アングマール戦記:対騎馬戦術(2)

 ここまで五年間で漕ぎ着けたけど、いつ休戦状態を破るかが問題ってところになってる。これについてはユッキーと相談を重ねてる。まず一番の問題はアングマール軍が全体でどれだけいるかの推測やってん。

    「コトリ、とりあえずクラナリスに一個軍団はいると見て良さそう」
    「ラウレリアにも、それなりにいるとみて良いと思う」
    「後はわかんないな。たぶん山岳三都市とズダン要塞で一個軍団ぐらいはいそうな気がする」
    「これに本国軍が加わるとなれば四個軍団ぐらいが相手になるとか」
 ズダン要塞や山岳三都市を抑えられてしまっているから、アングマールの情報が入りにくいのよね。だから推測を重ねないと仕方ないんだけど、
    「でもユッキー、相手は四個軍団で済むやろか」
    「なんとも言えないけど、今回の休戦状態でアングマールの弱点が一つだけ見えた気がするの」
    「そりゃ、嬉しいけど、どこ?」
    「魔王が兵を動員できるのは従属国だけじゃないかと思うの」
 魔王のやり方は強権主義でもあり恐怖主義であると見て良さそう。従属国はおおよそアングマールの近くにあった都市だけど、事実上のアングマール直轄領になっていると見て良さそう。これが首都アングマールを加えて五都市ある。
    「だったら五都市分の動員がアングマール軍のすべてとか」
    「だってコトリもやったからわかると思うけど、レジョンをそう簡単に叩き込めないと思うのよ。前の時だって、ズダン要塞かカレムあたりに後詰の一個軍団ぐらいいたかもしれないけど、実質はイートスからラウレリアに進んだのと、クラナリスからゲラスに進んだ二個軍団だけだったじゃない」
    「でも五都市にフル動員かければ・・・」
    「対エレギオン戦のためにそうしてると思うけど、全軍団がズダン峠を越えられないはずよ。隷属国が大人しくしてないと思うの」
 アングマール王の隷属国への扱いは苛烈の一言で説明できると思うわ。隷属の『隷』は奴隷の『隷』と同じぐらい。クラナリスやラウレリアがどうなってるかの情報はそれなりに入って来るけど、重税なんて甘いものじゃなくて強奪みたいに軍費を搾り取るし、ちょっとでも逆らえば容赦なく殺される。

 かなり頑張って最後まで抵抗したラウレリアなんて三分の一ぐらい殺されたんじゃないかと言われてる。若い女は例の魔王のエロ処刑のためにかなりアングマールに連れ去られたらしい。

    「アングマールは従属五都市の他に隷属国を十五都市以上は持ってるけど、少しでも機会があれば反乱を起こすと見て良いと思うの。王の代替わりなんてチャンスだから、次々に起った反乱を鎮圧するのに五年かかったと見るべきだと考えてる」
    「そうなると・・・」
    「コトリ、これはあくまでも推測よ。アングマール軍が仮に六個軍団持ってるとするでしょ。そのうち二個ないし三個軍団はズダン峠の南側に対エレギオン戦用に貼りついてるわけじゃない」
    「じゃあ、アングマール本国には三~四個軍団ぐらい、いることになるね」
    「アングマールの隷属国は広い範囲に点在してるから、これの反乱を鎮圧するにはちょっとした遠征が必要ぐらい。そしてここが肝心なのだけど、遠征で本国をカラッポに出来ないの。常に一個から二個軍団ぐらいは常駐しておく必要があるのが自然だわ」
    「そうなるとアングマール軍がエレギオンに投入できる兵力は目一杯でも五個軍団程度が限界ってこと」
    「現実的には前回と同じ三個軍団で、さらに前面に立ってくるのは二個軍団ぐらいの可能性はあるわ」
 たしかにここまで漏れ聞く情報では、アングマール王が信用を置いているのは初期に制圧した従属五都市ぐらいで、それから以降に占領した都市にはまったく信用を置いていないと見て良さそう。軍費や食糧の調達には使うけど、兵力として組み込む発想は乏しいとしか言いようがないものね。
    「この推測も蓋を開けてみないとわかんないけどね」
    「そうだね。でもその推測が当たってくれないと厳しすぎるわ。だって、あんなに強いアングマール軍が十個軍団もなだれ込んで来たら、絶対勝てないもの。エレギオンは五年間頑張ってやっと三個軍団になるかならないか程度だもの」
 ここでユッキーが少し考え込んで、
    「いくつか相談があるんだけど、これは明日にしたい」
    「珍しいね、ユッキーが後回しにするなんて」
    「ちょっと考えがまとまらなくてね。じゃあ、おやすみ」