楽しみに待ってるわ」

 そそくさとロンドン支社が用意したクルマに乗り込み一路ヒースローに。

    「コトリ副社長、ウィーンってことは」
    「そうよ、ハワイ以来ね。こないチョコチョコ会うことになるとは思わんかった」
    「でも神の会話じゃ」
    「それでも情報欲しいってのがユッキーの判断やねん。ところでミサキちゃん、ウィーン観光やけど・・・」
    「時間あるのですか、なんとなくウィーンの後はパリ直行の気がしますが」
    「そうかもしれんけど、とりあえずザッハ・トルテ食べれるし」
 さすがにユッキー社長は慎重。シノブ専務の情報網はCIA並とも呼ばれていますが、やはり地元情報に敵わないところがあります。とくに裏情報。その辺にヨーロッパで一番強いものね。問題は神の会話であること。神の会話と言えば、共益同盟の大黒幕がユダである可能性すら完全否定できていないし。