アングマール戦記2:作戦開始

 準備が整っていよいよ作戦開始。まず先行したのがクラナリス奇襲部隊。危険な夜間登攀を成功させて高原に潜入。パルルの芸は細かくて流浪人のような格好をさせていた。高原都市では厳しい都市生活に耐えかねて流浪人になるものもおり、これに化けさせていた。もっとも流浪人しては元気すぎるんだけど、少しでも誤魔化せればラッキー程度の期待。

 エルルが攀じ登ったのはパライアとラウレリアの中間ぐらいのところ。そこから北に進み、女神街道を横切りクラナリスに進んでいた。そうそう、街道以外にも道はあるの。ただ地元の人間じゃないと迷いやすいから、メンバーは選んでもらってる。もちろん隊列なんか組んだらバレちゃうから、数人ずつで集合地点に向かわせてた。

 夜から次の日まで歩き通しで、ペラト川を越えてゲラスの野の集合地点で集まったところで休憩。エルルの話では本当に人はいないみたい。女神街道を横切る時に緊張したそうだけど、誰も見かけず、女神街道自体に草がかなり生えかけてて驚いたそうなの。農家もあったけど殆ど無人で、まれに人を見つけてもゲッソリ痩せた老人が無気力そうに眺めてるだけだったと言ってた。

 夜半に起きて、武装に着替えクラナリスを目指したの。ゲラスの野もところどころに森や林があったはずだけど、すべて切り倒されており、目印がなくなっていて迷いそうになったとも言ってた。

 夜明け前にはクラナリスの城門を臨めるところに進出したんだけど、驚いたことに城門は開けっ放しだったみたい。エルルはそれを見て襲撃を決断したの。さすがに門番はいたけど、あっと言う間に始末して城内に侵入。

 完全な奇襲になったみたい。そりゃ、そうで最前線ははるかザラスで、こんな奥深くにエレギオン軍が現れるなんて夢にも思ってなかったみたいで良さそう。さらに、エルルの感想だけど数は三百人以上いたらしいけど、直属軍とはいえ補給部隊で良さそう。エルル曰く、

    「少年と老人ばかりでした」
 これはシャラックがシャウスを落とした時の感想を裏付けるもので良さそう。戦闘用の前線兵にも少年と老人が混じってたとしてたから、補給部隊なんてなおさらってところで良さそう。エルルは一時間ばかりで敵の補給部隊を追い散らすのに成功した。ここもコトリの指示で、殺すより出来るだけ追い散らしてくれと言ってある。そうすれば、クラナリスにエレギオン軍が現るの情報がマウサルムのアングマール軍により広く伝わるから。

 クラナリスはやはり物資の集積所になっていた。エルルはそこに大量の油壺を見つけて、それを利用して火を放ったの。盛大に燃えてくれたみたい。ここまでの仕事を済ますとエルルは、

    「さあ帰るぞ。ぐずぐずしてたらアングマール軍に皆殺しにされるからな」
 エルルは帰路をラウレリアに向かう女神街道を選んでた。来た時の感触として、ほとんど使われていないと判断したみたいなの。それに重要拠点のクラナリスにさえあの程度の戦力しかいないのであれば、たとえラウレリアのアングマール軍に迎撃されても大したことはないだろうって。

 ラウレリアも廃虚だって言ってた。わずかにいたアングマール軍はエレギオン軍が見えるとイートス方面に逃げちゃったみたい。エルルは帰路の崖下りに際して、いくつかポイントを用意させてた。ラウレリア方面にもあり、それを利用してほぼ無傷で作戦を終えてくれた。

 コトリとユッキーはマウサルムに派遣していた偵察部隊の報告をジリジリしながら待っていた。シャウスを出撃するのは、マウサルムからクラナリスに敵の援軍が出てからにしたかったの。果たしてこの作戦に魔王が乗ってくれるか、乗ってくれるとして、どれぐらいの軍勢を向かわせるかに成否はかかっていたの。

    「報告します。マウサルムより騎馬隊がクラナリス方面に向かいました。その数、およそ五百」
 まず速度重視で騎馬隊が出たよう。とりあえずクラナリスに駆けつけようぐらいかな。五百も出てくれたらかなり助かると思た。
    「軽歩兵部隊が出撃、およそ千五百」
 千五百は本格的や。最初が騎馬隊で、次が軽歩兵部隊だから女神街道での混乱を避けようの狙いはわかる。問題は重装歩兵部隊を出すか出さないかだわ。そこに待望の、
    「報告、敵重装歩兵部隊が出撃、クラナリスに向かいます。およそ五千」
 これを聞いたコトリは、
    「全軍出撃、ザラスに向かえ」
 よっしゃ、ザラスだけじゃなく、マウサルムからも魔王を追っ払ってやる。