イッサ上席士官の声で我に返ったの。
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「次座の女神様。戦況は少々不利なようでございます。敵軍との距離を少し取った方が良いかと存じます」
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「次座の女神様が自ら剣を揮うほどの相手ではございません。とりあえず少し下がられた方が宜しいかと」
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「次座の女神様、もはや支えきれません。御落去お願いします」
「何を言う、この期に及んで!」
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「イッサ次席士官、リュース次席士官。お前ら飾りか! この期に及んで未だ次座の女神様をお落としされていないとは。恥を知れ」
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「今一度、私の命で時間を稼いでみせます。リュース次席士官、女神の男の勇気をお示し下さいませ」
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「いざ落ちましょう」
「私だけが生き延びる訳には・・・」
「ウレの命は廉くはありません」
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「リュース。次座の女神様はお任せした。少し時間を稼いでくる。ウレ一人じゃ寂しかろう」
「なにを言うのだイッサ。ここで勇気を見せずして、どこで見せると言うのだ。私も行く」
「違うぞリュース。本当の勇気とは、ここで次座の女神様をお守りすること。リュースの命の捨て場所はここではない。ここはイッサが引き受ける。お前は誰の男なんだ」
「すまん、イッサ」
「先に行って待ってるぞ」
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「待てリュース。次座の女神が逃げてどうするのだ」
「違います。ここで逃げ延びないと意味がありません。次座の女神様は知恵の女神。この一戦で学ばれた事を活かして下さい。そうでなければゲラスの野で死んだ者たちが無駄死になります。この死を活かせるのは次座の女神様のみ」
そうやってウレとイッサの死で以て稼いでくれた時間でコトリは逃げに逃げたのよ。でもウレやイッサとてアングマール王の敵ではなかったの。それぐらいアングマール王は強いのよ。ズタズタにされなからも息がある限り二人は戦い続け、そして死んじゃった。
アングマール王の追撃は執拗だった。コトリたちも馬だったけど、アングマール王の馬の方が早いのよね。このままじゃ追いつかれるのも時間の問題ってところ。そしたらリュースは、
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「次座の女神様は至高の勇気を示す者のみに、真の微笑みを与えたもう。主女神様は我にその機会を与えたもうた。皆の者、我に続け。アングマール王を倒し、ゲラスの野に散った戦友たちの手向けにせん」
「ダメ、リュース。一緒に逃げるの。次座の女神の命令よ」
「次座の女神様の御馬はエレギオン一の俊足。軽装の次座の女神様ならアングマールの馬では追いつけません。我らこそ足手まとい。少し時間を稼いで参ります」
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「リュース・・・」
コトリは自分の男のリュースだけでなく、ユッキーの男のイッサまで犠牲にして生き延びてしまったのよ。リュースやイッサだけなく、ウレやたくさんの兵や士官が屍の山を築いてくれたお蔭で生き残れただけ。激しすぎる自己嫌悪にさい悩まされたわ。とにかく被害は甚大、テベスとゲラスの二戦でエレギオンも同盟軍も戦力の殆どを失ってしまった。
でもアングマールはマウサルムまで追撃して来なかった。もしされたら、ロクな戦力が残っていないマウサルムは落ちただろうし、コトリだって生き残れなかったと思う。アングマールはマウサルムには向かわずラウレリア向かった。
翌日にはマシュダ将軍が率いる増援軍がマウサルムに入城して来てくれた。コトリはひきつった顔で出迎えたんだけど、マシュダ将軍は、
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「次座の女神様。とりあえずエレギオンにお戻りあれ。この状況でさらなる決戦は不可能。私はマウサルム、さらにはシャウス、ハマとどんな手段を使っても時間を稼いでみせます。微笑みの女神の微笑み無くしてアングマールには勝てません。知恵の女神の知恵無くしてアングマールに勝てません」